◇ ◇ ◇
「妹の意識が濃くなった。どうやら上手くいったみたいですね」
基地の外で光の竜巻の勢いを抑えていたシャマスは、ふぅっと息を吐いて、竜巻の方へかざしていた両手を下ろす。
「……と、いい感じに収まりそうなので今日は僕達、喧嘩するのはやめておきません? バトルポメラニアンさん……ってアレ?」
ボンに話しかけたつもりのシャマスだが、彼がそこにいないことに気づく。
「あらら……ひょっとして犬さんもこの中飛び込んじゃったか。まあだいぶ勢いは抑えたから死にはしないだろうし……僕も帰っちゃおっと」
シャマスが乗るサンデの頭上に、イルタのモノと同様の円盤状の飛行物体が現れる。飛行物体の中へ向かって上昇していくサンデのコックピットで、シャマスはゆっくりと回る巨大な光の竜巻を見つめる。
「――じゃあね、エシュル。この先、僕は君の敵になるか味方になるかまだわからない。もう会うことがないよう、ここでサヨナラしとくよ」
◇ ◇ ◇
プルツ・サンデの格納庫の外では、ビームライフルとシールドを装備した小柄な白いビッグスーツ「シトド」が六機、扉の前方で待ち構えるように立っていた。その内の一機のコックピットで、コレスは格納庫の搬入口を苛立ちながら睨みつける。
やがて、その中から一機のビッグスーツが歩み出てくる。銃も盾も持たない黒いクロジ。
「……カリオ、カリオ・ボーズか……!」
コレスはわなわなと声を震わせながら、目の前の黒い機体の名を小さく口にする。そして叫んだ。
「さっさと死ねよ貴様!! なんでおまえのような学の無い馬鹿にこうも邪魔されなきゃならんのだ! そうだおまえのような……おまえのような奴が部下にさえならなければ!」
「なんとでも言え。俺も――俺達もお前を勘弁する気は全くねえ」
カリオはコレスの怒声を流すと、腰を落としてシトドの集団を睨む。彼の横でマヨも同じように、鋭い視線を目の前の敵へ向ける。二人の胸に浮かぶのは目の前の男に奪われた、大切な人たちの姿。
「お前は今日、ここで叩っ斬る」
ドォン!
地面がひび割れるほど強く踏み込むと、カリオのクロジはシトドの集団へ急接近する。すかさずコレスは大きく跳躍し、味方の後方へ隠れるように移動する。カリオは手近なコレスの部下の機体目掛けてビームソードを抜刀し、斜め下から上へ振り抜く。
(フン、やはり馬鹿! カス! ビームソードは効かないと先日の戦いで――)
味方にビームソードが振り上げられる光景を、蔑むように見ていたコレスの目が大きく丸くなる。
逆袈裟!
カリオの青いビームソードが部下のシトドを斜めに真っ二つにする。斬られたシトドは肩口から下に大きく伸びる切断面を、赤く光らせながら地面に倒れた。これまでカリオが斬り伏せてきた機動兵器たちと同じように。
(……なっ!? なんだ、どういうことだ!? 私のシトドと部下のシトドの仕様に違いはないはず! 何故ビーム兵器が通じる!?)
別の部下が慌てて、手にしているビームライフルの銃口をカリオに向ける……が間に合わない。カリオのビームソードがライフルの銃身を斬り落とし、勢いそのまま左から右へ高速の横薙ぎを放つ。
逆水平!
腰から上半身と下半身を切り離され、二機目のシトドが地面に倒れる。
(バカな……何が起こっている!? 以前とは何が違う? ……まさか! 以前との違い、まさか!)
黒いクロジのコックピットでカリオは残心する。その腕にしがみつくマヨの瞳が、明るい橙色に輝く。
(エシュルか!? まさか……シトドの塗料と反発しそうになるビームソードのエメトを、能力で操作して刃の形を保つよう強引に押し戻しているのか……そうとしか!)
「むう! 女の勘が当たりましたね。あの白い変なロボ、カリオのビームソードを邪魔しやがるです。そうはさせねえです」
「初撃から対応するとはすげえな女の勘」
コレスの推測の通りだった。マヨは瞳を橙色に光らせ、「青月」の刃を構成するエメトがシトドに弾かれそうになるたびに、強引にそれ以上の力を加えてシトドの装甲と接触させていたのだ。
「……ぶははっ! なんかすげぇなお前。今あのクソヤローがどんな顔してるか見てみたいぜ」
カリオは意外なマヨの活躍と敵達の慌てる姿に、思わず笑ってしまう。声に出るほど笑ったのは、ちょっとだけ久しぶりかもしれない。
「よし、しっかり掴まってろ。さっきより派手に動くぞ」
カリオは気を引き締めなおすと、再び腰を落とし、大地を強く蹴る。
マヨは能力を発動しながら、メインモニターに映る光景を見る。凄まじい速さで走る青い閃光。その後ろでぐるぐると回る外の景色。斬られ、切断面を赤く光らせ、スクラップとなって宙を舞い、落下する敵の機体。
マヨは瞬きを忘れて見入る。そこには美しさも、怖さも、厳しさも、悪辣さも――「戦い」の――カリオやニッケル、リンコがいつも身を投じている、命がけの戦いの全てがあった。いつも同じ船で共に時間を過ごしていた仲間が、どのように生きているのかが小さな少女の目と胸に焼き付いていく。
その間、僅か数秒ほど。カリオはコレス機以外のシトド五機を全て斬り伏せた。残るは仇敵ただ一人のみ。
「こ、こんなことが……こんなことで……」
不測の事態に、コレスは激しく動揺する。そして怒り狂い、乱れた表情で叫んだ。
「なんなんだお前は! 私を敬わず! 恐れず! 嫉妬せず! この私の方が……私の方が上のはずなのに!」
その叫びと共にコレスは上空へと飛び上がる。そして次の瞬間、シトドの周囲に六角形がいくつも並んだような、紫色の球状のバリアーが現れる!
「そうだ! 私の方がおまえより上なんだ! 私のエシュルを返せ!」
(マヨ・ポテトの災難EX㉗ へ続く)