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マヨ・ポテトの災難EX㉗

「あのバリアー、トロンが言っていた別の防御装備か」


 上空のシトドを見上げつぶやくカリオの横で、マヨが少し不安そうに彼の顔を見上げる。カリオはそれに気づくと不敵ふてきな笑みを見せた。


「大丈夫だ。早いとこレトリバーに帰らねえとな」


 カリオはビームソードを充填部じゅうてんぶに納刀する。それを見たコレスは、相手が戦意を喪失そうしつしたのだと思い、にやつく。


「フ、フフン。そうだ貴様が私に勝とうなど――」




 ドォン!




 今日一番強い踏み込みから、カリオのクロジがコレスのシトド目掛けて跳び上がり、突っ込む! 


「ひっ!?」


 おどろいたコレスはバリアーの内側で思わずシールドを構える。カリオはお構いなしに抜刀ばっとう、二本の青い閃光せんこうが×字状にコレスのバリアーをらんとちゅうを走る!


 ウキヨエ流居合術いあいじゅつ・一瞬二斬バッテン!


「ぐおお!」


 衝撃でシトドは更に上へ打ち上げられる。強い振動がバリアーしに、コックピットのコレスに伝わる。だがバリアーは破られてはいない。




「クッ、無駄だ! このバリアーは決して――」


 ブォン!


「!?」


 カリオは素早く納刀し、また抜刀! 再び宙を×字状に、青い閃光が走る!


 一瞬二斬バッテン!


「がぁ!?」


 球状のバリアーの表面が、石を投げ入れられた水面のようにらめく!


 ブォン!


「ぐおぉ!?」


 一瞬二斬バッテン!


 三度目のバッテンを受けたバリアーが激しく揺らめき、変形する! もはや形を保ってはいられないようだ。


「や、やめろ! やめ――」


 ブォン!


「あ……」


 一瞬二斬バッテン!




 ビキィン!


 四度目のバッテン。×字の光を受けたバリアーは、ついに独特どくとくはじけるような音を出して消滅しょうめつ! 斬撃ざんげきはそのままシールドごとシトドの左腕を断ち切る!


「ギャアアア!」


 シトドの損傷そんしょうのフィードバックで、コレスの左腕も切断される。傷口から血がき出すとともに、コレスを激痛がおそい、彼は思わず叫ぶ。




 バリアーを失い、激痛のあまりまともな防御態勢もとれないコレスのシトド。そこにカリオは、五度目の居合を放つ。




 ◆ ◆ ◆




「この船で傭兵ようへいやってくれるんだってな」


 ホシノタウンを出て一週間ほど経った頃。地上艦「レトリバー」で傭兵の仕事をすると決めたカリオが、格納庫上階のキャットウォークですずんでいると、チーフメカニックのタック・キューが話しかけてきた。


「ほれ飲めよ、えーと、なんだ? 入社祝い?」

「会社ってナリじゃないだろこの船……いや、ありがとう」


 タックに缶コーヒーを渡され、カリオは気の抜けた顔でそれを口に含む。


「でもよ、いいのか?」

「ん?」

「勝手に艦にアンタのビッグスーツ持ち込んでおいてなんだけどよ、あの町の知り合いには、もう戦うのはよしとけって言われたりしたんだろ?」

「……ん-」


 カリオは天井を見上げる。


 もし、自分の人生から「戦い」を捨てるのなら、今がその時だろう。この先誰もあやめず、つつましく生きる。過去の罪はいつまでもついて回るだろうが、これ以上のとがを積み重ねるよりかはマシなように感じる。


 けれども、胸の奥でずっとつっかえているコトがあった。


 結局、ホシノタウンでの戦いではルースや仲間達を救う事が出来なかった。だったらあの日の戦いは、無駄だったのだろうか。もし――もし〝戦う事すら出来なかった〟としていたら、何かが変わっていただろうか。




 自分の意志で戦う。誰かの命令で戦う。


 戦ったから救えた。戦っても守れなかった。


 戦える。戦えない。




 この一週間、カリオの頭の中をずっと「戦い」が巡っていた。




 誰かが戦わなければならない、命を懸けて手を血で汚さなければならない時があるのなら――




 ――その損な役回りは俺がやる。




「……どうも俺は、町のみんなが思ってるほど性格のいい奴じゃなかったみたいでな」

「ほう?」

「確かにもう戦うなとは言われたんだけど、この一週間戦いのコトばかり頭から離れねえ」

「なおさらヤベエじゃん。俺でもちょっとやめといた方がいいんじゃないかと思うわ」

「大丈夫さ」


 少し心配そうな表情で見てくるタックの横で、カリオはもう一口コーヒーを飲む。


「ここの二人の傭兵、ニッケルとリンコって言ったか。昨日は戦中のどさくさに紛れて人身売買を企んでたグループをたたきのめしてたんだろ?」

「おう」

「そういうのを見たり聞いたりしてるとさ、落ち着かねえんだ。脈が早くなって息が止まるような感じがして――戦えるなら戦いてえって。座して待つ、なんて耐えられなくてよ」

「……やっぱヤベエじゃん。心のケアがいるだろ」


 カリオは残りのコーヒーを飲み干す。


「空き缶は――」

「食堂のゴミ箱に捨ててくれ……あ、そうだ」


 タックは空き缶を捨てに行こうとするカリオを引き留め、ハンガーに立つカリオの白いクロジを指さす。


「まあ心のケアは本当にヤバくなった時にするとして……機体、白のままでいいか? いやほら、おまえのも黒くしたら三人の傭兵全員が黒い機体でそろう。そういうのよくねえか? あ、でも白の方が好きなら全然それで構わねえからよ」

「……」


 カリオは白いクロジを見つめる。共和国軍が好んで用いた白いクロジ。




 仲間だった兵士達と揃いの色


 自分から大切な人達を奪っていった奴らが揃えていた色


 人を殺した時に乗っていた機体の色


 小さな頃、憧れていた人達が見せてくれた写真に写っていた機体の色




 カリオは空になったコーヒーの缶をまた口に付けて、中身を飲もうとする。さっき全部飲んだことを思い出して口から缶を離すと、タックに答えた。




「――そうだな。俺のも黒くってくれるか?」




 ◇ ◇ ◇




 ブォン!




 五発目――先の四発より更に速く、二本の閃光が流星のように走る。




 ウキヨエ流居合術・一瞬二斬バッテン。




「し、死にたくな……うあああああ!!」


 無防備となっていたシトドに、×字の斬撃が直撃する。




 ギャギギィン!




 斬撃は容赦なくシトドを斬り裂き、バラバラにする!


「あああああああ!!」


 コックピット内でド派手に血飛沫ちしぶきを上げながら、体を引き裂かれるコレス。その断末魔の叫びと共に、シトドはバラバラになりながら爆散する! 炎をまとったシトドの残骸が、地上へと落ちていく。




 欲望のままに、数多あまたの人々を傷つけた「ドーンブレイカー」首領しゅりょうは、髪の毛一本すら残さずに、この大陸から今、消滅した。




 シトドの残骸の落下と共に、カリオのクロジは地上へと降り立つ。周囲を赤い火の粉が舞い、辺りを赤く照らす。仇敵きゅうてきを打ち倒したカリオは緊張が解け、思わず遠くを見るような目になり、放心状態になる。




「……カリオ」




 横から聞こえてきた声に我に返ったカリオはそちらを見た。マヨはしっかりとカリオの腕にしがみついて、彼の目をのぞき込むように見ていた。




「ああ、悪い……大丈夫だ。さ、帰るか。腹減ったろ?」




(マヨ・ポテトの災難EX㉘ へ続く)





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