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ファスト・フィスト・ビースト②




 ◇ ◇ ◇




 ――ショウ・G・ジャンジャンブルとナスビ・O・ベルジーヌがハットリシティをつ二日前。


 スズカ連合・エンドーシティ某所の屋敷やしき




「この二週間で襲撃しゅうげきは四回か」


 身なりのいい者達が、大部屋の中央の長テーブルを囲うように座り、真剣な表情で話し合っている。


「最初に輸送艦がおそわれたのを除けば、三回はこちらの兵と戦闘になっているのだろう? 少しぐらい消耗しょうもうしていないのか?」

「画像を見た限りは何とも……生存者もいない状況ではな。情報が少なすぎる」

「かなりの犠牲を出してホエイの件が終結したと思ったらこの仕打ちか。敵の力量をはかれなければ、適当に兵を出しても死人が増えるだけだ」


 緊迫きんぱくする空気の中、話し合っているのは十の都市からなる連合、スズカ連合に所属する要人達だ。彼らを悩ませているのは、突如出現した所属不明の人型兵器による地上艦の襲撃。先述のとおり、この二週間で四回発生。輸送業者と治安部隊に何人もの犠牲が出ていた。


「……討伐とうばつはわからないが、情報収集ならいくつかやれそうなところのアテはある」


 話し合っているうちの一人の男が、ラップトップを取り出してキーボードで操作を始める。


「……他の都市の諜報ちょうほう機関か。大丈夫か? 信用の話と戦力的な話で、だ」

「どこの馬の骨ともわからん傭兵なんかよりよっぽど信用できるだろう。明確に敵と認識されない限り、むしろこちらから出した情報も丁重に扱ってくれる。戦力的には……多少候補をしぼる必要があるか」


 ノートパソコンのを操作する男をそのままにして、別の男が口を開いた。


「皆様のところに、アオキシティのモッツァ家の御令嬢ごれいじょうからは一報ありましたか?」

「ああ、協力を申し出てくださってる件だが、一旦行動をひかえて頂いている。彼女はスズカ連合が持つ戦力の内、個人の単位では最強だ。判断を間違って失うわけにはいかん」


 巨大企業「イースウェイ」のCEO、カパナ・モッツァを当主とするモッツァ家。その娘であり、先のホエイ・ヨグトルの事件の解決に多大な貢献こうけんをしたビッグスーツ乗りでもあるレイラ・モッツァ。本人の申し出もあり、力を借りたいと考えている要人もここには多くいたが、きりに包まれたかのように何もわからない、今回の事件に現時点で関わらせることには皆、慎重しんちょうになっていた。




「食いついた」


 ノートパソコンを操作していた男は口に手をやり、画面を見つめる。


「ハットリシティのNIS、Ninja Intelligence Serviceだ。同様の事件、別の場所でも発生しているらしく、彼らは既にその調査に乗り出している。概要がいようを伝えただけで協力を申し出てくれた」

「忍者!?」

「ああ、知らない人もいますか。ハットリシティに行くとホントにいるんですよ忍者」


 小説か映画でしか耳にすることがないような単語を聞いて、数人の要人たちが怪訝けげんそうな顔をした。




 ◇ ◇ ◇




 ――その会合から数日後。




 ハットリシティの地上艦「シバ」は、タケノの命を受けたショウとナスビを乗せ、アオキシティ近郊のある地点へ到着していた。


 彼らが受けた任務は、スズカ連合と協力し、その付近で発生している地上艦襲撃事件の調査。所属不明機関連で把握している事件の中ではモノだ。故にタケノは最優先で取り掛かるべき事案として、ショウとナスビをアオキシティへ派遣した。




「座標はここで合っとるな。んでアレが今回お世話になるお嬢様じょうさまか」


 ブリッジから二人は、前方で複数の大型トレーラーと一緒に並んで立つビッグスーツを見る。事前にアオキシティ側から、今回協力して調査に当たるビッグスーツ乗りとの模擬戦を要請されていた。


 対戦相手はモッツァ家令嬢、レイラ・モッツァ。


模擬戦もぎせんの申し出って、ひょっとしてウチら信用されてない?」

「そら他の街の諜報機関やしな。ええやないか、ワイとしても一緒に仕事する奴がどんな感じなんかは知っておきたいし。ちょっとオールリで出てくるわ」


 相手のビッグスーツを珍しそうに見つめるナスビをそのままにして、ショウは格納庫に向かった。


 一方のレイラは、コックピットでリラックスした状態で、前方の地上艦を見ていた。


(諜報機関、また変わった所と一緒に仕事することになりましたわね。こういう相手にあまり馬鹿正直に信を置くのはよくないのでしょうが、正直ちょっと楽しみですわ)


 目の前の地上艦、シバから一体のビッグスーツが飛び出して近づいてくる。レイラは数秒目を閉じて、意識を切り替えた。




 ――七分後。




 ギャギィイン!


 二つの剣閃が交差すると共に、独特で高い音がはじける。


「……うし……よしっ! ワイの……ワイの勝ちでええか……! ハァ……ハァ……!」

「ええ、素晴らしい実力です。これから共に調査するにあたり、大変頼もしいですわ」


 二機のビッグスーツが戦闘を終えて、動きを止める。青い機体と白いボディに赤のアクセントカラーが入った機体。


 青い機体はショウの乗機「オールリ」。HMB(ハイパーマイクロボット)の能力を惜しみなく使い、忍術を疑似的に再現することのできるワンオフ機だ。


 対する赤いアクセントカラーの機体はレイラの乗機「アカトビ」。西洋甲冑のようなデザインで、レイラの得意な剣を用いた近接戦用に調整された、こちらもワンオフ機である。


 ショウのオールリはそのまま草原に座り込んだ。


「アカン……もう動けへん……全然勝った気せえへん……! おじょうさん息切らしてないし……本気ちゃうかったやろ……!」

「いえ、ガッツリ本気でしたわ。大人げなく、半ば殺す勢いになったくらいには。ですので私の完全敗北で合ってましてよ」


 息も絶え絶えのショウをよそに、レイラは剣をしまう。


「あーコレ、ウチが出なくてよかったなコレ……」


 ブリッジで模擬戦を観戦していたナスビはのどかわきを覚えて、紙パックジュースのストローに口をつける。




 座り込むオールリにアカトビが手を差し伸べる。


「では参りましょう。予感ですが今回の調査、キツいモノになりそうですわよ」




(ファスト・フィスト・ビースト③へ続く)




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