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【第一部エピローグ】天色の空と日差しの中で




 ◇ ◇ ◇




「おう……おう……うん、わかった。助かったで、気いつけて帰ってきーや。おおきに……よし」

「お、なんや? 廃品回収業者はいひんかいしゅうぎょうしゃが見つけた例のタイムマシンの調査の報告?」


 NISのオフィス。通信機を机に置いたショウに、ナスビはその通話内容を聞いてみる。


「せや。断定とまではいかへんかったが、ホシノタウンからサルベージした情報と重ね合わせて十中八九、イニスア文明のタイムマシンらしい。ひひひ、そないなオーバーテクノロジーの塊、これからどこが引き取るかお偉いさん達がめるで~」


 悪そうな笑顔を作るショウに、ナスビはあきれて肩をすくめる。


「とりあえず、この前のレトリバーっちゅう船に連絡した方がええよな? 今の話やと例の女の子がそれに乗ってホシノタウンを脱出、そのしばらく後でこの前の傭兵さん達に拾われたってことやろ?」


 ナスビは通信機を指さすが、ショウは頭をかいて困ったような顔をする。


「あ~……まあ一応は言っといた方がええかもしれんけどな、アイツら最近連絡取れへんねんや」

「え?」

「どこにおるかわからんし、通信もアドレス変わったんか捕まらへんねんなぁ。まあワイらがガチで調査したらわかるやろけど、そんなストーカーみたいなことするほどでもないかなって」




 ◇ ◇ ◇




「輸送地上艦四隻よんせきのグループがビッグスーツの部隊に襲撃されました。機体特徴から先日のドーンブレイカー残党と推測――お嬢様じょうさまの機体はすぐに出撃可能です」


 豪邸ごうていの美しい廊下ろうかをレイラ・モッツァと執事しつじのバジル・メボークが速足で歩く。


「ありがとうじいや。そうだ、申し訳ないのだけれども別に頼んでおいた――」

「〝イニスアの囚人〟の潜伏せんぷく先の調査についてですが、ある程度まとまった人数で調査団を結成できないか、連合の各所に提案をしている段階です」

「ホントに助かるわ。進捗しんちょくがあれば私が帰還した際に教えて」

「かしこまりました。お気をつけて」


 二人の目の前で格納庫の扉が開く。そこに立つアカトビをレイラは見上げた。




 ◇ ◇ ◇




 草原の高台の上から遠方の町を見やる地上艦の集団。その船体からはリボルバー拳銃けんじゅうを握る赤いドラゴンの絵が描かれた黒いはたがいくつもかかげられている。地上艦の群れの前方でピンク色のビッグスーツ、「ゼルディ」に乗るタヨコ・ソーラは、後ろのその旗を見上げてまゆをひそめる。


「やっぱダサいっしょ。ユデンのセンスはガキすぎ」


 そのさらに前方、金色のビッグスーツ、「ハオク」に乗るユデン・イオールはその言葉を笑い飛ばす。


「いいじゃねえか。ドラゴン! 銃! 二つとも強そうだしよ。せっかく人数も増えて悪のファミリーって感じがしてきたんだ。派手な旗が欲しいし必要だろ」

「チョイスが十歳児なのよ。アンタが十歳児の知能と趣味しゅみでもギャップえとかにはなんねえのよ」


 二人が話す後ろで緑色のビッグスーツ、「レギュラ」に乗るチネツ・マグが口を開いた。


「そろそろ時間だ。フリクもいいな?」

「おう早く行こうぜ、勃起ぼっきが止まらねえ」


 その真上で翼を持った青いビッグスーツ、「ユト」に乗ったフリク・フシャが落ち着かない様子で下方の町を見下ろす。




 金色のハオクが右手に持つ刀を高く掲げ、そのコックピットでユデンが高らかに叫ぶ。


「お楽しみの時間だ! 殺せ! うばえ! 眼下がんか雑魚ざこどもが抱えているモノは今この瞬間から俺達、ユデン・ファミリーのモノだ!」


 そのさけびと共に何十機ものビッグスーツが町を目指し進軍し始めた。




 ◇ ◇ ◇




「えぇ!? またイルタちゃんコールドスリープ入っちゃったの!?」


 太陽の光が入らず、空の見えない庭。イニスアの囚人の一人、ナハブがコーヒー片手に驚きの声を上げる横で、赤髪で筋骨隆々《きんこつりゅうりゅう》の男、ルガルは串団子くしだんごを一つ、口に入れる。


「なんでなんでぇ!? せっかく起きられたのに!」

「もう二十年寝てみるから強そうで面白そうな奴が出てきたら起こしてとか言ってたな」

「えぇ……てか当然のように俺達に起こしてもらうつもりなんだね……」


 ルガルとナハブが話す隣では小柄こがらな――少なくとも見た目は――少年のスベンも、初老のニヌギルと共に串団子を味わっている。


「僕は構いませんよ。他の人よりずっと老化が遅いですから」

「じゃあスベンに頼んじゃお。でも紅一点がいなくなるとはながないよねこのメンバー。誰かスカウトしちゃおっか」


 三人が話していると、フン、と鼻をならして長身の男性が暗闇から歩み出てくる。その銀髪のポニーテールの男――マドクは忌々《いまいま》しげに喋り出す。


「イルタがいないと思ったらそういうことか。毎度身勝手な」

「……マドクっていつもイルタちゃんのことゴリラゴリラって言ってるけど、その割にはイルタちゃんの話になるとすぐからんでくるよね? ひょっとしてホントは仲良くしたいの?」

「そうだが」


 コーヒーを口に含んだナハブはマドクの返しに思わずコーヒーをき出した。


「私より強い女だぞ? 味方に付ければ頼もしいことこの上ない! なのにアイツは私のコトなぞ興味も示さず――待て、シャマスもいないじゃないか。まさか」

「アイツなら最近は毎日〝門限〟ギリギリまで出かけとるぞい」


 団子を頬張ほおばりながらニヌギルがマドクに教えると、マドクはもう一度鼻を鳴らして舌打ちする。その様子を見たルガルが、苦笑いしながら団子のなくなった串を指先でくるくる回しながら立ち上がる。


あせるなよマドク。急ぐ必要なんてまるでないじゃないか。外の奴らに俺らは殺せない――今、この大陸で一番自由なのは俺達だ」




 ◇ ◇ ◇




 KABOOOOOOM!!


「おーう、今日もやっとるなカブーム博士」


 アキタタウンのカブーム博士の研究所の爆発ばくはつを、のんびりながめる中年の男性の足元で、バトルポメラニアンのボンが尻尾しっぽを振りながらジャーキーにかじりついている。


「ゴロゴロ団がいなくなってすっかり平和さね」

「そんなことはないぞ!」


 ボンがするどい眼差しで中年男性を見上げる。


「勇者である俺にはわかる。このアホみたいな晴れ空……これは嵐の前の静けさだ。いずれまたこの大陸は混乱の時へと突入する!」

「ボン、言うてお前も最近はワシのあげたジャーキー食って散歩して帰るだけやないか? てかジャーキーそんな食ってると体に悪いぞ」

「ちょっとしたバケーションってヤツだ。そう、今この時も力をたくわえているのだ――アイツらも。勇者である俺にはわかる」

「アイツら?」


 首を傾げる中年男性の前で、ボンはジャーキーを最後まで食べきる。


「アイツらだ。いずれわかる。そこら辺とかあの辺の命運がアイツらにかかっている。あの三人にな」

「……悪いもんでも食わせちまったかなぁ」


 ボンは否定ひてい抗議こうぎの意味を込めて中年男性に向かって一回吠えた。




 ◇ ◇ ◇




 遠い遠い宇宙の向こう。


 私たちの住む地球よりもっともっと大きな惑星マール。


 大きな大きな大陸テエリク。


 統治者であったケーワコグ共和国は倒れ、その大陸は混沌の大地と化した。


 傭兵ようへい・賞金稼ぎ・私設軍隊・企業・マフィア・盗賊・テロリスト――


 様々な人々が様々な思惑おもわくの下に来る日も来る日もドンパチドンパチ命をけて戦っていた。




 そんな世界を駆け抜けるある傭兵たちとある少女の物語はここで一段落。




 物語の再開は、少女の誘拐騒動ゆうかいそうどうから半年後。


 晴れ空の下、大陸の真ん中の辺りから――




(ブンドド! 第一部 終)

(ブンドド! 第二部へ続く)





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