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君と歩くいつか一つになる旅路で②




 ◇ ◇ ◇




 シノハラシティはテエリク大陸中西部に位置する都市である。


 マヨを拾った大陸西部と比べると、大陸の中部から東部にかけては、ケーワコグ共和国解体戦争での戦闘の舞台となった場所も多く、シノハラシティにも銃砲の弾が何発もいかずちのように降り注いだ。


 その爪痕つめあとは今でも少し残っている。街を歩くと、せっせと開店準備をしているレストランの隣に瓦礫がれきの山が残っている、といった光景もちらほら見かける。


「最初は用心棒染みた仕事してたんだけどねー、成り行きで反乱軍に手を貸すことになって、この街の防壁の上で狙撃銃構えてさ。そっから反乱軍に参加していたレトリバーのオヤジに誘われて、共和国軍と戦いながら――」

「ってことはここ出身?」

「そ、ナシタとは幼馴染おさななじみ


 レトリバーのチーフメカニック、タック・キューに自分の経歴を話すリンコ。シノハラシティに着くとレトリバーのクルー達は各々、街へと出かけて行った。カリオやニッケル、マヨとミントンもリンコと一緒に街を歩いていく。


 街の至る所でビッグスーツがまっているガレージを見かける。この街にはフリーの傭兵ようへいとして働く者も沢山いるようだ。街の組織からの仕事をそのままけ負う者もいれば、フリーの地上艦乗りと一時的に契約して外部の仕事におもむく者もいる。


「結構戦いで生計立ててる奴等も多くてさ、私も小さいころから周りの大人達を手伝っていたら、あれよあれよという間にこんなんになっちゃって――」

「アンタの話はそこまでよ、赤モヒカン。彼氏のナシタって人の店、そこじゃない?」




 不機嫌ふきげんそうな声色のミントンが通りの先を指さす。一同がそちらに視線を移すと「マンガニク」と書かれたレストランがあった。


 オリーブ色のエプロンを付け、栗色の短髪のすらりとした男性がテラス席を清掃せいそうしている。


「ナシター!」


 エプロンの男性――ナシタ・ナッシュはリンコの呼ぶ声に気づくと、そちらへ顔を上げて、笑顔で手を振り返した。


 リンコはナシタに駆け寄ると思いっきり抱き着く。


「お帰り、リンコ。久しぶり!」


 ナシタはリンコを抱き返す。


(クソッ、思ったよりイケメンだな……)

「クソッ、思ったよりイケメンだな……とか思っただろミントン」


 タックに心の中の声を一字一句たがわずに当てられたミントンは、タックのふくらはぎを蹴った。


「久しぶりだなナシタ、調子はどうだ」


 リンコの後に続いて歩み寄るニッケルがナシタに声をかける。


「お久しぶりです。街では何回か危ない事件とかありましたけど、僕はこの通り無事に過ごせています……ってカリオさん子供いたんですか!?」

「違わい。コイツは……なんて言うんだ? ワケあって居候いそうろう?」


 カリオに肩車された状態のマヨは、いたずらっぽくカリオの頭をわしゃわしゃする。


「久々にこちらにいらっしゃるって聞いてうれしかったんですが、すみません大して出迎える準備もできてなくて……急ぎでA5ランク南テエリク牛とシマシマガツオとヤマネ・コンティを仕入れたんですが――」

「いやいやいや! そんな気つかわなくていいのに! 連絡急だったのによく仕入れられたなそんなもん!」


 カリオとニッケルは驚きつつ、ツッコミを入れる。


「一週間かもうちょいぐらい滞在するから、リンコとゆっくりしててくれよ」

「ありがとうございます。でもやっぱり今夜の夕食には来てください。腕によりをかけてディナー作りますよ。それに貸し切りにしちゃおうかと――」

「いやいやいやいや!」


 とりあえず貸し切りは遠慮えんりょし、夕食はご馳走ちそうになると伝えて、リンコをナシタに預けると一同は街へと戻った。


「今日は昼過ぎから開店するから、それまで部屋でゆっくりするかい?」

「うん!」


 リンコは嬉しそうに返事するとナシタのくちびるに軽く口づけした。




 ◇ ◇ ◇




「いやーしかし……」

「相変わらず出来た人間だよなナシタ……」


 街を歩きながら真顔でそう話すカリオとニッケル。ナシタと初めて会ったミントンはまだ興味津々《きょうみしんしん》だ。


「なんかすごい真面目そうな人だったけどやっぱそうなの?」

「そりゃなあ」

「自分より他人を絵に描いたような男だ」


 カリオはゆっさゆっさと体を揺らして、肩の上のマヨをあやす。


「今日にしたってアイツの店、高級店ってなワケでも裕福ゆうふくってワケでもねえのにバカ高い食材やら仕入れやがって……大丈夫かよ」

「それにまだやってるんだろ? 貧困層の支援活動とか。この街以外でもやってるとか言ってたぞ」


ひぇーと声に出したミントンだったが、ある疑問が頭に浮かんであごに人差し指を当てた。


「リンコさ、いいのかな。あ、いやこれはホントにねたみとかじゃないよ? 私は五か月前くらいにレトリバーに乗ったばかりだからよく知らないけど、今回の休暇終わったらさ、また数か月離れ離れになるんでしょ?」

「それなあ」


 カリオの肩の上で、マヨはぼーっと道の横に並ぶいろいろな店を眺めている。


「俺らもいいのか? とか聞いたことあるけど大丈夫だって。あんまり踏み込むのもデリカシーなさそうだし、それ以上は聞いてねえんだけどよ」

「そうなんだ」


 ニッケルがマヨのほっぺをつつきながら、カリオとミントンの話に続く。


「ナシタにもレトリバー乗ってみねえか? って誘ったことはあるんだけどよ、『今はまだ街でやることあるので』って」

「えーそうなの!? 私だったらあのイケメンでも我慢できる自信ないなぁ」


 ミントン達が話していると、マヨがはしゃぎながら一軒の店を指さす。カリオ達はうながされるままに、そちらの方へ入っていった。




(君と歩くいつか一つになる旅路で③へ続く)



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