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マスタートリオ・オブ・ブラックトリオ②

「お次はニッケルの新機体、『ハネスケ』だ」

「おー、なんかこっちの方が主役機っぽいですよ」


 マヨは「ハネスケ」を見上げる。翼のように板状の装備が並んだバックパック部のおかげで、立ち姿はさながら天使だ。


 コックピットからまたミントンが頭を出す。


「むっふっふ。じっくり見ていきなよマヨちゃん、私の最高傑作さいこうけっさくを!」

「だからお前は手伝ってただけだろが」


 タックのツッコミを受けてミントンは不服そうに眉を寄せてコックピットの中に戻る。タックの後ろのニッケルが質問する。


「ミントン、そんなにハネスケの方、手伝ってくれたのか?」

「一応うちのクルーの中じゃドローンに詳しくてな。今度ニッケルにも手伝ってもらう予定の操作系の調整も、アイツにやってもらうつもりだ」


 言いつつ、タックはバックパックの装備を指さす。


「特注ドローン、『ウェハー』を八基はっき搭載している。多機能だがその分、手動操作はかなり難しい。半ば試験用に近いもんだが、使ってみた感じどうだ? ニッケル」

「この前の戦闘の時は問題なかった。あとはやくネタ共にどれだけ通用するか…」


 ニッケルはユデン一味やイニスアの囚人のことを思い浮かべ、少しばかり自信なさそうな表情を見せる。タックは指をノートパソコンの画面へと戻し、マヨに説明を続ける。


「他に高出力ビームライフル・ビームソード・格闘戦対応シールド・フラッシュグレネード……両手首にはワイヤーアンカーを搭載している」

「おおー、手首からヒモが出るです……蜘蛛男くもおとこ?」


 ノートパソコンを見つめるタックとマヨの後ろから、リンコが顔を覗かせる。


「アタシの! アタシの『チャカヒメ』は?」

「わーったかすな! ハネスケの隣にあるのが『チャカヒメ』。リンコの新機体だ」


 マヨが視線を移した先に、スコープ付きバイザーを額に上げた、黒い機体が立つ。


「背中の両側に改良型ビームスナイパーライフルと実弾マークスマンライフル(ページ下部※①)をマウント。両腰には大型ビームピストル、両足首にフットビームピストル。遠近両方の射撃戦に対応できるぞ」

「ねえ、他にも火器準備してくれてるって聞いたんだけどマジ?」

「ああ、何個か戦況に合わせて使えそうなのを調整している。見せられるようになるまでもうちょいかかるから、また確認しに来てくれ」


 マヨは目を輝かせて三機の新機体を見上げる。


「ほへーすごい! でもなんでまた一気にお船と一緒に買い替えたんです?」

「船も機体も、コレスとの戦いでかなり傷んでたからなぁ。報酬ほうしゅうもタイミングよくデカいがくが入っていたし」

「ぐおお……わたすのお小遣こづかいが増えるとかは」

「カリオに聞け」


 マヨの視線が素早くカリオに移る。


「なんで俺に聞くんだよ!」

「おまえがあげてるんじゃねえのか」

「あげてるけど額を決めてるのは艦長オヤジだよ!」

「あげてんじゃねえか」


 タックと言い合うカリオの顔を見て、マヨは聞いた。


「カリオとニッケルとリンコ、この半年の修行のコト聞きたいです! 修行! お土産話みやげばなし聞かせろください!」




 その言葉を聞いた三人の傭兵ようへいの顔が突然青ざめていく。


「およ?」

「……ダメだマヨ、ダメだ」


 カリオはか細い声を振りしぼってマヨに告げる。


「およ?」

「ダメだ、あのようなことは」

「ダメよ、あれは人のやることじゃない」


 ニッケルとリンコも同じように小さな声を出す。


 三人はたましいが抜けたかのように力なく歩き、そのまま格納庫を出ていく。


「……何があったんですかアレ」

「なんか心のケアがいる感じだなアレ。まあ俺らは気にしなくていいだろ。もうちょっと見ていくかマヨ? 仕方ねえから俺がちょっとだけ面倒見てやるよ」

「タックに面倒見られるほど私はちてねえです」




 ◇ ◇ ◇




 さて


 ドーンブレイカーの事件の後、半年の間カリオ達は何をしていたのか?


 時間をさかのぼって見てみよう!




 ◆ ◆ ◆




 「ドーンブレイカー」との激戦を終え、キクチシティを発って三日後――。


 ズタボロの船体が痛々しいサンディブラウンの地上艦「レトリバー」は、船体の修理と重傷のクルーの治療が可能な街を目指し、荒野を走っていた。それが済んだら亡くなったクルーの遺体いたいを彼らの故郷こきょうに送り届けなければならない。


「……ハリネの方もさっき家族と連絡がついたって」

「そっか……」

「……やっぱクルーが死ぬのばっかりは慣れないね」


 カリオとリンコがレトリバーの食堂、テーブル席に座って力の抜けた様子で休んでいた。船体が損傷した状態で航行している今、三人の傭兵は交代でレトリバーの周囲を見張ることにしており、この時間はニッケルがコイカルに乗り込んで甲板に出て、見張りをしている。




「カリオはさー。この用事済んだらどうする?」

「ん?」

「色々大変だったけど、報酬はいっぱい貰えたじゃん。クルーのみんなで等分しても、爺ちゃん婆ちゃんになるまでのんびり暮らせそうな額は、多分」

「ああー……」


 リンコがテーブルの上に突っ伏しながら話すのを、カリオは天井を見上げながら聞く。


「……命の取り合いする傭兵の暮らし、正直私続けるか迷ってるんだよねー。ナシタにも心配かけられないし」

「あー確かに。そうだなあ」

「カリオもさ、前の戦いで大事なことの決着はついたじゃん? 今回の報酬でのんびり残りの人生過ごしてもバチは当たらないと思うな」

「そうかなあ」


 カリオは上を向いて、天井の模様を眺めながらぼーっと考える。


 終戦してホシノタウンを出て以降、ニッケルやリンコが戦いで弱い人・苦しむ人々を救う姿を見て、自分も傭兵ようへいになった。命のやり取りを飽きるほどしてきて、どれくらいの人を殺してどれだけの人を救えたのだろう? それは正しかったのか、それとも間違ってたのか。この暮らしを続けるべきだろうか、それともやめるべきだろうか。カリオはすぐに決められそうになかった。




 ドゴォーン! ドンガラガッシャン!


 パラリラパラリラパラリラ!

 パラリラパラリラパラリラ!




「!?」




 食堂を包んでいた静かな空気を、突如轟音ごうおん震動しんどう珍妙ちんみょうなラッパの音が切り裂いた!




(※①狙撃銃のうち、突撃銃としての使用も想定して設計されたもの)

(マスタートリオ・オブ・ブラックトリオ③へ続く)

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