「あのバリアー、トロンが言っていた別の防御装備か」
上空のシトドを見上げ
「大丈夫だ。早いとこレトリバーに帰らねえとな」
カリオはビームソードを
「フ、フフン。そうだ貴様が私に勝とうなど――」
ドォン!
今日一番強い踏み込みから、カリオのクロジがコレスのシトド目掛けて跳び上がり、突っ込む!
「ひっ!?」
ウキヨエ流
「ぐおお!」
衝撃でシトドは更に上へ打ち上げられる。強い振動がバリアー
「クッ、無駄だ! このバリアーは決して――」
ブォン!
「!?」
カリオは素早く納刀し、また抜刀! 再び宙を×字状に、青い閃光が走る!
一瞬二斬バッテン!
「がぁ!?」
球状のバリアーの表面が、石を投げ入れられた水面のように
ブォン!
「ぐおぉ!?」
一瞬二斬バッテン!
三度目のバッテンを受けたバリアーが激しく揺らめき、変形する! もはや形を保ってはいられないようだ。
「や、やめろ! やめ――」
ブォン!
「あ……」
一瞬二斬バッテン!
ビキィン!
四度目のバッテン。×字の光を受けたバリアーは、ついに
「ギャアアア!」
シトドの
バリアーを失い、激痛のあまりまともな防御態勢もとれないコレスのシトド。そこにカリオは、五度目の居合を放つ。
◆ ◆ ◆
「この船で
ホシノタウンを出て一週間ほど経った頃。地上艦「レトリバー」で傭兵の仕事をすると決めたカリオが、格納庫上階のキャットウォークで
「ほれ飲めよ、えーと、なんだ? 入社祝い?」
「会社ってナリじゃないだろこの船……いや、ありがとう」
タックに缶コーヒーを渡され、カリオは気の抜けた顔でそれを口に含む。
「でもよ、いいのか?」
「ん?」
「勝手に艦にアンタのビッグスーツ持ち込んでおいてなんだけどよ、あの町の知り合いには、もう戦うのはよしとけって言われたりしたんだろ?」
「……ん-」
カリオは天井を見上げる。
もし、自分の人生から「戦い」を捨てるのなら、今がその時だろう。この先誰も
けれども、胸の奥でずっとつっかえているコトがあった。
結局、ホシノタウンでの戦いではルースや仲間達を救う事が出来なかった。だったらあの日の戦いは、無駄だったのだろうか。もし――もし〝戦う事すら出来なかった〟としていたら、何かが変わっていただろうか。
自分の意志で戦う。誰かの命令で戦う。
戦ったから救えた。戦っても守れなかった。
戦える。戦えない。
この一週間、カリオの頭の中をずっと「戦い」が巡っていた。
誰かが戦わなければならない、命を懸けて手を血で汚さなければならない時があるのなら――
――その損な役回りは俺がやる。
「……どうも俺は、町のみんなが思ってるほど性格のいい奴じゃなかったみたいでな」
「ほう?」
「確かにもう戦うなとは言われたんだけど、この一週間戦いのコトばかり頭から離れねえ」
「なおさらヤベエじゃん。俺でもちょっとやめといた方がいいんじゃないかと思うわ」
「大丈夫さ」
少し心配そうな表情で見てくるタックの横で、カリオはもう一口コーヒーを飲む。
「ここの二人の傭兵、ニッケルとリンコって言ったか。昨日は戦中のどさくさに紛れて人身売買を企んでたグループを
「おう」
「そういうのを見たり聞いたりしてるとさ、落ち着かねえんだ。脈が早くなって息が止まるような感じがして――戦えるなら戦いてえって。座して待つ、なんて耐えられなくてよ」
「……やっぱヤベエじゃん。心のケアがいるだろ」
カリオは残りのコーヒーを飲み干す。
「空き缶は――」
「食堂のゴミ箱に捨ててくれ……あ、そうだ」
タックは空き缶を捨てに行こうとするカリオを引き留め、ハンガーに立つカリオの白いクロジを指さす。
「まあ心のケアは本当にヤバくなった時にするとして……機体、白のままでいいか? いやほら、おまえのも黒くしたら三人の傭兵全員が黒い機体で
「……」
カリオは白いクロジを見つめる。共和国軍が好んで用いた白いクロジ。
仲間だった兵士達と揃いの色
自分から大切な人達を奪っていった奴らが揃えていた色
人を殺した時に乗っていた機体の色
小さな頃、憧れていた人達が見せてくれた写真に写っていた機体の色
カリオは空になったコーヒーの缶をまた口に付けて、中身を飲もうとする。さっき全部飲んだことを思い出して口から缶を離すと、タックに答えた。
「――そうだな。俺のも黒く
◇ ◇ ◇
ブォン!
五発目――先の四発より更に速く、二本の閃光が流星のように走る。
ウキヨエ流居合術・一瞬二斬バッテン。
「し、死にたくな……うあああああ!!」
無防備となっていたシトドに、×字の斬撃が直撃する。
ギャギギィン!
斬撃は容赦なくシトドを斬り裂き、バラバラにする!
「あああああああ!!」
コックピット内でド派手に
欲望のままに、
シトドの残骸の落下と共に、カリオのクロジは地上へと降り立つ。周囲を赤い火の粉が舞い、辺りを赤く照らす。
「……カリオ」
横から聞こえてきた声に我に返ったカリオはそちらを見た。マヨはしっかりとカリオの腕にしがみついて、彼の目を
「ああ、悪い……大丈夫だ。さ、帰るか。腹減ったろ?」
(マヨ・ポテトの災難EX㉘ へ続く)