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君と歩くいつか一つになる旅路で③




 ◇ ◇ ◇




「クロキシティの依頼かぁ、そんなことが……」

「まあ私は怪我けが軽かったんだけどねー」


 夜、レストラン「マンガニク」の店舗上階にあるナシタの部屋。カリオ達とのディナーを終えたリンコとナシタはソファに座り、肩を寄せ合いながら話をしていた。半年間、携帯通信機でのやり取りのみで、顔を合わせるのは久しぶりだ。聞きたいこと話したいことは沢山ある。


「……」

「もしかして、心配してくれてる?」

「うん、だって死ぬとこだったじゃないか」


 ナシタは即答した。リンコは苦笑いしながら少し伏し目がちになる。


「ゴメンね、気遣きつかわせちゃって」

「謝らないで」


 ナシタはリンコの頭をでる。


「ともかく無事でよかった。リンコは強いね、ホントに」

「周りの人に恵まれてるだけだよ。もちろんナシタがナンバーワンだけどね。あ、そうだ。周りと言えばさっきの子、マヨなんだけどさ――」


 二人は時々、小さく笑いながら語り合う。


「ナシタはどう? 炊き出しとかの調子は?」

「うん、いい意味でいそがしくなってきたよ。手伝ってくれる人も増えて、他の街での活動も増えてきたんだ。最近になって協力してくれるようになった企業がさ、大量に被支援者を雇用してくれたこともあってさ――」


 ランプのつつましく、あたたかい光がともる部屋で、彼らの話は続いた。時間が過ぎるのが早いとも、このまま永遠に朝は来ないかもしれないとも感じられるひと時だった。


「リンコ」

「んー?」

「僕さ――」




 ◇ ◇ ◇




「そんなに上手くいくかねえ」


 街から離れた位置に、数軒のくたびれた建物が集まる場所があった。


 その薄暗い室内。大柄な、ノースリーブにダブルモヒカン、瞳が白いサイバネ義眼の男が葉巻を吹かす。


「ビッグスーツと地上艦が山ほどあるお宝の山から目を背けるか? 一発大打撃を与えてやれば、後はあさり放題だぞ」


 ポニーテールの細身の男が、テーブルを挟んだ向かい側で手の爪をやすりでけずりながら答える。


「こだわるねえ」

「今の大陸の惨状さんじょうを生んだのは反乱軍だ。あの街もその一部」

「……出立は明日の朝か。なあ、それまで俺はこの兄ちゃん達に銃口向けられっぱなしなのか?」


 白眼のダブルモヒカン男――ネコゼ・セボは自分が座るソファの後ろに立つ、ライフル銃を構えた男達を指さす。


「……部屋を用意しておいた。そこに居てくれれば、兵士は部屋の外で待機させておく」

「へいへい、随分ずいぶんお優しいクライアントさんで」


 ネコゼが立ち上がり、指示された部屋へ向かう。ポニーテール男――ガニマ・ターは削った爪を眺めていた。




 ◇ ◇ ◇




「ん~っ」


 リンコはベッドで体を起こし、欠伸あくびをしながら体を伸ばす。ナシタの部屋のベッドで寝ていたリンコは、差し込む日の光に目を細めた。


 一糸いっしまとわぬ姿の彼女はベッドのとなりを見る。一緒に寝ていたナシタの姿はそこにはない。朝食の準備だろうか。何にせよナシタはいつもテキパキと行動し、先回りして色々な用事を済ませてくれていることも多い。


 ベッドから出たリンコは、服を着て、すっぴんのまま階段を下りていく。




「んあ、リンコおはおぐえす」


 レストラン内のカウンター席で、マヨが朝食のフレンチトーストを頬張ほおばりながら挨拶あいさつする。


「ちゃんと飲み込んでからしゃべりなマヨ」


 リンコは笑いながらマヨのひたいをつつく。


「朝食までご馳走ちそうになっちゃって悪いな……と言いつつめちゃくちゃ美味うまいし明日も頼みそうだ」

「ぜひぜひ、毎日来てください」


 ナシタがカウンターのニッケル、カリオと談笑しているのを見て、リンコは壁の時計を見た。午前の九時を過ぎたあたり。ひどい寝坊ねぼうというわけではないが、やっぱりナシタの方が随分ずいぶん早い時間に起きたようだ。


「朝ごはん、手伝えなくてゴメンね」

「そんなの全然いいって。リンコの分もあるから食べて」


 リンコも席について雑談に交じる。いつものメンバーにナシタが加わって、一段と楽しい時間に感じる。




 しばらくしてリンコ達はふと気づく。店の外が少し騒がしい。


 外に出てみると、様々な機器を入れたポケットが沢山ついた制服を着て、手に銃を携えた治安部隊が辺りを見回っている。


「アレー? なんかあったのかな」

「んーむ、久々かなぁ。治安部隊の人あれだけ沢山見るの」


 リンコとナシタがそう話す後ろから、ニッケルが声をかける。


「後で俺らが聞いておくからおまえらはゆっくりしておけよー、今日は出かけるんだろ?」


 リンコとナシタはそれを聞くと、お互いに目を合わせる。


「まあ確かに久々だけど、珍しいってワケでもないし大丈夫っしょ」

「そうだね」


 二人はまた店内へと戻っていった。




 外の治安部隊員の一人が、仲間と無線で通信を取る。


「B4区画、ガニマ・ターらしき人物は見当たらない。『グリーン・ユートピア』の他のメンバーの情報があったら教えてくれ」




(君と歩くいつか一つになる旅路で④へ続く)



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