私はこれまでに、誰とも交際経験はない。
だって、ハルキにふさわしい女になるために自分を磨いてきたんだもん。他の子と付き合うなんて考えられない。
告白されたことはそりゃある。だけど、相手がハルキじゃないのならそれはなんの意味もないことだ。
「わ、私の話はいいのよ。今は聡の話をしているのよ」
「なんだよそりゃ」
とにかく、私は言いたいことはきっちり言ったうえで、話を戻す。
聡が意外とモテているって話から、こんなことになっちゃった。
まあ、正直な話弟のモテエピソードなんて、姉としては聞きたいような聞きたくないような複雑な内容なんだけど……
「俺の話っても、別に話すことなんかないよ。ただ、告白されたことはあるけど……告白を受け入れたことはないってだけ」
「え、なんでなんで!?」
「!」
ぶっきらぼうに答える聡だけど、どうにもハルキは聡の恋バナがきになるみたいだ。
その様子に驚きつつも、聡は首を振り冷静を取り戻そうとしているように見えた。
あぁ、ハルキは距離が近いからね……緊張しちゃってるんだね。
「なんでって……今は、陸上や勉強で他の子と考えてられないって言うか」
「えー。聡くらいの年頃なら、女の子に興味出てくるんじゃないの?」
「それは……まあ、そういうやつもいるけど……」
嘘だ。聡めちゃくちゃ女の子に興味あるくせに。
今だった、チラチラハルキのことを見ているくせに。
ハルキは……自分が見られていることに、気付いてはいないみたいだけど。
「へー。じゃあ、聡は硬派なんだ。身体とおんなじだ」
「! ちょっ、なんで触るんだよ!」
脈略はよくわからないけど、ハルキはなぜか聡のお腹を触り始めた。
身体が硬いってのと、硬派な性格ってのをかけたつもりなんだろうか。
いきなりお腹を触られ、聡も困惑している。
「わー、腹筋かたーい。走って鍛えてるからかな、男らしくなったんだね」
「ま、まあ? これくらいは、普通って言うか……」
あ、聡のやつめ。男らしくなったって言われて、まんざらでもない表情をしていやがるな。
あんな風にお腹を触られて、恥ずかしいけどちょっと嬉しい……みたいな感じだろうか。
……なんか、二人の距離感がどんどん、近くなっているような気がする。
「はいはーい、そこまでー」
気付けば私は、ハルキと聡を引き離すように間に割っていた。
ハルキは名残惜しそうな表情を浮かべながらも、素直に引いた。
聡は、正直もう少し触れられていたかった……といった表情だけど。
私のいる手前、そのようなことは胸の奥底に封じたようだ。バレバレだけどね。
「てかさ……俺のことより、そう言うはるき、さんは……どうなのさ」
「ん?」
「!」
「ほら、姉ちゃんも俺の話より、はるきさんの話の方が気になるだろ?」
あ、こいつ。私がハルキと引き離したことちょっと根に持ってるな。
わざわざ私が、ハルキのことを気にしているとわかりやすく、言ってからに。
でも……わかるよ。聡自身も、きっと気になっているんだってこと。
「その……これまでに付き合った人、とかさ。いないの?」
それに、これは私も気になって仕方なかったことではある。
ことではあるけど、これを直接ハルキに聞いたことはない。
だって……怖いじゃん。もしこれまでに、付き合ったことのある人がいて……その人と、いろんなことをしたのかもしれない、なんて思ったらさ。
その……き、キス、とか……恋人同士が、しちゃうようなこと。
それを想像するのは、なんだか嫌だ。
でも、このままわからないままにしておくのも、それはそれで……怖い。
「ボクがこれまでに付き合った人、かぁ」
「う、うん」
「……」
ハルキは、わざとなのかはわからないけどまるでもったいぶるかのように、腕を組んで天井を仰いでいる。
付き合ったことがあるかどうかなんて、わざわざ思い出すまでもないだろうに……ハルキ、やっぱりわざと楽しんでないか?
それから、たっぷりと溜めてからにこりと笑顔を浮かべた。
「ないよ」
たったそれだけを言うために、数秒の時間がとても長く感じた。
「そ、そっか……」
「なんだ、よかった……」
「ん?」
「あ、いや……」
なぜ聡まで安心しているのだろうか。
まさかこいつ……
「誰かと交際したことはないし、それどころか告白されたこともない」
「え、うそ!」
「マジで!?」
続くハルキの言葉は、私たちを驚かせるには充分だった。
交際経験がないのは予想していたけど……
告白されたことも、ないだって!?
「聡でもされたのに!?」
「姉ちゃんでもされたのに!?」
「なによ!」
「なんだよ!」
それにしても、信じられない。私だったら、即告白するのに。
……ハルキが男だったら、だけど。
そもそも再会したら告白しようと決めていたのだから、ハルキがたとえ今のビジュアルじゃなくても告白はしていたつもりだけど。
「信じられないな……告白されたけど、それが告白だって気付いてないパターンじゃないか?」
「あぁ、あり得るかも」
聡の言葉は、なかなか的を射ているように思えた。
告白されたけど、それを勘違いして告白だと気付いていないパターンか。
今日までのハルキを見ていたら、それも充分あるかもな。
「いや、本当に。仲の良い男子とかは、結構いたんだけどね」
ハルキは距離感が近いから……男の子たちにも、もしかして男友達のように見られて、異性として見られていなかった可能性が?
うーん、あり得るっちゃあり得るけど……あのおっぱいだよ? まあ中学からああだったかは知らないけどさ。
……謎だ。