「えっと、それでどんな訓練するんだ?」
「飛んでくる石を斬る、ただそれだけだよ」
「へっ?」
プルームから告げられた意外な訓練内容に、ソラは素っ頓狂な声を出した。
「……ただし命がけかもしれませんが」
対し囁くような声で呟くエイラリィ。
「エイラリィちゃん、今何か言った?」
「いえ、何も……」
するとソラはふと気になる、訓練とは関係無い筈のエイラリィがこの場に居る事に。
「あれ、もしかしてエイラリィちゃんも俺の修行の手伝いしてくれるのか?」
「私は手伝いというか、もしもの時のために」
「ああ、もしもの時って、もしかしてエイラリィちゃん、プルームちゃんを男と二人きりにしない為に? いやあエイラリィちゃんって本当お姉さん想いだよなあ」
「まあそれもありますが」
「それ“も”?」
そんな意味深な発言を、ソラは不審に思いつつ、プルームとエイラリィに付いて行き、島の端にある竹林へと足を踏み入れるのだった。
――そして。
「ソラ君、以前私とエリギウスの騎士が戦ったのを見てるよね?」
そう問われソラは、プルームが卓越した
「あの
「あの
すると、プルームの額に剣の紋章が輝く。次の瞬間、プルームの周囲の落ち葉が一斉に浮遊し、空中に制止した。
「……これって」
〈
更に、
――なるほど、だから
そしてソラは察した。これはプルームの
「これ、仮に失敗して
「あはは心配性だなあソラ君は、大丈夫だよ、慣れるまで真っ直ぐにしか放たないし、最初は一個ずつだから」
能天気にそう説明するプルームであったが、ソラは一応どんな程度なのか確認しておきたいので、最初だけは自分に当てないよう願い出ると、プルームはそれを了承する。
「え、あ、うん、わかった、それじゃあ行くよ」
直後、プルームの眼前に、拳大より一回り程小さな一個の石が浮遊する。そして――
ソラが気付いた時には放たれた石はソラの顔の横を通過し、高速で通過したそれは衝撃音と共に後方の巨大な竹に激突。そして風圧がソラの髪を揺らし、音は後からやって来た。更に石が激突した巨大な竹は音を立てて薙ぎ倒れる。
「殺す気か!」
ソラの切実な叫びがこだました。
「いやいやいや、マジでプルームちゃんあれを俺に向けて放つ気だったの? 俺に何か恨みでもあるの?」
「え? だってそういう修行だし」
「こんな修行続けたら死ぬでしょ普通に、あーやりたくない」
すると、あまりにも気乗りしない様子のソラを見てエイラリィが深く溜息を吐いた。
「ならもうやめたらどうですか?」
「え、エイラ、そんな……」
「団長があなたをやたら気に掛ける理由はわかりませんが、私も姉さんも暇じゃないんです。あなたがやりたくないならこちらも続ける理由はありませんので、どうぞお好きにしてください」
そう冷たく言い放つエイラリィ。しかしそれに対してソラは返す。
「なるほど……エイラリィちゃん、俺にやる気を出させるためにそんな厳しい叱咤を」
「は?」
「エイラリィちゃんにそこまで気を遣わせちゃったのは申し訳ない、ここで断念するのはさすがの俺も気が引けるな」
「……意外にポジティブなんですね」
「やっぱりエイラは面倒見がいいからね」
「……姉さんはどれだけ天然なの」
「プルームちゃん、応援してくれてるエイラリィちゃんの期待に応える為に俺はやるよ」
「いや、別に全然してませんけど」
それから、エイラリィの気遣い……もとい苦言をきっかけに無事訓練が再開された。
「じゃあさっきよりは遅くするから、避けるか剣で弾くかしてね」
「よし、来い!」
先程と同じようにプルームの額に剣の紋章が浮かび上がり、拳大より一回り程小さな一個の石がプルームの眼前に浮遊する。そして――
「がふっ!」
放たれた石はソラの腹部に直撃し、ソラは後方に吹き飛んだ。
そしてそこでソラの意識は途切れた。
※ ※ ※
人である騎士と竜族の力は拮抗し、戦いは続いていた。しかしラドウィード歴1443年、突如セリヲンアポカリュプシスが大地の奥底から蘇った。しかもその姿は七つの首を持つ黒き竜、かつて聖霊神から生み出され、七竜王を産み落とす前の完全な姿として。
七竜王との戦いで息絶えた筈のセリヲンアポカリュプシスは致命傷を負ったものの、密かに生き長らえ、戦いで傷付き息絶えようとする七竜王の魂をその身に再び取り込み、大地の奥底へと身を潜めた。そして流れる時の中で少しずつ傷が癒え、力を取り戻すその時を待っていたのだった。……再びラドウィードの支配者となる為に。
セリヲンアポカリュプシスの復活により、形勢は一気に竜族側に傾いた。凄まじい力を持ち、騎士の剣すら通じないセリヲンアポカリュプシスに、幾人もの騎士が殺され、いくつもの騎士団が滅ぼされ、いくつもの国が亡びかけた。
強き聖霊の加護を受けて尚、歴然たる力の差の前に人は静かに滅びを悟る。
しかしラドウィード歴1444年、騎士にして
聖霊学、それは聖霊石に込められた聖霊の意思を引き出し、用いることにより、あらゆる現象を引き起こさせ、通常では遥か先の未来でしか受ける事の出来ないであろう恩恵を授かることの出来る革命的技術であった。
そしてその技術を結集させ、対竜族用に構想していた騎士型駆動竜殲器、古代エリギウス語でSteer Worknight’s Of Ruin Dragonの頭文字を取りSWORDソードと名付けられた人型の巨大兵器を遂に完成させるに至る。
また、ラドウィードに漂う聖霊達の意思と願いが結晶化し、聖霊の力そのものが凝縮された七つの大聖霊石を核として造られたそれは、後に神剣と呼ばれる始まりの七振りのソード。
人類の叡智と心、聖霊の想いの結晶でもあるそれは、騎士達の新たな剣、新たな希望となった。
七振りのソードは、かつてセリヲンアポカリュプシスに反旗を翻し、他の種族を守ろうと戦った七竜王の名を冠する聖霊騎装を携え、大いなる聖霊の加護を受け、その圧倒的な力により竜族を撃退し、遂には竜祖セリヲンアポカリュプシスを討ち倒す。
こうして“
※ ※ ※