ズドォン!
「!?」
カリオとマヨは突然後方から聞こえてきた爆音に振り向く。プルツ・サンデの入っていた格納庫が炎をあげ爆散していたのだ。
炎の中から影が歩み出てくる。四足歩行の
「ぬう……竜巻に突撃したついでに怪しいロボを破壊したらすっかりフロストパックがボロボロになってしまった」
エクスギャリワンのパイロット、ボンはブルブルと身を震わせて、ボロボロになった全身に装備された「フロストパック」を体から
「おい、一応聞くけどアレ
「……勇者って結構勢いで生きてるんだな。まあ元々破壊が前提の作戦だったけどよ」
カリオがボンの様子に苦笑いしていると、基地の周囲を
「竜巻が……プルツ・サンデが破壊されたからか?」
「……リオ! カリオ! 聞こえるか?」
クロジのコックピットのスピーカーからニッケルの声が聞こえてくる。
「ニッケルー!」
反射的にマヨがスピーカーに向かってニッケルの名前を呼ぶ。
「!? おい待て、マヨか!?」
「え!?
ニッケルの
「カリオ! もうマヨ助けたのか!? 急いで飛んできたんだが」
「カリオと通信取れなくなって焦ってたら、竜巻なんかトロくなったから思い切って飛び込んだりしてきたんだけどそーなの!?」
起き上がりながら、驚きのあまりたどたどしい説明台詞を口から出してしまう二人に、カリオはマヨの頭を雑に
「無事だ、今コックピットから一旦降りる」
また
カリオがマヨを地面に下ろしたところでリンコが駆け寄り――思いっきりカリオの顔面にグーパンを入れた。
「ふごっふ!?」
「馬鹿ァ! 急に通信切れてチョー心配だったんだからぁ! うわーん! マヨぉ!」
「アイツもやったのか?」
「ん? ……ああ、片付いた。逃げてった子分ども以外はもう問題ないと思う」
「……お疲れさん。ようやく、だな」
カリオはニッケルに引っ張られながら体を起こす。そのタイミングで、ショウとナスビ、レイラの機体が続いて近くに着地した。三人はコックピットから降りると、カリオ達の近くへ歩み寄る。
「ショウの仕事と被ったみたいでな、レイラ
「マジか、手間かけさせちまったな」
申し訳なさそうに頭を掻
「何言うとんねん。丸刈りの兄ちゃんがまとめてやっつけてくれたおかげでむしろ仕事が楽になったってもんよ」
「ショウ!! 見て!! こっちに
「ボンだ!! 礼儀のなってない女だ!!」
いつの間にかコックピットから降りていたボンとじゃれつくナスビに呆れながら、ショウはニッケルの方を見る。
「ワイとナスビはもう少しここに残る。 色々と調べな……あーその、悪いことはせえへんさかい。少なくともアンタらとは敵になりたくないし」
「一応、俺らのクライアントからは
「あんがと! 気
ショウが振り返ると、レイラはどこから出したのか、ティーカップで紅茶を飲んでいた。
「一旦は父の会社の用事を済ませにここに来る前に訪れていた街に戻ります。その後、スズカ連合に協力を依頼し、逃げ出したドーンブレイカー残党の
「なるほど……え? いきなり?」
「……?
ショウとニッケルが苦笑いする横で、リンコとマヨがようやく泣き止んだ。
「本当にありがとな。さて」
「俺達は帰って寝るか」
「よっし高額報酬! 明日ちゃんと貰わなきゃね!」
「ごはん!」
三人の
◇ ◇ ◇
「ニッケル、お前一人か見張り?」
「カリオとリンコと三交代で二十四時間体制にする」
「あー……そっちの方がいいか。とにかく目的地まで変な目に合わないことを祈るぜ」
「ドーンブレイカー」との激戦から一週間後、キクチシティの港から一隻のサンディブラウンの地上艦――「レトリバー」がゆっくりと加速して出発する。ドーンブレイカーの
その港で今回の仕事の依頼者であるトロン・ボーンは、自身の
「いいんですか市長」
「ん?」
「あの女の子には彼らの船から降りてもらう事になっていたのでしょう?」
トロンはレトリバーを見つめたまま笑みを作る。
「そう思っていたんだけどね。彼等は強いし、マヨ・ポテトもひょっとしたらあの船の中の方がかえって安全かもしれない。それに、作れる貸しは作っておこうと考えを改めてな」
「貸し、ですか」
「依頼しておいてなんだが、今回の件で彼らの実力の程はわかった。アレだけの
トロンの隣で秘書は、美しく手入れされたオーバル型のメガネのズレを直す。
「キクチシティが受けた損害の
それを聞いたトロンはふふっ、と小さく笑い声を上げる。
「あんまり攻め気なアプローチには慣れてなくてね。大丈夫。今はこれくらいの距離間の方がいいさ」
その時、トロンの
去り行くレトリバーから大量のシャボン玉が飛んできていた。柔らかく優しいいくつもの球体が、青空の下の荒野を
そのレトリバーの甲板。
「おい、あの
「んじゃニッケルにも見張り終わったらやらせるです」
「いや、寝かせてやれよ。てか逆にリンコはまだ寝てるのかよ、子守り手伝ってくれよー」
甲板にはシャボン液で一杯になったバケツがいくつも並んでいた。この一週間でドーンブレイカーの事件での疲れは取れてしまったらしく、マヨは一心不乱にシャボン玉を作りまくってはしゃぎ倒していた。
「カリオ! 次、このデカい奴でデカいの作る!」
「わーった、待て、そこ引っ張ると痛え。わーったから引っ張るなって」
あちこちに薄く
強すぎるぐらい
◇ ◇ ◇
「旧共和国陸軍の元
多くの都市・組織が危険視するも対処に手間取っていた集団を、腕利きの傭兵チームが倒したという一報は、すぐに大陸中へと広まった。そしてその中には、トロンと同じように、彼等の実力を評価し繋がりを持とうと、行動を始める者達もいた。
しかしキクチシティからの出港以降、地上艦レトリバー、そして「ブラックトリオ」と呼ばれる傭兵達は、半年間、その姿を戦場に現すことはなかった。
(第一部エピローグ 天色の空と太陽の下で へ続く)