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マヨ・ポテトの災難EX㉑




 ◇ ◇ ◇




「これが……」


 カリオは動きを止めて視線を上に向ける。立ち塞がるのは巨大な緑と青の光の竜巻。ニッケル達と同様、戦闘の途中でこの現象に出くわし、味方の治安部隊の機体と共に、巻き込まれるのをギリギリで回避した。


 コォオオオ!


「!? うわわっ!?」


 光の風が向きを変えてカリオ達の方へ向かってくる。カリオと味方数名があわてて大きく後退する。


 カリオは縦横無尽じゅうおうむじんに吹きすさぶ光をながめる。


規模きぼがデカい……横も縦も何キロあるんだ? これじゃニッケルとリンコとすぐに合流できなさそうだな」


 ピキキッ


 カリオは何かがきしみ、ひび割れるような音を聞いた。さっきの地割れじゃない。もっと近くから――


 ――パキン


「え? ……アァーッ!?」


 カリオは自分の右手を見て思わず声を上げる。クライアント側から支給された実体剣じったいけんが、ひび割れて折れ、大きく破損はそんしていたのだ。


「うっそだろ!? ちょっと数機ほど倒したぐらいで! え、マジでどうすんだコレ……」


 あわてるカリオを見て、味方の治安部隊員も不安な表情を見せる。


(これじゃぁコレスの機体は斬れねえ……ニッケルとリンコに任せられるか? いや、陽動ようどうに集中すればビームソードでも……)




 ◇ ◇ ◇




「付近に埋蔵まいぞうされていたエメト、C-六六〇B型及びG型、三百十万トン……いえ約三百二十万トンを制御中です」

「すごい数字だな。フハハ、まあ外の景色を見るとそんな数字なんてどうでもよくなってくるが」


 基地の管制室で、コレスは満面の笑みでモニターに映る光の竜巻を見つめる。


「……ん?」


 その左前方で、現象の観測を続けていたコレスの部下が、ほんの少しいぶかしげな表情を見せたのにコレスは気づいた。


「どうした?」

「あ、いえ。大したことじゃないんですが。これだけの量のエメトだと、もっと広範囲こうはんいにこの現象が広がるんじゃないかと思ったもので……」

「予想していたより範囲がせまいという事か。まあ多少意外なことくらいあるだろう。とりあえずはこのまま観察しておけ」


 コレスは笑みを崩さない。その上機嫌な顔を見て、部下は一安心した様子で体の正面を再び操作盤とモニターに向けた。


(そうとも、この際多少の想定外はどうでもいい! この圧倒的な力、十分じゅうぶんすぎるんだよ!)


 コレスは興奮してきたのか、落ち着きなくその場をゆっくりとうろうろし始めた。




 ◇ ◇ ◇




(うう……)


 マヨ・ポテトはうつろな意識の中で必死だった。まるで自分じゃなくなるかのような強烈な攻撃衝動こうげきしょうどう。それは大地にもれる光の群れを引きずり出し、大切な人を傷つけようとする。


 マヨには見えている。レトリバーの格納庫でよく見上げていた、三人の仲間が乗る黒い二足歩行のロボット。今、彼らがすぐそこで、自分をすくうために戦っている。


 神の視点というのはこういうものだろうか。上から、左右から、近くから、遠くから。様々な角度と距離から見える景色が複数のディスプレイのように視界を埋め尽くす。不思議とその多すぎる情報量に不快感を抱くことなく、同時に認識にんしき把握はあくできているのは通常の人間の感覚からは離れた体験である。


 しかしマヨはそれを不思議に思ったりしている場合ではなかった。地中からあふれ出てきた光が、自分を助けに来てくれた人をおそおうとするのを止めなければならない。


(ダメです……アカンです……その人達は……)


 わずかに覚醒かくせいしている意識で、光の竜巻の拡大をおさえ込むのが、彼女に出来る精一杯せいいっぱいであった。




 ◇ ◇ ◇




「参ったな、ここまでとは予想してなかった……いやトロンの言った通りではあるのか、クソッ」

「ちょっとリンコさんもキャパオーバーかなコレ……」


 ニッケルとリンコは退避しつつ合流、目の前の超常現象ちょうじょうげんしょう突破とっぱする方法を考えるが、全く思いつかない。今の手持ちの武装ぶそう頭数あたまかずでなんとかなる話ではない。


「これだけ吹き荒んでるエメトを吹き飛ばせる火力の準備か、もしくはエネルギーやらなんやら切れるのをねがって待つか……」

「……それ、どっちも時間かかるしマヨのこと考えると不安だよね」




 ドスン!




 考えている二人の機体の前に、通常のビッグスーツの一・五倍の背丈せたけはあるだろう、大型の機体が大きな着地音と共に現れた。


奇襲きしゅうとは上等だなおい。あのガキの関係者か、それともプルツ・サンデのことを聞きつけてきたか……まあいい。俺はナイゾウ・シボ―! えあるドーンブレイカーの幹部よ!」 


 名乗りを上げたパイロット――ナイゾウ・シボ―の乗る人型の機体の背中から、通常の二本の腕とは別にもう一対の長い腕が姿を現す。合計四本の腕は、中心から鋭利な棘を生やした、特殊な金属製のバックラー(小型の丸盾まるたて)をにぎっている。


「特注ビッグスーツ『メヒドリ』! コレスさんのシトド程の防御力はないが、貴様等のような木っ端こっぱ傭兵ようへいごときなぞ軽く一捻ひとひねりできる、剛腕のモデルだ!」


 ニッケルはチョークを射出し滞空させ、リンコも二丁のビームピストルを構える。先ほど散り散りになったコレスの部下達は、徐々にナイゾウのメヒドリの元へ、治安部隊員達はニッケルとリンコの近くへ集まり始める。互いが出方を探り合う、膠着こうちゃく状態が生まれる。




(フン、コイツ等の小さな火器ではメヒドリのバックラーを簡単には破れまい。先手はこちらがもらおうか!)


 ナイゾウはバックラーを前面に構えて腰を低くする。


(来るっ!)






 ニッケルとリンコがそれぞれライフルとピストルの引き金に指を掛けた、その時である。




 ボボォオン!




「!? ……ぐあああっ!?」


 上空から巨大な火の玉が急降下し、ナイゾウのメヒドリと衝突する! 火遁かとん・火の玉の術【緋雲ひうん】!


 ナイゾウはフィードバックで体の至る所に軽い火傷を負い、苦悶くもんの声を上げる。




「なんや、随分頑丈ずいぶんがんじょうやな。一撃必殺いちげきひっさつとはいかんのか」




 その声の主が乗る青いビッグスーツ――「オールリ」が、上空から抱え込み前方四回宙返りを決めて、ニッケルとリンコの前に着地した。


「久しぶりやな。覚えてるよな?」

「お前……ハットリシティの忍者!」

「ショウや。……いや、覚えててくれてたよな? 名前……」


 ナイゾウに奇襲を仕掛けたのは、以前にカリオ達と共闘した、ハットリシティの諜報機関ちょうほうきかんNIS(Ninja Intelligence Service)に所属する忍者、ショウ・G・ジャンジャンブルだ。思わぬタイミングでの再会に、ニッケルは口を半開きにして驚く。


 ショウのオールリに続いてだいだい色の機体が上空から降りてきて着地する。ハットリシティが開発した「ヤマガラ」と呼ばれるビッグスーツだ。


「もう一人忍者いるじゃん!」


 リンコがヤマガラを指さすと、そのパイロットは少し不機嫌ふきげんそうな声色で名乗った。


「……ショウの同僚のナスビ・O・ベルジーヌや。指をさすな! ……むー、なんかウチやっぱしんどい仕事ばっかり引いてない?」




「ナイゾウさん!」

「クソ傭兵どもが!」


  コレスの部下達がライフルやヒートソードなど、各々の武器を構えてショウとナスビの機体に突撃しようと前進した、その時。




 ザシュッザシュッザシュッザシュッザシュッ!




「!?」


 ナイゾウは一瞬、何が起こったのか理解できなかった。彼の部下が乗った五機の白いクロジが突然胸部に穴をあけられ、パイロットが断末魔だんまつまを上げる間もなく倒れていく。


 彼らを貫いたのは、超高速の五連の刺突しとつ


 ロマン流剣技、ファイブ・ブラックキー!




「おうわさはかねがねうかがっておりますわ――命乞いは聞きませんのでお覚悟を」


 ナイゾウの目の前に、赤のアクセントカラーが入った白い甲冑騎士かっちゅうきしのようなビッグスーツが着地する。


 そのビッグスーツ、「アカトビ」を駆るのは、〝鋼鉄令嬢スティールフロイライン〟の異名を持つモッツァ家令嬢れいじょう――レイラ・モッツァだ。


「レイラ嬢!」

「お久しぶりですわね。話は後で……まずは不埒者ふらちものどもの始末から」




(マヨ・ポテトの災難EX㉒ へ続く)


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