ハットリシティ
「ありえへんやろ。ありえへんて」
黒髪のポニーテール、テーラードジャケットに細身のパンツという
実際、彼女の
二週間ほど前に、NISは奇妙な情報を得た。
テエリク大陸の複数の地点で、所属不明の人型兵器による襲撃が発生したとの情報である。それだけであれば、毎日多数の組織が新型の兵器を実験・試運転しているようなこの大陸では珍しくもないことだが、被害の大きさと残された映像・画像データ、及び現地で確認された
ナスビはその余波で、結構ハードな別の仕事を押し付けられ進めていたのだが、その仕事に前述の所属不明機の件との関連性が出てきたため、一旦小規模なミーティングを行うことになった。
「ありえへんやろ。なんで『デカい仕事があるねん!』って言われて押し付けられた別の仕事がそのデカい仕事と合体するねん。そうはならんやろ」
到着チャイムが鳴り、エレベーターのドアが開く。
ナスビはそこから出るとすぐに、ダボダボのボトムスにノースリーブの忍者
「ありえへんやろ!」
「アーッ!」
男――ショウ・G・ジャンジャンブルは蹴られた
「ア、アホか! オフィスでそんな攻撃してくる奴がおるか!」
「おる! ウチや! ふざけさらすなよ! アンタがヤバい案件抱えることになったっていうからしゃーなしで引き受けたったのに、なんで結局追加でアンタの仕事に巻き込まれることになっとんねん!」
「なんの話や!」
「所属不明機の件や!」
周囲のスタッフの視線を気にしながら、ショウはなんとか立ち上がって、トントンと何回かジャンプしながら、ナスビの方へ向き直った。
「ん? おまえ巻き込まれるんか? なんでや? ナスビに
「忘れたんかいな、もっぺん蹴り入れたろか? ――三億の賞金首、ユデン・イオールの動向調査や」
テエリク大陸で最高クラスの賞金が懸けられているお
その担当にはショウも含まれていたが、所属不明機の件を調査するにあたり、ナスビに任務を引き継ぐこととなった、のだが。
「今からお
「ああ、あったな。ってか、お頭のとこ来いとしか書いてあらへんやったやんけ。もうちょい詳しく書けや、そもそもなんで蹴られなあかんねん」
「やかましい、ちょっとややこしいねん。ちゃんと話すから来て」
理不尽すぎるナスビにふくれっ面のショウはついて行く。
ドアをノックしてナスビが部屋に入ると、NISを束ねる
「ショウ君はクロキシティの一件についてはまだ知りませんよね?」
ショウとナスビはタケノの斜め向かいの席につく。
「ああ、そっちはまだ後回しにしてて同じような円盤と所属不明機が確認されたってことぐらい……」
「その時の戦闘に、ユデン・イオールの一味が関わっていたようでして」
ショウはそれを聞いてナスビの方を見る。
「……それでか。いやタマ蹴ることはないやん」
「タマ?」
「なんでもないです。ウチが説明します」
ナスビが
「これ、ワイとこの前一緒に仕事した兄ちゃん達ちゃうんか?」
ショウはカリオの写真を指さす。
「やっぱそうなんか。お頭から少し聞いていたけど」
続けて賞金首、フロガー・タマジャクの手配書と地図が表示される。
「んじゃ、順を追って説明やな。まずクロキシティと周辺の都市が賞金首、フロガー・タマジャクの討伐を傭兵業を請け負っているレトリバーに依頼。クロキシティから離れたこの地点で、クロキシティの治安部隊とレトリバーの傭兵がフロガーと交戦開始」
地図に表示されるアイコンを追いかけながら、ショウとタケノは話に耳を傾ける。
「その戦闘中にユデン・イオール達が乱入。レトリバーからの情報によると、彼らの目的はフロガーのビッグスーツの奪取。ここから三つ巴の乱戦状態に突入したとのこと」
「……この時点で十分ややこしい気がするねんけど、まさか」
「そのまさかや」
荒い二次元画像が表示される。円盤と赤い人型の機体の写真だ。
「その状況でさらに、赤い所属不明機が乱入。まずフロガーを撃破・殺害後、治安部隊・レトリバーの傭兵・ユデン一味の
ショウは
「所属不明機に対して不利な状況に
一通り話し終えたナスビは大きくため息をついた。
「いや、なんか、ゴメン。全然うまく説明でけへんわ」
「……まあ確かに、ホンマにややこしい話みたいやなぁ。ちょっと確認してええかナスビ」
ショウは立体映像を眺めながらナスビに聞いた。
「レトリバーの傭兵さん達の実力は、共闘したことがあるしある程度わかるつもりや。フロガーは一億の賞金首やろ? そんなに実力差はないっつーか……むしろフロガーより上でもおかしないと思っとる。加えてユデンの方も、今耳に入っている情報だけで判断しても、三億の懸賞金がかかることに
ナスビはショウが何を聞きたがっているのかすぐに理解して、
「……今の話やと、その所属不明機は『単機』で『一億の賞金首を殺害』した後、『腕利きの傭兵三人と億単位の賞金首四人、加えて治安部隊複数人』と戦闘し、『優勢を保ったまま、何人か重傷に追い込んだ』上で
この男がこの話を信じられないと思うのは十分に理解できる。ナスビは真面目な顔でショウの目を見て答えた。
「そう聞いとる。そして一つ付け加えると――その所属不明機は『無傷』で
ショウとタケノはたまらず天井を
「
「正直私もそう思いたいですね、その可能性も含めて調査することにしましょう」
タケノは体を起こして姿勢を正す。
「今説明して頂いた赤い機体、ショウ君は頭に入れておいてください。今の話で分かる通り、調査の優先度は高いです」
「わかった。今やってるのは早いとこキリつけて、クロキシティとマキノシティ周辺から赤い機体について調べることにするわ。必要なデータはナスビに送ってもらう。……ってか、関連性出てきたからってナスビは
「ぐぬぬ……」
ナスビがムッとした表情でショウを
「さて、赤い機体についての共有は一旦ここまでですね」
タケノがそう口にすると、ショウとナスビの二人は彼の方を見た。
「アレ? ウチの報告の他にもなんか話あるんですか?」
「ええ、赤い機体の調査に入る前に一旦二人に
ショウとナスビはお互いの顔を見合わせる。タケノはそのまま続けた。
「二人には、スズカ連合――アオキシティへ向かって頂きたいのです」
(ファスト・フィスト・ビースト②へ続く)