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マヨ・ポテトの災難EX㉓

 イルタはカリオとボンに向けていた視線を、光の竜巻の方へ向ける。


「……中から感じる同族の気配は君の身内か。以前、君と戦った時に同様の気配を感じたのは気のせいではなかったようだな」


 カリオのほおあせが伝う。


「っの……ざっけんなコラァ! 犬の後ろから何かましてくれとんじゃワレボケコラァ!」

「バ、おま、バカ!! 待てお前マジで待て!!」


 あやうく攻撃に巻き込まれるところだったボンが、怒りで歯茎はぐきをむき出しにしてイルタに突っかかろうとするのを、カリオが必死に両腕でおさえる。イルタは竜巻を見上げるのをやめて、再びカリオ達の方を向く。


「隣のもう一機は……バトルポメラニアンか? 私と同じように、この時代までコールドスリープしていた個体のようだな。ふむ、君達はあの中にとらわれている者を助けに来たワケか」




 くもり空は次第に色のさを増していく。今にも雷鳴らいめいとどろいてきそうなほどだが、光の竜巻が発する独特のかねのような風切かざきり音が聞こえるのみだ。


「――まあ、事情を知ったところでどうというわけでもない。さて」


 赤い機体の胸の奥から感じる視線の圧力が一気に増す。反射的にカリオとボンは姿勢を低くして、構え直す。




、先ほどらしたありどもよりは時間も潰せるだろう」




 まだ銃口も向けられていないにもかかわらず、カリオとボンは血肉をなまりに入れ替えられたような重さの圧力を、フライデに乗ったイルタから感じていた。意識を飛ばされないように立つ足に力を込める。






「待った! イルタさん待って!」


 その場に、男の声が降ってきた。


 突然、イルタのフライデのすぐ隣に、だいだい色のボディに黒いアクセントカラーの入った人型機体が出現したのだ。カリオは自分の目を疑う。まばたきすらしていなかったはずだった。


(なんだ!? 接近に全く気付かなかった……!)


「ゴメン! ほんとにゴメンなんだけど、この人達殺すのは待って!」

「……どうした? シャマス」


 先ほどまで空間を支配しはいしていたイルタの圧力が消える。橙色の機体のコックピットのシートに座る、柔和にゅうわな顔つきで毛先がハネたセンターパートの黒髪くろかみの青年――シャマスは、ほっとため息をついた。


「シャマス……って言ったか?」


 カリオが思わずそう口にするのを聞いたシャマスが、カリオ達の機体の方へ向き直る。


「あ、いや、お久しぶりです! 覚えてます? 僕のコト。えっとホラ、モリオカタウン跡地あとちで一緒に……」

「お前にハメられて大変だったんだよな。ウド・エバッバ、いや……シャマスってのは本当かよ」


 カリオにそう答えられて、シャマスは気まずそうに苦笑いしながらほおをかく。


「あはは、ハメたワケじゃ……どうやったかわかりませんけど、僕がイニスアの囚人しゅうじんっていうのはバレてるんですね」

「お前も彼と知り合いかシャマス」


 イルタからの問いに、シャマスは苦笑いしたまま肯定こうていする。


「以前、あの人の仕事現場に出くわしたことがあったんです……これも何かのえん、ちょっと今回の用事、あの人に手伝ってもらおうかと思って」

「……おまえ、ここに用事があるとか言っていたが、その用事というのは――」

「このお兄さんと一緒いっしょです。中の子を助けたいんです」




 その言葉にカリオはおどろきつつも、マヨとシャマスの関係性を思い出し、シャマスに聞く。


「……アイツがおまえの妹だってのはホントなのか」

「直接の血縁関係ではありません……ん? でも所謂いわゆるデザイナーベイビーって奴は何て言う関係になるんだろう? とりあえず同じ場所で同じ力を与えられた仲間……くらいの関係性ですかね」


 シャマスは自身の後ろで吹きすさぶ、光の竜巻を見上げる。


「まあ、直接会った時間もそんなに多くないし、〝家族〟と呼ぶには程遠ほどとおい子なんですが、こんな雑に扱われているのを放っておくと、後々《のちのち》目覚めが悪くなりそうなんですよね」

「……この竜巻をどうにかする方法があるのか」


 言いながらカリオは、この男を信用していいものか判断できずにいた。以前にやいばまじえた女の仲間。任務中に自分達をトラブルに巻き込んだ男。そして同じ船で暮らすクルーの〝兄〟でもある。カリオの声色からそんな考えを読み取りつつ、シャマスは再びカリオの方を向いて話し始めた。




「エシュルと僕の〝能力〟については聞いていますか?」

「……ああ、生身でエメトを操作できるらしいな」

「ええ。まず僕の力でこの竜巻を形成しているエメトに干渉かんしょうします。但し、僕が今乗っている『サンデ』とエシュルが今乗っている『プルツ・サンデ』、どちらも搭乗者のエメト操作能力を増強ぞうきょうする機体ですが、プルツ・サンデの方がより強力です」


 カリオがだまってシャマスの説明を聞いている横で、ボンはおすわりして、二人を交互こうごに見るのを繰り返している。シャマスの話は続く。


「完全に制御権せいぎょけんを奪うことはできないと思います。なので貴方、えーと……」

「カリオ・ボーズだ」

「僕がある程度、エメトの動きを鈍らせた後で、カリオさんに〝直接エシュルに接触せっしょく〟してもらうことが出来れば、プルツ・サンデを停止させ、彼女を助け出せると思います」

「……? マヨに直接接触? そんなことが出来るのか?」


 欠伸あくびをするイルタを乗せたフライデの横で、シャマスはその問いに答える。


「エシュル……いえ、貴方の前ではマヨと呼んだ方が良さそうですね。この現象、十中八九マヨが望んで起こしたものではなく、別の人間が強引な方法で発生させてるいる。その状況下で、恐らくマヨは貴方がたが近くにいると認識し、危害きがいが及ばないよう、竜巻の範囲はんいを抑えていると思います」

「マヨが……俺達を?」

「この辺りで感じ取れるエメトの量を考えるとまだ小さいんですよ、この現象。この推測すいそくが当たっていれば、僕がこの現象をおさえる手伝いをすることによって、カリオさんを受け入れる余裕がマヨの方に出来ると思うんです」

「受け入れる?」




 そこまで言うと、シャマスは言いづらそうに一泊いっぱく置いたうえで、説明を再開する。


「……カリオさんにはこの竜巻の中に飛び込んでもらいたいんです」




(マヨ・ポテトの災難EX㉔ へ続く)

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