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マヨ・ポテトの災難EX㉘




 ズドォン!




「!?」


 カリオとマヨは突然後方から聞こえてきた爆音に振り向く。プルツ・サンデの入っていた格納庫が炎をあげ爆散していたのだ。


 炎の中から影が歩み出てくる。四足歩行の狼型おおかみがたビッグスーツ……エクスギャリワンだ。


「ぬう……竜巻に突撃したついでに怪しいロボを破壊したらすっかりフロストパックがボロボロになってしまった」


 エクスギャリワンのパイロット、ボンはブルブルと身を震わせて、ボロボロになった全身に装備された「フロストパック」を体からがすと、正面に立つカリオのクロジに気づいた。


「おい、一応聞くけどアレこわして大丈夫だったよな? 生命反応もなかったし」

「……勇者って結構勢いで生きてるんだな。まあ元々破壊が前提の作戦だったけどよ」




 カリオがボンの様子に苦笑いしていると、基地の周囲をおおっていた光の竜巻がだんだんと消えていく。


「竜巻が……プルツ・サンデが破壊されたからか?」

「……リオ! カリオ! 聞こえるか?」


 クロジのコックピットのスピーカーからニッケルの声が聞こえてくる。


「ニッケルー!」


 反射的にマヨがスピーカーに向かってニッケルの名前を呼ぶ。


「!? おい待て、マヨか!?」

「え!? うそ!? マジ!? 今そっちに――」


 ニッケルのおどろきの声と一緒にリンコの声も通話に入って来る。次の瞬間、上空から二機の黒いコイカルがカリオの目の前に飛来してくる。二機は着地に失敗して盛大に転んだ。


「カリオ! もうマヨ助けたのか!? 急いで飛んできたんだが」

「カリオと通信取れなくなって焦ってたら、竜巻なんかトロくなったから思い切って飛び込んだりしてきたんだけどそーなの!?」


 起き上がりながら、驚きのあまりたどたどしい説明台詞を口から出してしまう二人に、カリオはマヨの頭を雑にでながら答えた。


「無事だ、今コックピットから一旦降りる」


 またあわててニッケルとリンコがコックピットから外へ飛び出すと同時に、カリオも膝立ひざだちさせたクロジから、マヨを抱いてコックピットから地上へ降りる。




 カリオがマヨを地面に下ろしたところでリンコが駆け寄り――思いっきりカリオの顔面にグーパンを入れた。


「ふごっふ!?」

「馬鹿ァ! 急に通信切れてチョー心配だったんだからぁ! うわーん! マヨぉ!」


 しりもちをつくカリオの横でリンコはマヨに抱き着いて大声で泣き始めた。緊張が解けたのか、マヨも大きな声で泣き始める。


 あきれながらニッケルは、理不尽りふじんさに不満そうな表情を見せるカリオに手を伸ばす。


「アイツもやったのか?」

「ん? ……ああ、片付いた。逃げてった子分ども以外はもう問題ないと思う」

「……お疲れさん。ようやく、だな」




 カリオはニッケルに引っ張られながら体を起こす。そのタイミングで、ショウとナスビ、レイラの機体が続いて近くに着地した。三人はコックピットから降りると、カリオ達の近くへ歩み寄る。


「ショウの仕事と被ったみたいでな、レイラじょうもすぐ近くにいたらしく手伝いに来てくれたんだ」

「マジか、手間かけさせちまったな」


 申し訳なさそうに頭を掻カリオに、ショウは手を横に振る。


「何言うとんねん。丸刈りの兄ちゃんがまとめてやっつけてくれたおかげでむしろ仕事が楽になったってもんよ」

「ショウ!! 見て!! こっちにしゃべる犬おる!! ホンマもんのバトルポメラニアンや!!」

「ボンだ!! 礼儀のなってない女だ!!」


 いつの間にかコックピットから降りていたボンとじゃれつくナスビに呆れながら、ショウはニッケルの方を見る。


「ワイとナスビはもう少しここに残る。 色々と調べな……あーその、悪いことはせえへんさかい。少なくともアンタらとは敵になりたくないし」

「一応、俺らのクライアントからは首領しゅりょう討伐とうばつとそこのガキンチョの救出だけしか言われてねえから、大丈夫さ」

「あんがと! 気つこうてもろて悪いな。レイラ嬢はどうするんや?」


 ショウが振り返ると、レイラはどこから出したのか、ティーカップで紅茶を飲んでいた。


「一旦は父の会社の用事を済ませにここに来る前に訪れていた街に戻ります。その後、スズカ連合に協力を依頼し、逃げ出したドーンブレイカー残党の捜索そうさくに取り掛かります」

「なるほど……え? いきなり?」

「……? たみに害なす者、斬るのは早いに越したことはないと思いますが」




 ショウとニッケルが苦笑いする横で、リンコとマヨがようやく泣き止んだ。


「本当にありがとな。さて」

「俺達は帰って寝るか」

「よっし高額報酬! 明日ちゃんと貰わなきゃね!」

「ごはん!」


 三人の傭兵ようへいと一人の少女の、いつもより少し長い一日が終わろうとしていた。




 ◇ ◇ ◇




「ニッケル、お前一人か見張り?」

「カリオとリンコと三交代で二十四時間体制にする」

「あー……そっちの方がいいか。とにかく目的地まで変な目に合わないことを祈るぜ」


 「ドーンブレイカー」との激戦から一週間後、キクチシティの港から一隻のサンディブラウンの地上艦――「レトリバー」がゆっくりと加速して出発する。ドーンブレイカーの襲撃しゅうげきの時に受けた損傷は完全には修理できておらず、外からも確認できるほどの傷がまだ残っている。船体の修理と重傷のクルーの治療を引き継ぐことが可能な都市まで、カリオ達のビッグスーツで周囲を警戒けいかいしながら向かうことになった。




 その港で今回の仕事の依頼者であるトロン・ボーンは、自身の秘書ひしょの女性と共に、離れていく彼らの船を見送っていた。


「いいんですか市長」

「ん?」

「あの女の子には彼らの船から降りてもらう事になっていたのでしょう?」


 トロンはレトリバーを見つめたまま笑みを作る。


「そう思っていたんだけどね。彼等は強いし、マヨ・ポテトもひょっとしたらあの船の中の方がかえって安全かもしれない。それに、作れる貸しは作っておこうと考えを改めてな」

「貸し、ですか」

「依頼しておいてなんだが、今回の件で彼らの実力の程はわかった。アレだけの腕利うでききがどの自治勢力・組織にも属さずに、自由な意思で戦いや味方を選ぶというのは恐ろしい話だ。何かの拍子に敵対勢力に加勢されたらたまったもんじゃない。ハットリシティのエージェントやスズカ連合のエースも、今回の作戦に協力してくれていたみたいだが同じように考えるだろう」


 トロンの隣で秘書は、美しく手入れされたオーバル型のメガネのズレを直す。


「キクチシティが受けた損害の補填ほてんを引き受けたのもそういうことですか。それだけやるのであれば、いっそはっきりカミヤシティの専属となるよう、直接打診してみてもよかったのでは?」


 それを聞いたトロンはふふっ、と小さく笑い声を上げる。


「あんまり攻め気なアプローチには慣れてなくてね。大丈夫。今はこれくらいの距離間の方がいいさ」




 その時、トロンのほおのすぐ横を、風に流された何かがふわりと横切る。




 硝子がらすのような透明な膜に虹色の光を吸い込んでその表面に浮かび上がらせる――シャボン玉。




 去り行くレトリバーから大量のシャボン玉が飛んできていた。柔らかく優しいいくつもの球体が、青空の下の荒野をはなやかにいろどる。


 そのレトリバーの甲板。


「おい、あの小瓶こびんだけじゃなかったのかよ。次の見張り俺だぞ? それまでに終わるのか?」

「んじゃニッケルにも見張り終わったらやらせるです」

「いや、寝かせてやれよ。てか逆にリンコはまだ寝てるのかよ、子守り手伝ってくれよー」


 甲板にはシャボン液で一杯になったバケツがいくつも並んでいた。この一週間でドーンブレイカーの事件での疲れは取れてしまったらしく、マヨは一心不乱にシャボン玉を作りまくってはしゃぎ倒していた。


「カリオ! 次、このデカい奴でデカいの作る!」

「わーった、待て、そこ引っ張ると痛え。わーったから引っ張るなって」


 あちこちに薄く火傷やけどの跡が残っているカリオは、マヨのはしゃぎように思わず笑い出しながら、彼女のうながすままにシャボン玉を作り始めた。




 強すぎるぐらいまぶしい日差しと、高く青い空の下で。




 ◇ ◇ ◇




「旧共和国陸軍の元左官さかんが率いる武装集団『ドーンブレイカー』、『ブラックトリオ』の異名で知られる傭兵チームにより事実上の壊滅かいめつ


 多くの都市・組織が危険視するも対処に手間取っていた集団を、腕利きの傭兵チームが倒したという一報は、すぐに大陸中へと広まった。そしてその中には、トロンと同じように、彼等の実力を評価し繋がりを持とうと、行動を始める者達もいた。






 しかしキクチシティからの出港以降、地上艦レトリバー、そして「ブラックトリオ」と呼ばれる傭兵達は、半年間、その姿を戦場に現すことはなかった。




(第一部エピローグ 天色の空と太陽の下で へ続く)

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