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君と歩くいつか一つになる旅路で⑤




 ◇ ◇ ◇




「……うーん、怪しいのコイツくらいか」


 円形の大きなレドームを装備する、偵察ていさつ機能を強化したビッグスーツのコックピットで傭兵ようへいつぶやくと、リンコと周りの傭兵達がそれに反応した。


「何かいたの?」

「二十キロメートル離れたところに、影がいくつか映ってる。車両の集団だと思うんだけど、一向に動く気配がねえ」

「ニ十キロ? 一応ビッグスーツでかなり飛ばせば、数分で街に到達できる距離だけどよ、何か微妙な距離だな」


 リンコは自分のコイカルが手に持っているスナイパーライフルを見て、一瞬考える。


「その影の座標ざひょう、こっちに送ってもらってもいい? えーとそれから……タック、聞こえる? L0ーN9のラックのロック、解除してもらっていい? そうその狙撃銃――」




 ドゴォン!




 突然周囲に爆音が響いた。リンコ達がいる地点から少し離れた、防壁の上で炎と煙が上がる。


「アレって……防空砲がやられた!?」




 レーダーがとらえたニ十キロメートル先の影の正体は、傭兵ネコゼとガニマがひきいる「グリーン・ユートピア」の一団であった。


「命中だ」

「全部で十二基、その調子で頼む」


 淡々と報告するネコゼに、ガニマも同じように無表情で答える。


「ビッグスーツ隊、奴らがネコゼに気づいてこちらに来るか見ておけ。まあ今気づいても間に合わんだろうがな」




 ドゴォン!




 二つ目の防空砲が破壊される。


「連中、この街の防御設備を遠距離から破壊するつもりか!」

「ペースがはええ……マズいな」


 シノハラシティの傭兵にまぎれて周囲を警戒していたニッケルとカリオは、そのねらいに気づくも、遠く離れた敵機に対して取れるアクションがなく、焦る。




 レトリバーの格納庫では、タックが出入り口を開けて待機していた。


「なんか爆音聞こえるな……休暇だってのにひょっとしてヤバい?」


 タックがそう考えていると、格納庫の出入り口から、独特の駆動音と共にリンコのコイカルが進入してきた。


「オッケー、タックありがとう、もらってくね!」


 リンコはスピーカーで礼を言って、狙撃銃「L0ーN9」を手にすると、再び外へ飛び出した。




 ドゴォン!




 ネコゼの遠距離狙撃は続く。既に四基の防空砲が破壊されていた。


「じっとしてても何もならねえな、破れかぶれで突撃するか!」

「正面はもちろん、裏や横からも接近する敵機はいねえみてえだし……確かにここにいても無駄か。クソッ、判断が遅れた!」


 ニッケルとカリオがそう決断し、敵集団に向けて前進しようとしたとき、リンコのコイカルが浮遊して防壁の上に着地する。


「そうだね、腕に自信ある人は敵の方に向かって前進して。狙撃手の方は私が対処するから」


 リンコはいつものモノとは違う、オレンジのアクセントラインが入ったビームスナイパーライフルを構える。


「いや、いくらおまえでも固定なしの狙撃銃でニ十キロ先はキツくねえか!?」

「ん? 全然大丈夫だよ」


 心配するニッケルに対してリンコは軽く返事しながら、スコープをのぞく。




「……よし、これで次の射撃も問題ねえだろう」 


 ネコゼは少しスコープを調整し、五基目の防空砲に狙いを定める。防空砲にレティクル(スコープを覗くと見える目盛り線・十字線・マークなど)を重ね、慎重しんちょうに銃身じゅうしんを動かし、微調整びちょうせいする。


(四基目に比べて少し遠いか……左右はよし……ん……? 何だ? 何か光っ――)


 突如、ネコゼの覗くスコープから見える視界が、緑色の光であっという間にくされる。その刹那せつな、ネコゼの右目に激痛が走った。




 ガァン!




 リンコは五秒とかからずニ十キロ先のネコゼに対して照準を合わせ、狙撃した。放たれたビームは、ネコゼの長距離ビーム砲のスコープの真ん中をつらぬき、ネコゼのビッグスーツの二つのカメラアイの内、右側の一つを破壊した。 フィードバックでコックピットのネコゼの右の眼球がんきゅう破裂はれつする!


「ぐああああ!!」


 あまりの痛みに苦悶くもんし、のたうち回るネコゼ。




「当たったよー」

「マジかよ!?」

「うん、少なくとも目玉えぐれるくらいの怪我ケガはしてるんじゃないかな。よし行っちゃってー、カリオ、ニッケル!」

「今サラっとえげつないこと言ったな!?」


 軽いノリのリンコに調子を狂わされながらも、カリオとニッケル、他の傭兵達は敵の位置を目指して前進を始める!




「おいネコゼ! どうしたんだ、おい! クソッ! 何が一体……」


 突如倒れたネコゼのビッグスーツを見て、ガニマは大いにあせった。今、この集団の指揮は彼がっていることもあり、混乱は他のテロリスト達にも伝播でんぱする。


「ガニマさん! どうするんですか!」

五月蠅うるさい! クソッ、今からでもミサイルを……いや無駄か、でも……!」

「ガニマさん!」

「今考えている!」




 ガァン!




 ガニマのすぐ後ろで轟音ごうおんが響く。グリーン・ユートピアのビッグスーツの胸に、風穴があいていた。


「なんだ!?」

「クソッ、狙撃か! 今度は俺達を狙って……!」

「まさか、向こうにはそんな立派な長距離攻撃兵器なんて……」


 さらなる混乱がグリーン・ユートピアのテロリスト達をおそう。リンコはネコゼを撃った後、続けざまにテロリストのビッグスーツを狙い、狙撃していく!


 ガァン! ガァン! ガァン!


「ぐああああ!!」


 頭部が吹き飛び、あるいは胴体に大穴をあけられて、次々とテロリストのビッグスーツが撃破されていく!


「こんな……こんなことが……!」


 先ほどまでの冷淡な表情とは打って変わり、ガニマの表情は驚愕きょうがくと恐怖でゆがむ。彼はその場で失禁し、尻もちをつく。




 ヴィイイイイン……




 今度は別の音がガニマに近づいてくる。リンコの狙撃支援を受けながら、接近してくるのはカリオとニッケル、シノハラシティの傭兵達の乗るビッグスーツ。


「おお、すげえ。粗方あらかた片付いてるじゃねえか」

「お遊びはナシだ! まだ抵抗してくるようなら容赦ようしゃなく撃つぞ」


 迫りくる軍勢は、さながら地獄からの使いであった。ガニマ・ターと生き残ったテロリスト達は、考えるより先に両手を上げ、降伏こうふくの意思を示した。




(君と歩くいつか一つになる旅路で⑥へ続く)

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