◇ ◇ ◇
「んでよ! 言ってやったのよ。次にコイツらに手を出したら、おめえらロールキャベツか
「いやぁ、でもハマオの
「なっ、リンコ! てめえ!」
夜のレストラン「マンガニク」は、傭兵達の笑い声に包まれていた。
彼らの活躍によって、
「仲いいなあ、俺は地元にそこまで知り合いいねえわ」
「俺もそこまで人付き合いはいい方じゃなかったしなぁ。ニッケル、チキン取らせてくれ」
騒ぐシノハラシティの傭兵達とリンコを眺めながら、少し離れた席でカリオとニッケルはのんびりビールを飲む。とんだトラブルに巻き込まれたものだが、まだ休暇は残っている。
キッチンの奥で料理を作るナシタは自分を見つめる視線に気づく。カウンターの
「何か欲しいかい?」
マヨは骨付きチキンを、もっちゃもっちゃと
「まだ結婚してねえって聞いたです。どういうことやですか」
「!?」
「大人の男の人と女の人は仲良くなったら一つ屋根の下でくっつい……ふぉああ!?」
「ビールなくなってきた。追加ある? ってか手伝った方がいいか?」
「いやいや大丈夫、はい追加の」
「そうか? お、ありがとう……おい、おめえは何
「んがー! リンコとナシタ結婚させるです!」
ビールの
ナシタはその後ろ姿を見送ると、仲間と話すリンコの方へ視線を移す。彼女がはしゃぐ姿を見ながら、昨夜、ソファで語らっていた時のことを思い出していた。
◇ ◇ ◇
「リンコ」
「んー?」
「僕さ、一年ぐらい整備の勉強して、レトリバーに乗せてもらうの頼んでみようと思うんだ」
リンコは目を丸くしてナシタの顔を見る。
「いいのナシタ!?」
「ダメ、かな……?」
「何言ってんのめちゃくちゃ
「うん、街で一緒に活動する仲間もだいぶ増えて、ぼくの担当してる分も引き継いでもらうのはできるだろうし」
ナシタは窓の外を見ながら答えた。
「……リンコがレトリバーに乗るってなった時のこと、最近特によく思い出すようになって」
「あはは、ちょっと喧嘩したよね。ナシタが街に残るって言うもんだから、私すごい機嫌悪くしてさ」
「あの時は一度、一人で頑張ってみなきゃと思ったんだ」
「言ってたねー」
ナシタは自分の記憶をゆっくりと、頭の中でなぞりながら話し続ける。
「いつもリンコが仕事に行くときは、ぼくはその内容を耳では聞いていても、実際にはどんなのか想像ができなかった。傷だらけになって血を流しながら帰って来る日もあれば、貧困が原因で手段を選んでいられなかった盗賊達を手にかけてしまって、泣き続けた日もあった。そうして辛い思いをして、帰って来てから隣にいることだけしかできなかった自分が物凄く歯がゆかった」
ナシタが静かに話すのを、リンコは黙って聞いていた。
「同じように戦うことは無理でも、できるだけ近い所で戦えるように……君の力になれるようにって思った。最初にレトリバーに誘われたときは、まあ
「それで元々やってたボランティアとか、さらにガッツリやるようになったんだ。んで今度は整備の勉強?」
「うん。あの船に乗るのは、リンコと一緒に戦えるようになってから、って決めたんだ。君は奪うんじゃなくて守るために戦う。それって僕が絶対に足を引っ張っちゃいけないことだと思うから」
リンコは
「バカ
そう言ってリンコは、ナシタの
「……待ってるからね。あの船で、ナシタを」
◇ ◇ ◇
朝日が差し込む中、レトリバーはシノハラシティの地上港を出発する。
遠く、小さくなっていくシノハラシティを、リンコは甲板上から気の抜けた顔で見つめていた。
「……いつになく、しょんぼりしてやがるな」
「
「なんで結婚しねえでやがるですか」
船内への出入り口からカリオ・ニッケル・マヨが野次馬のようにリンコの様子を
(……なんであんなにド真面目になっちゃったのかなぁ。
リンコはため息をついて遠くを見続ける。
(……あと一年かぁ。意外にこう、数字でハッキリ言われると、かえって
◇ ◇ ◇
「ナシタ、そっちの荷物も頼む。病人が出ていてその薬が入ってるんだ」
街が働く人々で賑わい始めた頃、ナシタはボランティア用の地上艦で積み込み作業をしていた。二日後にシノハラシティを出発し、二週間ほど他都市でのボランティア活動に
ナシタは地上港から地平線をみやる。リンコを乗せたレトリバーはもう見えない。次の街まで広々とした大地を走り続けるだろう。
彼は
だが、その
季節が一周する頃、二人の歩く道は一つになる。
(君と歩くいつか一つになる旅路で おわり)
(ファスト・フィスト・ビーストへ続く)