目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第34話 ハルキのことを好きなわけじゃない



 ともかく、ハルキが嘘をついているとも思えないし、つく理由もないので、誰かに告白されたこともないのは本当なのだろう。


「ハルキは……そういうの、憧れたりとかはしたの?」


「告白されるか、ってこと?」


 私は小さくうなずいた。


 ハルキだって、こう見えて女の子だ。男の子から告白されたい……なんて気持ちは、あるのかもしれない。

 私? ないよハルキ以外の男からなんて。


 ハルキは、少しだけ考えるようにして……


「いや、そういうのはないかな」


 ときっぱり言い放った。

 なんとなく、私はほっとした。


 もしも、男子から告白されたい欲望があるなんて言ったら、どうしようかと思った。


「あ、でも告白されたことはないって言ったけど……」


 ふと思い出したかのように、ハルキは手を叩いた。


「女の子から告白されたことなら、ちょくちょくあるよ」


「! 女の子から!?」


「ちょくちょく!?」


 さっきハルキは、告白されたことはないとは言ったけど……それが、男子限定のものだったなんて。

 まさか、女の子から告白されていたなんて!?


 いや、私だってハルキを男だと思っていた時期は、ハルキに告白しようと思っていたんだし……別に、告白自体は不思議じゃない。

 不思議なのは、ハルキを女の子だとわかった上で告白した子がいるということ。


 ハルキが女の子だって、当時の子たちはわかっていたはずだ。

 それにもかかわらず、ちょくちょくって頻度で告白を受けていたとなると……


「はるきさん、すげー」


 ついに想定外のことにツッコミきれなくなったのか、聡がハルキのことを尊敬の眼差しで見始めた。

 同性から好かれる人はいるだろうけど、告白されるまでに好かれる人はなかなかいないだろう。


 自分で言うのもなんだけど、私だって女の子から告白されたことなんてないのに。

 いや、別にされたいわけじゃないんだけどさ。


「気持ちはありがたかったけど、さすがに女の子同士だしね。断ったよ」


「……そう」


 照れたように笑い、申し訳なさそうに言うハルキ。その言葉に、悪意はないのだろう。

 でも……その言葉を受けて、私の心には少しだけだけどズキンと痛みが走った。

 なんでだろう。


 ハルキの正体が女の子だと知って、それでもハルキへの想いは抱いたままで。

 でもこのままじゃいけないと、気持ちを封印しようと決めて。


 それなのに……『女の子同士だし断った』ってハルキの言葉が、なんでこんなにも苦しいんだろう。


「じゃあ、もし男子から告白されたら、はるきさんはどうするんだ!?」


 私の気持ちを知る由もない聡が、前のめりになりながらハルキに聞いた。

 女の子からの告白は断るのならば、男の子からの告白はどうするのか、と。


 ハルキは、いつの間にか自分中心の恋バナになっていることに苦笑いを浮かべながらも、考える。


「そりゃあ、告白してくれたのがいい人ならオッケーするとは思うけど。実際その時にならないとわからないかなぁ。

 まあ、ボクの場合告白されるより、するほうが性に合ってるかもしれないけど」


 確かに、ハルキは告白される側というより、告白する側のほうが似合っている。

 それに、いい人がいたらオッケーするとは言うけれど……ハルキの性格上、いい人がいたらそれこそ自分から告白しに行くだろう。


 受け身は似合わない。それがハルキだ。


「そ、そっかぁ。……ち、ちなみにだけど、年上とか年下とか、はるきさん的には、どうなのかな、って……思ったり……」


 聡はどこか恥ずかしそうに、聞いた。

 この弟め……もしかして、初めからこれを聞きたかったのか?


 ハルキには、年上とか年下とかのタイプはあるのか。

 なぜそれをわざわざ聞くのか……いろんなお膳立てをして話の流れを作って、聞いたのか。そんなの、考えるまでもない。


「え? うーん……別に、年齢にはこだわらないかな。極端に離れてるならともかく、年が上でも下でも、気持ちが大事なんだとは思うし」


「! そ、そっか」


 それはある意味、当たり障りのない答えだ。でも、聡はそれを聞いてほっとした表情を浮かべている。


 間違いない。聡のやつ……


「なにあんた、ハルキのこと好きなの?」


 私は聡の耳元に口を寄せ、小声で聞いた。

 さすがにハルキに聞かれるほどの声量を出すほど、私も鬼じゃない。


「!? は、はぁ!?」


 私の言葉に、聡は大げさに驚く。

 ま、当然だろうな。いきなりこんなこと聞かれたら。


「? どうかした、聡?」


「え、あ、いや別に……」


 ただ、私の小声とは違い聡は大げさなリアクションをしたので、会話を聞いていないハルキは首を傾げるばかりだ。

 聡は、なんでもないと首を振ると……


「な、なに言ってんだよ!」


 小声で私に、言い返してきた。


「だって、さっきから見てたらなんかそんな感じしてたからさ」


「ば、バカ言うなよっ。再会したら女だったから、動揺してるだけだっての」


「ほーん?」


 聡の弁明は、一見ちゃんとしているように聞こえる。

 でも、本当にそれだけだろうか?


 ……聡が、ハルキにか。……なんか、あんまり面白くないな。

 ここは一つ、釘でも刺しておこう。


「いい、聡。あんたは今、久しぶりに再会したお兄ちゃんだと思っていた美人お姉ちゃんに動揺して、興奮して、それを恋だと思い込んでいるだけ。ハルキのことを好きなわけじゃない」


「は、はぁ!? こ、恋って……なんで、そうなんだよっ。別に俺は……」


 うぅーん……思春期男子特有のツンツンってやつだこれは。頑なに認めようとしない。

 まあ、認めないなら認めないでいいんだけど。


 そう、聡がハルキに抱いているのは、いっときの気の迷いだ。ちょっとした勘違いが、それを恋だと思わせているだけ。

 そうじゃないと……だめだよ、ハルキが聡と、なんて。


 ハルキが……他の男の子と、なんて……

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?