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婚約者を親友に盗られた上、獣人の国へ嫁がされることになったが、私は大の動物好きなのでその結婚先はご褒美でしかなかった
婚約者を親友に盗られた上、獣人の国へ嫁がされることになったが、私は大の動物好きなのでその結婚先はご褒美でしかなかった
雪葉
異世界恋愛ロマファン
2025年03月17日
公開日
12.2万字
完結済
婚約者である第三王子を、美しい外見の親友に盗られたエリン。まぁ王子のことは好きでも何でもなかったし、政略結婚でしかなかったのでそれは良いとして。なんと彼らはエリンに「新しい縁談」を持ってきたという。その嫁ぎ先は“獣人”の住まう国、ジュード帝国だった。 人間からは野蛮で恐ろしいと蔑まれる獣人の国であるため、王子と親友の二人はほくそ笑みながらこの縁談を彼女に持ってきたのだが────。 「憧れの国に行けることになったわ!! なんて素晴らしい縁談なのかしら……!!」 エリンは嫌がるどころか、大喜びしていた。 なぜなら、彼女は無類の動物好きだったからである。 そんなこんなで憧れの帝国へ意気揚々と嫁ぎに行き、そこで暮らす獣人たちと仲良くなろうと働きかけまくるエリン。 いつも明るく元気な彼女を見た周りの獣人達や、新しい婚約者である皇弟殿下は、次第に彼女に対し好意を持つようになっていく。 動物を心底愛するが故、獣人であろうが何だろうがこよなく愛の対象になるちょっとポンコツ入ってる令嬢と、そんな彼女を見て溺愛するようになる、狼の獣人な婚約者の皇弟殿下のお話です。 ※他サイト様にも投稿しております。 ※R15は念の為です。

第1話 婚約破棄されたけど、めちゃくちゃ良い縁談先へと繋げてくれたので無問題です!

「エリン、すまない。私は真実の愛を見つけてしまったんだ」


 そんなことを突然言われても、「あまりに抽象的な台詞過ぎて何も内容が伝わってこないです」としか言いようがない。

 口には出さないが。



 緑が生い茂る裏庭にて。

 突然呼び出してそんなことを言い放ったのは、私の婚約者であるダミアン第三王子だった。


「……はぁ……?」


 やっぱり意図がよく掴めないな。もう少し詳しく説明していただけると有難いのだけど。


 首を傾げつつ、眼前の二人を今一度見つめる。

 金髪碧眼の美しい男性、ダミアン殿下の腕に抱き寄せられている亜麻色の髪の美少女が、その翠の目にうるうると涙を浮かべながら叫んだ。


「ごめんね、エリン! 私が全部悪いの、私が……っ」

「シンディー? えっと、どういう……」

「シンディー、君は何も悪くない。私が君を愛する気持ちを抑えきれなくなっただけなんだ」

「ダミアン様……っ」

「いやあの……」


 どうしよう。知らない間に物語の中にでも入ってしまったのかもしれないわ、私。

 そんなよく分からないことを頭の中で考えてしまうくらいに、二人の放つ言葉は芝居がかっていた。勿論恋愛物。


 シンディーと呼ばれた彼女は昔からとっても美人なことで有名な女性で、更には私の親友だった。

 の、だけれど。


(なぜダミアン殿下の腕の中に……?)


 嫉妬ではなく。

 怒りでもなく。

 とてもとても、単純な、疑問。


 この図を見て「私が殿下の婚約者です」と見知らぬ方に言ってみても恐らく信じてはもらえないだろう。婚約者である筈の私より余程、殿下の胸の中で寄り添う恋人と化している。


 …………婚約者。

 婚約者といえば…………。


 そこではた、とあることに思い至り、彼らにそのもしやを尋ねようとしたが────。


「あの、お二人とも? もしかして……」

「エリン。悪いけど、ここでハッキリと言わせてもらうよ。

 君との婚約は、破棄する!」


 ダミアン殿下の大きな声が、その場に響き渡った。


(ああ、今私がまさに聞こうとしていたことが……)


 先を越された、などと少し悔しい気持ちになってみたりするのは、不敬と怒られてしまうでしょうか。



 そもそもこの二人、学園に居る時からずーっとイチャイチャイチャイチャしていることで話題になっていたのだ。

 私という婚約者が居るのに、美しいシンディーと公衆の面前で戯れ合うダミアン殿下。周りはそれに賛否両論だったし、私にも気遣って話しかけてくれるご令嬢は多かったのだけれど。


 でも、私はあまり興味がなかった。好きにすればいいのでは? と思うくらい、自分で何とかしようと思う気持ちが皆無だった。

 ダミアン殿下のことを男性として好きじゃなかったこともあるし、それに────。


「シンディーを責めないでやってくれ。全ては私の罪。責める言葉なら、この私にだけ浴びせてくれ」


 悲しげな表情で目を伏せるダミアン殿下に、シンディーは目に溜まる涙を散らしながら身を寄せる。


「ダミアン様! そんなことはありません、私だって十分に罪を犯しております!

ああ、私がダミアン様を愛してしまったから、そして、ダミアン様も『愛している、君は美しい』と何度も愛の言葉をくれたから、私は……」

「シンディー……」


 手を取り合う二人。

 心なしか周りの風景に薔薇が咲き誇っているのが見えた。


(…………ここ、もしかして悔しがる所なのかしら)


 真面目に考え込んでしまう。

 シンディーお得意技の『ナチュラルに自慢を混ぜる』が炸裂しているし、それに何にも言わず普通に騙されているダミアン殿下にもちょっと笑いが出てきそうなのだが、笑ったら失礼だろうか。失礼なんだろうな。


 ……まぁ、つまり。私は今現在、女性としてとても情けない場面に陥っていると。さすがにそのくらいは理解できた。


 だから、ここでやらなければならないことといえば……、泣いたり怒ったりすること、なのだろうけれど。


(…………その気も起きないわね、もう……)


 何となくこうなるのではないか、という予感が無かったかといえば嘘になる。

 むしろ、私とこのまま結婚に至ることより、彼女と結ばれることの方が余程想像することが出来た。


 そもそも、ダミアン殿下は昔から地味な私の外見を気に入っていなかったようなのだ。加えて自分が会いに来てもあまり感情の起伏を見せなかった私を見て、彼はいつもつまらなさそうに舌打ちをしていた。

 だからこそ、華々しい美を持ち、可愛らしく好意を伝えてくれるシンディーを愛する形になったのだろうし。

 この流れは自然と言えよう。


 ダミアン殿下は私を愛しておらず、私も彼を好いていなかった。


 なら、私の答えはこうだ。


「……えーっと、では、私達の婚約は破棄ということで。

 陛下にはもうお伝えしておりますか?」

「……? っあ、ああ。最初は渋られたが……、どうしても彼女と結ばれたい、と言ったら、最後は承諾してくださった」

「さようですか。なら、私の父にもお話を通しておきますね。正式な手続きはその後で」


 彼の発言に思わずため息が出そうになった。

 陛下……、悪い人ではないのだけれど、自分の子には相変わらず甘い方なんですよね……。


「……エリン、ダミアン殿下を盗られたのに、悲しくないの……?」


 すると、シンディーが静かな声で尋ねてきた。

 驚愕のあまり彼女の方を見れば、何故か眉を寄せて私を睨んでいる始末。


 ……いや。


(それを貴女が言うのか……?)


 すごい精神である。私が彼女ならば、とてもじゃないがそんな質問はできない。

 親友であった時はこういう彼女の「他とは違う面」をすごいなぁと何も考えず感心していたものだが、今となっては逆に恐ろしささえ覚えてしまうくらいだ。


 シンディーは何だかつまらなさそうな表情で私を見ているが、努めて気にせずに「ええ」と返した。


「これが殿下のお気持ちだもの。なら、私が言うことなんて何も無いわ」

「……ふぅん、そう。相変わらず冷めてるのね、あなたは」


 そうだろうか。自分ではよく分からない。

 お互い政略結婚だったんだし、悲しむも何も無いと思うのだけれど。


「──ああ、そうだわ! 忘れるところだった」


 すると、急に何かを思い出したかのようにシンディーがパンッ、と両手を合わせて言った。

 なんだろう。用事が終わったのならさっさと帰りたいのだが。

 父にこの話も早く伝えなければならないし。


「あなたのことを気の毒だと思ったお優しいダミアン様が、あなたの新しい縁談を陛下に伝えてくれたの! まだ本決まりじゃないけど、直に正式なものとなるに違いないわ!」

「え」


 最早開いた口が塞がらなかった。


 すごい。まだ私の了承も得ていない時だったのに、婚約破棄した人がされた方の新しい相手を勝手に決めるなんて。

 この人達の面の皮が厚すぎて、やっぱり素直に感心してしまう私なのであった。拍手を送りたいのだが、こんな場でやってしまったらさすがに気味悪がられると思うのでやめておく。


「……新しい縁談とは……?」


 聞き返した私に、シンディーはとても楽しげに、そしてどこか醜い笑みでこう言った。


「それはね。

 ────あの“獣人”が住む国である、ジュード帝国との縁談よ!」



 *



 ダダダダッ!! と父の居る執務室へとひたすら走る。

 通り過ぎる使用人達が皆驚いた顔をするが、そんなことを今気にしている暇などない。一刻も早く、父にこのことを話さなければ。


 バァン!! と勢い良くドアを開けた私を、机に向かっていた父はポカンとした顔で見つめた。


 それすらも無視し、思いっきり叫ぶ。



「お父様!! ついに、ついに……!! あのジュード帝国へと行けることになりました!!」


 その時の私の浮かべていた笑顔は、きっとこれまでの人生の中で、一番輝いていたことであろう。


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