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マヨ・ポテトの災難EX㉔

「おいおいおいおいおーいおい!!」


 お座りして大人しく聞いていたボンが、また歯茎はぐきをむき出しにしてシャマスを威嚇いかくする。


「俺は勇者だからわかるぞ! こんな竜巻に飛び込んだら――」

「超高温で機体ごとかされるでしょうね。エメトの種類を断定できないのでこれも推測すいそくですが」


 平然とそう口にするシャマスに対してボンは低くえた。


「カリオ! これは悪の怪人かいじん卑劣ひれつわなだ! 耳を貸すな!」

「……」


 カリオは数秒、だまって考えるとシャマスに話の続きを促す。


「続けてくれシャマス」

「カリオ!」

「ボン、心配してくれるのはうれしいが、コイツが俺を殺すつもりなら回りくどいことをせずに、さっき後ろからすなり焼くなりしてたはずだ」


 カリオになだめられて、ボンは不機嫌ふきげんそうにまたお座りをする。




「悪いなボン……シャマス、いまいち〝受け入れる〟って言葉の意味がわからないんだが」

「エメト操作能力の他人による強引な発動、それもこの規模きぼで……マヨは意識混濁いしきこんだくおちいっているはずです。カリオさんや他の味方のことをぼんやりとは認識していても、どこでどういう状態にあるかまでは焦点しょうてんを合わせられず、把握はあくできていない」

「ぼんやりとしか、か。おまえが現象の抑制よくせいをして、俺が飛び込んでマヨに近づけば……マヨは俺を完全に認識できるってことか?」

「この現象は彼女自身が望んで起こしたモノじゃない。カリオさんを認識して完全に覚醒かくせいすれば、彼女自身の力で道をあけてくれるはずです。理屈りくつではなく僕の経験による感覚的な話ですけど」


 そこまで聞いてたまらず、ボンはまた二回吠えて威嚇する。


「おいおいおいおいおーいおい!! 感覚的な話って、つまりその作戦の安全を保障ほしょうする根拠はねえってことじゃねえのか!」

「そうですね、僕は成功する自信あるんですけど根拠っていうのは……示せないかも」




 ボンにうなられるシャマスの後ろで、イルタが口を開く。


「私は関係ないのなら帰っていいか? その二人は今殺すのはダメなんだろう?」

「犬の方は殺してもいいですよ」

「……やっぱり帰る。今からなら例の限定ピザをテイクアウトしても間に合うはずだ」

「あはは、そうですね。すみません、お楽しみの邪魔しちゃって」


 イルタが乗るフライデの頭上に、先の戦いの時と同じように、円盤えんばん状の飛行物体が現れる。飛行物体はフライデを格納すると、風切り音を立ててすさまじい速度で飛び去って行った。


(コイツら……イルタもシャマスも、何考えてるかイマイチ読めねえ)


 困惑こんわくを覚えながら、カリオはイルタが消えた宙を見つめる。




「どうします? カリオさん。無理なら僕は別の方法を考えます」

「……シャマス、ゆっくり考えている時間はないよな?」

「……最悪のケースを想定するなら、一時間以内にマヨの精神が完全に破壊される可能性もゼロじゃありません」


 カリオは目を閉じる。十秒ほどの沈黙ちんもくが続いた後、目を開けた彼は決断する。


「やろう。俺は飛び込む。シャマス、手伝ってくれ」




 ◇ ◇ ◇




(ぐぬぬ……)




 ぼんやりとした意識の中、マヨは周囲を飛び交う熱と光に思念しねんを飛ばす。すぐ近くにいる親しい人達の気配。そこに危害を及ぼすわけにも――


 ――今、危険な状態にある自分に近づけさせるわけにもいかなかった。


(ニッケル、リンコ……カリオ……帰ってくれです。私が我慢できなくなったら、みんなを――)


 不意に、意識が少しだけ光のする方へ浮上する。飛び交う熱と光をかき分けて、何かが、誰かの気配が近づいてくる。




(……シャマス兄ちゃん?)




 ◇ ◇ ◇




 橙色だいだいいろ機体ウストク、サンデが両の手のひらを光の竜巻へ向ける。すぐには何も変化しなかったが、十数秒ほど経つとかねのような風切り音が低くなり、暴風のような速さで飛んでいた光の粒子がゆっくりとおそくなっていく。


「おーすげえな……いや、俺は正義の味方としてまだコイツのことは信用して――」

「少しマズいですね」

「セリフぶった切られた」


 ボンの言葉をさえぎって、シャマスが両手を竜巻にかざしたまま、口を開く。


「マヨは、カリオさん達への被害を防ごうとしているだけじゃない――あなた達を近づけないようにしようとしている」

「何?」


 カリオは怪訝けげんそうにまゆをひそめる。


「今の自分の状態が不安定であることを理解している。あなた達を巻き込みたくないと思っている」

「……助けを求めたりはしてないってのか、あんなガキなのに」

「カリオさんが飛び込もうとして、下手に拒否反応きょひはんのうを示したりしたら危険です。エメトがカリオさんを攻撃しかねない」


 カリオは竜巻にはばまれて見えない、その中心を真っ直ぐに見据みすえる。






「……行くさ。大丈夫」


 カリオはゆっくりと渦巻く光の風に向かって一歩踏み出す。


(――まあ、そこまで優しくしてやった覚えもないが――)


 カリオの腰のポケット、マヨから預かった小瓶こびんの中で、シャボン液がらめく。


(――そこまで嫌われてもいねえだろう)


 踏み出した足が、光の中へ入っていく。


(――俺を見ろ、マヨ)




(マヨ・ポテトの災難EX㉕ へ続く)


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