「うわっ、こっち来た!」
突然カチュアに狙われ、動揺するソラ。しかし、カチュアのジャマダハルは前方から何らかの衝撃を受け、斬りかかるのを防がれる。
『大丈夫ソラ君?』
それはプルームの竜殲術〈
「あ、ありがとプルームちゃん」
『駄目、やっぱり刃が通らない』
しかしプルームが操作する十基の
その薄い爆煙の中を飛翔し、シーベットのスクラマサクスが一瞬で斬り抜けを行い、ジャマダハルの頸部を一閃した。しかし――
「首でも駄目か、シーベットの剣が通じないなんて」
相手の意識を掻い潜り、本来であれば急所となるソードの頸部ですらダメージを与えられず、シーベットは悔しそうに舌打ちをした。
『ちょろちょろって蝿みたいで少し鬱陶しいですね』
すると、ジャマダハルの右腰部に固定され、背部へと収納されていた砲身が展開され、光が激しく収束していくと、カチュアは晶板に映し出されたソラ達のソード、その後方で乱戦している〈因果の鮮血〉のソードに一斉に照準を固定させた。
それはジャマダハルの刃力核直結式聖霊騎装。
そしてジャマダハルの
「これ、やばそうだぞ」
視界に映る眩い十五本の光の線が、ソラのカレトヴルッフを含む味方部隊へと襲い掛かって来る。次の瞬間、ソラ達のソードの目の前に、放たれた光矢と同じ数の光の盾が出現し、ジャマダハルからの砲撃を遮って防いだ。
「で、デゼル」
『あら、任意の場所に強固な盾を出現させる能力、私の能力と同じ防御型の
カチュアはデゼルのベリサルダの額に剣の紋章が浮んでいるのを見て、すぐさまその光の盾の能力がデゼルのものであるということを察知、
するとカチュアはベリサルダが右手で構える盾に、ジャマダハルの左前腕部の盾に取り付けられた砲身のような部分の先端を密着させた。
『その能力、これだけ密着した状態で発動出来ますか?』
『――しまっ』
そして、ジャマダハルの盾に取り付けられた砲身から炸裂音が鳴り響くと同時、ベリサルダの盾に杭のような形状の槍が打ち込まれ、ベリサルダの盾は右肩と一緒に吹き飛んだ。
『わああああっ!』
その衝撃により後方へ吹き飛ばされるデゼルのベリサルダ。
ジャマダハルの盾に取り付けられた砲身の隙間からは排熱の煙が排出され、打ち込まれた杭は砲身の中へと戻る。
その聖霊騎装は、爆裂の特性を持つ炎と貫通の特性を持つ雷の聖霊の意思を利用し、あらゆる装甲を貫く至近距離専用かつ盾付属型聖霊騎装の一つ、
「デゼル大丈夫か?」
『うん何とか、でも思ったより損傷が大きい』
「退がってろデゼル、でも何かあったら盾の
『わかったごめん、後は任せるね皆』
そう言い残し、デゼルは右半身ごと抉られるように右腕部を失ったベリサルダを後退させた。
「柄じゃないけど、借りは返さないとな」
自分を守ってくれたデゼルが攻撃を受けた事により、ソラは怒りで恐怖を掻き消し、一気にジャマダハルとの間合いを殺す。
そして渾身の袈裟斬り一閃、凄まじい威力の一撃がジャマダハルの左肩部に炸裂し、ジャマダハルは高速で回転しながら下降する。
しかしジャマダハルは
「くそっ、やっぱり駄目か」
歯噛みするソラ。ソラの渾身の一撃でも、ジャマダハルの装甲に傷を付ける事は叶わなかった。
『今の一撃、本当に素晴らしかったですよ蒼衣騎士さん。今回の戦利品はあなたにしましょうかね』
「せ、戦利品?」
突如意味深な言動をするカチュアに対し、ソラが思わず聞き返すと、カチュアは嬉々として説明を始める。
『はい、私はいつも戦場で、一番私の心を魅了してくれた方を一人生け捕りにして本拠地に持ち帰っているんです』
「へ、へえ、そ、それでどうするおつもりで?」
『たくさんたくさんたくさん痛みを与えて、私が痛みを知るための糧にするんですよ』
カチュアの満面の笑みを浮かべながらのその言葉に、ソラは全身の鳥肌を立たせ、身の毛をよだたせた。
「いやすぎるっ、いや無理無理、俺なんか連れ帰ったって面白くもなんともないですよ本当、あ、そうだ俺なんかよりもっとダンディで筋肉質で職人気質の狙撃騎士なんかもいますし」
『おいレイウィング、まさかとは思うがそれは俺のことを言っているのではないだろうな?』
伝声器越しにそのやり取りを聞いていたカナフが指摘するが、ソラは構わず懇願する。
「カナフさん何とかしてくださいよ、このお姉さんマジでやばすぎますって」
『落ち着けレイウィング』
「そんな事言っても、こっちの攻撃全く効かないし、このままじゃ負け確ですよ」
『だから落ち着けと言っている、こちらには奴を仕留められる可能性のある切り札がある、こちらの射線に入らないように注意していろ』
「切り札?」
※
エリーヴ島の森の中、カナフのタルワールは背部に納めた砲身を展開し、砲身の先に稲妻を纏った光が収束していく。
「いきますカナフさん」
更に、タルワールと共にエリーヴ島に潜んでいたエイラリィのカーテナも両肩に三つずつ装備された、湾曲した棒状の聖霊騎装を射出し、空中で思念操作して接続させ、カナフのタルワールの前に輪を浮遊させた。
それはカーテナの肩部聖霊騎装である
溜めが必要な
しかし、カチュアは己の能力を過信し、攻撃を避ける、結界を張るなどの防御行動を取らない。それを当初から観察していたカナフは、この連携攻撃を当てられる確信があった。
「油断は即ち死、覚えておけ」
そしてタルワールの
ジャマダハルはその衝撃で後方に激しく吹き飛ぶ。
「おわっ!」
その一撃の衝撃波により、ジャマダハルに最も接近していたソラのカレトヴルッフも僅かに吹き飛んだ。
「何だ今の? す、すげえ」
しかし――
それでも、ジャマダハルを撃墜するには至らず、ジャマダハルは空中で浮遊を続けていた。
『惜しかったです。もう少しで私に痛みを与えられましたね、けれど――』
そしてカチュアからの反撃、ジャマダハルの両肩部から
『ぐうっ!』
『きゃあっ!』
「カナフさん、エイラ!」
それを見て、二人の身を案じながらプルームは叫んだ。
『こちらは、本体は損傷軽微、とりあえず大丈夫だ』
『心配しないで姉さん』
「よかった」
――でもどうすれば。
カナフとエイラリィの安全を確認し、プルームはほっと胸を撫で下ろす。しかし同時にカナフの切り札、現状最大の一撃をもってしてもカチュアの
『ん? あれ?』
すると、ソラが何かに気付いたように呟いた。
『プルームちゃん、あれほら、さっきのカナフさんの一撃が当たった場所』
ソラに言われ、プルームはジャマダハルの腹部に視線を送る。
「……小さな亀裂?」
ソラの指摘で目を凝らしてみると、ジャマダハルの腹部には僅かな亀裂が入っていたのだ。
『効いてたんだ、さっきの一撃は無駄じゃなかった、これもしかしたらもう一息なんじゃ?』