……ハルキが、誰かと付き合うなんて考えたくない。
それは相手が聡だろうが、そうじゃなかろうが関係ない。誰か……というのが嫌なのだ。私以外の誰か、ということが。
ハルキへの気持ちは封印したはずなのに……なんでこんなこと、考えちゃうんだろう。はぁ……
「まあ、ボク自身誰かと付き合うなんて考えられないんだけどね」
ケラケラと笑うハルキに、安心してしまう私。
こんな気持ち、誰にも知られるわけにはいかない。
この気持ちをちゃんとしまい込んで……"友達"として、ハルキの側にいられるようにならなくちゃ。
「ま、カレンや聡に付き合う人が出来たら、教えてほしいな! 気になる子、でもいいよ!」
……なのに、すぐに気持ちをかき回してくるんだもんなこの子は。
「……うん、そうだね」
ハルキもそうだけど、私自身どうしたいのだろう。
これから、誰かに告白されたら……私はどうするんだ?
これまでは、ハルキがいたから……ハルキを男の子だと思っていたから、それだけを思って告白を断ってきた。
好きな子がいるからって。自信を持って、断ることができた。
でも、ハルキが女の子だとわかってしまった。
女の子だとわかり、もう……想う人がいない。これから告白をされたとしても、断る理由がない。
じゃあ、私はどうしたら……?
「……っと、そろそろ行かないと」
ふと、聡が立ち上がった。
「? どうしたの、聡?」
「今日、高校に……というか陸上部に顔出ししとこうと思って。練習はまだだけど、その前に行っといてもいいかなって。高校までの道も覚えたいし」
どうやら聡は、これから学校に行くみたいだ。
正確には、陸上部に……か。
今日こっちに来たばかりなんだから、おとなしくしていればいいのに。こういうとこはマメというかなんというか。
「へぇ、感心感心」
「な、撫でるなって」
相も変わらず、聡を弟扱いしているハルキは、聡の頭を撫でている。
この分なら、もしも聡がハルキに告白したとしても「弟としてしか見れない」って断っちゃいそうだ。
……こんなこと考えちゃうなんて、私ヤな子だなぁ。
「じゃ、ボクたちが案内してあげるよ」
「……たち?」
「うん。ね、カレン」
とん、と胸を叩くハルキが、私を見た。
高校に行くなら、道案内があった方がいいだろう。そういう意味でも、ハルキの申し出を聡が断る理由はない。
なのだが……聡はじっと私を見ていた。
まるで、自分とハルキの二人きりにさせろと言わんばかりに。
それを見て、私は……
「……うん、そうだね」
「!」
笑顔を浮かべて、そう言ってやった。
「じゃ、さっそく行こうか」
それを受けて、ハルキは先に玄関に向かっていく。
その後ろ姿を見送った後……聡は、じっと私を見た。
「なによその目は」
「べ、別に……」
「……そんなんでハルキと二人きりになっても、たいしたことも話せずに終わりよ」
「! な、なにも言ってないだろ!?」
これはただの、方便だ。
今の聡では、緊張してハルキとうまくしゃべれない……だから、私も着いていってやるのだと。
言い訳だ。本当は、ハルキと聡を二人きりにしたくないだけなのに。
さっき勝手に、聡の告白は失敗するとか安心しておいて……二人きりにもしたくないとか。私は、こんなに嫉妬深かったのだろうか。
「さ、行くよ。ハルキが待ってる」
「お、おう」
聡の抗議のような視線をスルーして、私は玄関へと向かった。
――――――
「なんかなつかしーな、こうして三人で歩くのは」
家から出て、私とハルキ、そして聡は並んで歩く。
私とハルキの間に聡が入っているのは、ちょっと物申したいところだけど。
ともかく、ハルキの言うように……こうして三人で歩くというのは、久しぶりだ。
久しぶりというか、別れて以来だから……それこそ、十年ぶりだもんな。
「そうね」
あの頃は、まだ三人とも小さくて。
ハルキに抱いていたあの気持ちが恋だと知ったのは、ずいぶん後だけど。でもあの頃から、私はハルキに恋をしていた。
それを思うと、胸の奥がきゅっとなる。
ハルキが女の子だった以上、私の想いは実らない。だからといって、ハルキに恋をしていた時間が無駄だった……とは思わない。
だって、ハルキのために自分を磨いた十年があったから、今の私があるんだから。
「この道通って、学校まで行くんだよ。ま、ボクもここを通るのは初めてなんだけどね」
得意げに笑ったかと思えば、照れたようにも笑うハルキ。
そんなに表情をコロコロ変えて、やっぱりかわいいや。
「同じ高校に行くのに、いつもとは違う道を通って通うなんて不思議な気持ちだなー」
「……そうね」
ハルキはいつも自宅から通うから、私の家から通うのはもちろん初めてだ。
いつも通う道とは違う……それはなんだか、不思議な感覚なのかもしれない。
私としても……いつも一人で通うから、誰かと一緒に……しかもハルキが隣にいるなんて、なんだか不思議な感覚。
いつもの日常では、ないみたい。
「お、見えたよ」
「へー、そこまで遠くはないんだな」
何気ない会話、だけどハルキとだからそのどれもが特別に思える。
だからだろうか。歩く速度はいつもと変わらないのに、いつもよりも早く学校が見えた気がした。