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第35話 なんかなつかしーな



 ……ハルキが、誰かと付き合うなんて考えたくない。

 それは相手が聡だろうが、そうじゃなかろうが関係ない。誰か……というのが嫌なのだ。私以外の誰か、ということが。


 ハルキへの気持ちは封印したはずなのに……なんでこんなこと、考えちゃうんだろう。はぁ……


「まあ、ボク自身誰かと付き合うなんて考えられないんだけどね」


 ケラケラと笑うハルキに、安心してしまう私。

 こんな気持ち、誰にも知られるわけにはいかない。


 この気持ちをちゃんとしまい込んで……"友達"として、ハルキの側にいられるようにならなくちゃ。


「ま、カレンや聡に付き合う人が出来たら、教えてほしいな! 気になる子、でもいいよ!」


 ……なのに、すぐに気持ちをかき回してくるんだもんなこの子は。


「……うん、そうだね」


 ハルキもそうだけど、私自身どうしたいのだろう。

 これから、誰かに告白されたら……私はどうするんだ?


 これまでは、ハルキがいたから……ハルキを男の子だと思っていたから、それだけを思って告白を断ってきた。

 好きな子がいるからって。自信を持って、断ることができた。

 でも、ハルキが女の子だとわかってしまった。


 女の子だとわかり、もう……想う人がいない。これから告白をされたとしても、断る理由がない。

 じゃあ、私はどうしたら……?


「……っと、そろそろ行かないと」


 ふと、聡が立ち上がった。


「? どうしたの、聡?」


「今日、高校に……というか陸上部に顔出ししとこうと思って。練習はまだだけど、その前に行っといてもいいかなって。高校までの道も覚えたいし」


 どうやら聡は、これから学校に行くみたいだ。

 正確には、陸上部に……か。


 今日こっちに来たばかりなんだから、おとなしくしていればいいのに。こういうとこはマメというかなんというか。


「へぇ、感心感心」


「な、撫でるなって」


 相も変わらず、聡を弟扱いしているハルキは、聡の頭を撫でている。

 この分なら、もしも聡がハルキに告白したとしても「弟としてしか見れない」って断っちゃいそうだ。


 ……こんなこと考えちゃうなんて、私ヤな子だなぁ。


「じゃ、ボクたちが案内してあげるよ」


「……たち?」


「うん。ね、カレン」


 とん、と胸を叩くハルキが、私を見た。

 高校に行くなら、道案内があった方がいいだろう。そういう意味でも、ハルキの申し出を聡が断る理由はない。


 なのだが……聡はじっと私を見ていた。

 まるで、自分とハルキの二人きりにさせろと言わんばかりに。


 それを見て、私は……


「……うん、そうだね」


「!」


 笑顔を浮かべて、そう言ってやった。


「じゃ、さっそく行こうか」


 それを受けて、ハルキは先に玄関に向かっていく。

 その後ろ姿を見送った後……聡は、じっと私を見た。


「なによその目は」


「べ、別に……」


「……そんなんでハルキと二人きりになっても、たいしたことも話せずに終わりよ」


「! な、なにも言ってないだろ!?」


 これはただの、方便だ。

 今の聡では、緊張してハルキとうまくしゃべれない……だから、私も着いていってやるのだと。


 言い訳だ。本当は、ハルキと聡を二人きりにしたくないだけなのに。

 さっき勝手に、聡の告白は失敗するとか安心しておいて……二人きりにもしたくないとか。私は、こんなに嫉妬深かったのだろうか。


「さ、行くよ。ハルキが待ってる」


「お、おう」


 聡の抗議のような視線をスルーして、私は玄関へと向かった。



 ――――――



「なんかなつかしーな、こうして三人で歩くのは」


 家から出て、私とハルキ、そして聡は並んで歩く。

 私とハルキの間に聡が入っているのは、ちょっと物申したいところだけど。


 ともかく、ハルキの言うように……こうして三人で歩くというのは、久しぶりだ。

 久しぶりというか、別れて以来だから……それこそ、十年ぶりだもんな。


「そうね」


 あの頃は、まだ三人とも小さくて。

 ハルキに抱いていたあの気持ちが恋だと知ったのは、ずいぶん後だけど。でもあの頃から、私はハルキに恋をしていた。


 それを思うと、胸の奥がきゅっとなる。

 ハルキが女の子だった以上、私の想いは実らない。だからといって、ハルキに恋をしていた時間が無駄だった……とは思わない。


 だって、ハルキのために自分を磨いた十年があったから、今の私があるんだから。


「この道通って、学校まで行くんだよ。ま、ボクもここを通るのは初めてなんだけどね」


 得意げに笑ったかと思えば、照れたようにも笑うハルキ。

 そんなに表情をコロコロ変えて、やっぱりかわいいや。


「同じ高校に行くのに、いつもとは違う道を通って通うなんて不思議な気持ちだなー」


「……そうね」


 ハルキはいつも自宅から通うから、私の家から通うのはもちろん初めてだ。

 いつも通う道とは違う……それはなんだか、不思議な感覚なのかもしれない。


 私としても……いつも一人で通うから、誰かと一緒に……しかもハルキが隣にいるなんて、なんだか不思議な感覚。

 いつもの日常では、ないみたい。


「お、見えたよ」


「へー、そこまで遠くはないんだな」


 何気ない会話、だけどハルキとだからそのどれもが特別に思える。

 だからだろうか。歩く速度はいつもと変わらないのに、いつもよりも早く学校が見えた気がした。

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