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マスタートリオ・オブ・ブラックトリオ①

 タカハシシティから飛び立ったレトリバーⅡ。ブラックトリオと呼ばれる傭兵ようへい達とその仲間達を乗せ、ド派手に新たな門出を決めたレトリバーⅡは三十分後――


 ――地上をゆっくり進んでいた。




「ねえ何で!? さっきまで空飛んでたじゃん!」

「バッテリー滅茶苦茶食うらしくてな、空飛ぶのは」

「じゃあ何で飛んだの!?」

「最初くらいカッコつけたくて……」


 不服そうなリンコ・リンゴに艦長のカソック・ピストンは恥ずかしそうに頭をかきながら答えた。




 しばらくしてレトリバーⅡの医務室。リンコとカソックが話す隣で、マヨ・ポテトが船医のヤム・トロロに身長を計測されていた。カリオ・ボーズとニッケル・ムデンカイがその様子をまじまじと見つめる。


「百三十五センチか……といってもはかるのはこれが初めてだから前と正確な比較はできんが」

「とはいっても二十センチぐらいは確実にびてるだろ? 半年だぞ?」

「〝イニスアぶんめー〟の〝でざいなーべいびー〟であるわたすの……未知のパワ!」


 威張いばるマヨのおでこをカリオが指で小突く。


「記憶が戻ったのはいいが中々波乱万丈はらんばんじょうな人生だよなおまえ……実際のところ自分の年齢とかわかるのか?」

「んー……多分三歳よりは上でがんす」


 カリオはそう答えるマヨを無の表情で見つめ返す。


「まあ……デカくはなったが身体に悪い異常は見られない。様子を見た方がいいとは思うが大丈夫だろ」


 ヤムがマヨの頭をポンポンと叩く。一安心した三人の傭兵ようへいはふぅっとため息をつく。




 ◇ ◇ ◇




 レトリバーⅡ格納庫かくのうこ。ショートボブの髪型かみがたに丸に近いデザインのメガネをした、そばかすの女性メカニック――ミントン・バットが、ハンガーに立つニッケルの新機体のコックピットから顔を出す。


「むっふふー! 我ながらいい仕事っぷりだわー」

「おいミントン、まだ終わらねえのか。こっちも手伝って欲しいんだけど」

「ちょっと! いい気分だったのに! この機体、私の最高傑作さいこうけっさくなんだからもうちょいイジらせてよ!」

「私の、ってお前、トーグリのおっさん手伝ってただけだろがい!」


 機体の足元からチーフメカニックのタック・キューが彼女の発言にツッコミを入れる。


「おい今大丈夫かタック」


 ニッケルの声だ。マヨを連れた傭兵三人組がタックの元へ歩み寄る。


「おお四人衆、どしたい?」

「マヨに新機体見せてやってくれねえか。いいひまつぶしになるだろうし」

「ふむ……」


 タックはミントンの鼻歌が聞こえてくる上を見上げながらため息をついた。


「休憩がてら案内してやるか。ついでにパイロット共も改めて確認していけ。マヨ、あっちに立ってるのがカリオ用の新機体、『ブンドドマル』だ」

「ほえー!」


 マヨはタックが指さした方を見上げて、興奮する。機体色は以前のクロジと同じ黒であるものの、頭部のカメラアイが単眼たんがんのものからアイカバーでおおわれたセンサー式になったことや、手足がやや太く、たくましくなったことから、印象が以前と異なって見える。


「タック、後ろのヒラヒラはなんですか」

「あれはシャンダナ・スタビライザーだ。動物の尻尾しっぽと同じように、様々な動きをするビッグスーツのバランスを取るんだ」


 マヨがブンドドマルの背面の首の下からぶら下がる二本の布状の部品を指さしたのを見て、タックが説明する。


「コイツ、前のより強いですか」

「強い。量産型のクロジと違って、こっちはコレスをシバき倒した時の報酬で用意した、一級品の部品ばかりで出来たワンオフ機だ。まず筋肉が違う!」

「筋肉……マッスル!?」


 タックはノートパソコンを取り出して画面を見せてくる。画面に映っているのは人工筋肉タイプのアクチュエーターの外形だ。


「最新特注人工筋肉『キニクスⅣ』、あらゆるテストで大陸に流通している量産品の二倍以上の数値を記録したハイスペックアクチュエーターだ! だがそれだけじゃない。こいつは特殊素材のおかげで強い負荷がかかると人間の筋肉のように強さを増す性質を持つ!」

「最初は半信半疑はんしんはんぎだったけどマジっぽいんだなこれが」


 実際に搭乗し、戦闘まで行ったカリオがブンドドマルを見上げる。


「何回かブンドドマルに重量物を装備させて動かしてみたが、ちょっとずつ性能は上昇してると思う」

「マジ!? 私とニッケルのは!?」

「二人のは別のところに金使ってるから先代型のキニクスⅢ、カリオのと違って強くなる機能はないが、素のスペックは引けを取らないぜ」


 タックが説明するのを聞いてリンコはほおを膨らませて不満そうにする。それを流すとタックは人差し指を一本立てて、カリオにある注意点を伝える。


「性質上、もし手足が破損するようなことがあれば、部品交換すると一時的にスペックが下がる可能性がある。無対策だときたえる前のスペックに戻っちまうわけだ。そうならないように専用の保管設備でスペアパーツにも負荷をかけ続けてはいるが……それでも交換前後でスペックの差をゼロにするのはまず無理だから十分気をつけてくれよな」

「専用の保管設備……もしかして維持費いじひすごいのか?」

「前の五倍ぐらいかな……」


 タックが五倍と言うのを聞いてカリオは頭を抱える。


「ああそれと『エアバネ』。これは三機とも付いてるな」

「エアバネ?」

「ややこしいから簡単に説明するが、フワリニウムを搭載したエメトを足裏から散布して、空中に見えない足場を作るシステムだ」


 タックがノートパソコンの画面を切り替える。空中を飛ぶビッグスーツの足裏から、光り輝く格子状の足場が出現するムービーが流れ、マヨが食い入るように見つめる。


「空飛んでてもキックできるです?」

「賢いじゃないかマヨ。カリオみたいな武芸者が空中でも『踏み込み』を活かした動きが出来るようになる。今までとは違った戦い方ができるぜ」


 聞きながらカリオは自分の足元をじーっと見つめる。


「他には新しいビームソードの『霊月れいげつ』とかか」

「新しい剣! 強いですか?」

「強い。強いうえにコレスの時みたいな特殊装甲とくしゅそうこうが相手でも問題ないようにエメトがリプログラミングされている」


 タックの説明を聞いてカリオはふむ、とあごを触り始める。


「そうらしいな。つまり今度からはああいう敵が出てきても、マヨは別にいらねえってことだ」

「ガァーン!?」


 マヨは口を大きく縦にあけてショックを受ける。あきれたタックが肩をすくめる。



「仲良しかよおまえら。よし次はニッケルとリンコの行くぞ」




(マスタートリオ・オブ・ブラックトリオ② へ続く)




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