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君と歩くいつか一つになる旅路で④




 ◇ ◇ ◇




 朝食を終えて少し経った後、リンコとナシタは買い出しに出かけていた。


 その帰り。


「あんな感じでニッケルに甘えちゃったけど……」


 リンコとナシタは食材が入った大きな袋を抱えながら、道端みちばたでたむろする傭兵ようへい達と話していた。


「こう傭兵が多い街だと否が応でも情報がさ、結局入って来ちゃうよねー。そっかぁ、『グリーン・ユートピア』絡みで治安部隊さんピリピリしてたんだ」

「グリーン……って、あのテロリスト集団の?」

「うん、テロリスト集団。何度かそれ関係の仕事、したことあるの」


 リンコがそう言うと、筋骨隆々《きんこつりゅうりゅう》のコーンロウヘアーの傭兵が話を補足する。


「治安部隊連中はまだ発表してねえけどよ、十億テリ寄こしたら襲撃しゅうげきはやめてやるって言ってきてるらしいぜ」


 隣の細身のパンクヘアー傭兵も話に加わる。


「奴らの今までの手口からしてうそに決まってるだろ。金渡した挙句、派手に荒らされた街いくつも聞いてるぞ。しかし、とうとうシノハラシティも狙われるとはな」

「私達もそうだったけど、シノハラシティって反乱軍に寄ってたじゃん? それが気に入らないんじゃないの。一応、共和国の復活ー! 緑色の国旗が絶対正義! とか息巻いてる奴らじゃん。過激バカ過ぎてまともな活動家からは無視されてるけど」


 傭兵とリンコ達が話している横で、ナシタがあごに手をやって考えている。


「……あー、ナシタ。ナシタは何もしなくても大丈夫」

「でも」

「……じゃあ、晩御飯いっぱい作っておいて。無事に解決したら打ち上げしたいもんね」


 たむろしている傭兵連中も、うっしゃ、やるか、と口に出して一肌脱ぐ気満々だ。


「でもよ、どういう装備で、どう攻めてくるかね?」

「この街のビッグスーツの戦力に対して真正面から来る可能性は低いかもな。街中を狙って爆弾テロでも仕掛けてくるか? もう治安部隊の見回りが厳しくなってるが……」


 リンコは地上港のある方角を見やる。


「連中が指定した時間ってもうすぐだよね? 私は一応ビッグスーツの準備してくる……ゴメンねナシタ、休暇中もドタバタで」


 ナシタは首を横に振って笑顔を見せる。


「リンコは悪くないよ。それより怪我しないように気を付けて」




 ◇ ◇ ◇




「そろそろ時間だ」


 土色のビッグスーツのコックピットで、ネコゼは腕時計を確認しながらガニマに通信を取る。


「やれそうか?」

「ああ、ただこれだけ距離があると時間は少しかかるぜ。まあ並の装備じゃ、向こうからこちらを狙える奴はいねえだろうから、安全ではあるけどよ」

「こちらの位置に気づいて奴らが接近してきた場合は、我々のビッグスーツ部隊に対処させる。おまえは細かいことを気にせず、全ての防空砲を破壊してくれればいい。」


 ガニマは巨大なトレーラーに載せられたミサイルを見つめる。


「ビーム技術が発展して、質のいいビーム防空設備が安く配備できるようになってからというもの、ビッグスーツに用いられる小型の物以外、ミサイルの出番は激減したが……ゼロになったわけじゃない」


 ミサイルの発射台が、水平から少しづつ上を向いていく。


「防空砲さえ無力化すれば、音よりもはるかに速い爆弾が上空から街の中心部に突っ込むことになる。そんなモノを止められる者などいないだろう。一瞬であの街は千切れた死体と瓦礫がれきの山になる」


 ガニマは笑みを浮かべる。ネコゼのビッグスーツが、三脚に支えられた、その機体の背丈せたけより長く巨大な長距離ビーム砲を構える。ネコゼの白い目がスコープしに、はるか遠方のシノハラシティを捉えた。




 ◇ ◇ ◇




「あれ? なんだよリンコも来たのかよ」

「え? 二人とも来ちゃったの!? そっちにも情報行ってたんだ?」


 レトリバーの格納庫。リンコが到着すると、既にカリオとニッケルがそれぞれの機体に乗り込もうとしていた。


「休暇の滞在先がテロリストの標的になるとか、そこまで日頃の行い悪くねえぞ俺ら」

「私のダーリンの住んでる街狙うとか余程よほど心臓に穴あけられたいみたいね」


 ニッケルとリンコが愚痴りながらコックピットに乗り込むと、間を置かずにカリオが通信を入れてくる。


「相手さんの動き、わかりそうか?」

「まだわかんなくて。街の傭兵仲間に情報集めたのんで、私も外を見張るつもり」

「わかった、リンコのコイカルほど索敵能力はねえが俺らも手伝う……なんか悪いな」

「……? あー、アンタ昔は共和国側だったから気にしてるの? カリオとテロリスト連中は全然違うじゃない。何にもカリオは悪くないでしょ、ほら行くよ!」




 ◇ ◇ ◇




 リンコの持っていた大袋も、何とか店の中に運び込んだナシタはふぅっと一息つく。


 店の中から外の通りを見る。治安部隊の巡回で緊張感こそあるものの、街の住人達は、犬の散歩をしたり、荷車で売り物を運んだり、いつもの日常を過ごしている。




 いつも自分が過ごしている日常


 いつも自分の知らないところで命を懸ける愛する人


 他の人のために自分にできること


 彼女のために自分にできること




 昨日の夜、ベッドで話していたことを思い出しながら、ナシタは食材をキッチンに運び、整理していく。


 今は彼女の帰りを信じて待つ。


 今夜、きっとまたテーブルで笑ってくれる彼女を待つ。


 ナシタは包丁を手に取ると、野菜の皮をむき始めた。




(君と歩くいつか一つになる旅路で⑤へ続く)

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