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第11話:辛麺、つけ麺、よく絡メーン

 現代に戻って二日目の昼下がり。


 途中俺の契約精霊である『雷鳥』シャロシュの乱入もあり、おかげで、と言うのは非常に釈然としないが俺とソフィアは外見と言う意味では現代の街並みに違和感なく溶け込めていると思う。


 時折、武器やら鎧やらを携帯している輩に対する俺の違和感は半端ではないが、それはそれで〈ダンジョン〉などと言う異世界にいた俺にとっては聞き馴染み深いがトンデモない要素が加わってしまった『現代』では割と普通の光景らしい。


 ただ、そう言った輩も街中で大っぴらに『装備』をしている人間は稀なようで、大抵の場合カバンなどと一体化させるような形状で持ち歩いている。


 そういう意味ではシンジ、ユウト、ケンゴの三人は比較的堂々と装備を着込んで歩いていた気もするが、時間帯や通りも関係あるのかもしれない。


 現に俺とソフィア……主に俺の革鎧姿は、表通りでも微妙な視線を集めていたしファミレスやアパレル系のショップでは明らかに怪訝な顔をされていた。


「暗黙の了解的な、現代ならではの常識ってのがあるのかもな」


 俺の呟くようなボヤキに前を歩いてはランチ選びに余念がない二人の少女の内、俺の契約精霊である『雷鳥』シャロシュが振り向きもせずにサラッとぼやき返す。


「ん〜、単純にマスターが汚くてダサかったからっすねえ。

 この世界? というか時代?では〈探索者シーカー〉にとっての『装備』もファッションの一部なんで。


 フィーちゃあん連れたさっきまでのマスターって、パッと見、超絶くぁわいい美少女引き連れたホームレス風負け組おじさん? 


 とにかくフィーちゃあん、と連れ歩くに相応しくない感ハンパなさすぎ」


 コイツ。


 絶対いつか何かしらの形で報復することを心に誓い、ただ反論の余地がない現状に俺は無言で唇を噛むしかない。


 ただプラチナブロンドの長い髪を揺らす控えめに言っても美人ではあるがイケすかない契約精霊の隣に視線を向ければ——。


 確かにシャロシュの言葉に納得せざるを得ない程には周囲の視線を良い意味で集めすぎている美少女がいた。


 本人たっての要望でスカートは却下。


 太腿あたりから真横にスリットの入ったジーンズが気に入ったようで現在はそちらを着用。


 ただ、これだけはっ! とシャロシュに泣きつかれ仕方なく着ているのは肩から胸元にかけてゆったりと大きく広がった袖がブカブカのニット。


 あの格好をするまで気がつきもしなかったが、意外にも立派に女性らしく成長していたソフィア。


 周囲の男どもの視線を明らかに釘付けにしていた。


 俺自身、ソフィアの保護者的立場としてはああ言う目のやり場に困る格好は控えさせたいと思っているが。


 ただ、あれだけ恥ずかしがっていたにも関わらず『勇者が困る姿も新鮮』などと存外ノリノリで現在は着用していたりもする。


 はあ、ベリアルが見たらなんと言うか。


 すまんな、俺は魔王の娘相手に舌戦では勝てそうにない。


「一日でアタイの超くぁわな魅力にどっぷりなフォロワー様方の情報によれば〜、あの角を曲がった路地裏の先に『激辛玄人向け最強辛旨つけ麺』のお店があるはずっ」


「激辛っ! つけ麺!? 心踊る言葉が沢山! 早く行こうシャロシュ」


 仲良く手を繋いで駆け出す二人の後ろ姿は、現代の若者たちと比べても違和感なく自然体。


 年齢相応の笑顔を浮かべるソフィアの姿に心温まる思いを抱く。


「契約主に対する態度としては納得いかないが、アイツらなりに俺の意思を組んでくれてるって事なんだよな」


 ソフィアのあんな無邪気な笑顔を俺が引き出してやれただろうか。


 そう考えると言動に癖のありすぎる契約精霊にも僅かに感謝の念が浮かばないこともない。


 さっきの発言は許してないけどな。


 ちょっとした感慨に浸りながらも常人では追いきれない猛烈な速度で走り、角を曲がって見えなくなった二人の姿。


 気持ち焦り気味に追いかけた俺も路地を曲がり、割と本気で二人の跡を追う。


 というか早すぎるだろ!? 


 やはり前言撤回、うちの契約精霊は碌なもんじゃない!


 本気で『雷鳥』が飛べば追いつくのは至難。


 どころか『雷速』には追従すら不可能。


 軽く周囲の景色を置き去りにしながら少女二人の跡を追い続け、


「へいへぇ〜いっ! 激レア美少女二人組かくほぉ〜」


「ちょうどよかったねぇ〜お二人さん! 俺ら〈とぅるーこんぼ〉のダンジョンアタック生配信、見学して行くっしょ? なんなら参加型の企画組んじゃうけど?」


 よくわからん男二人組によくわからん絡まれ方をしているソフィアとシャロシュの姿を見つけた。


 こっちに戻ってきてから絡まれる頻度が高くないだろうか? 


 まあ、ソフィアとシャロシュを知らない人間からしたら中々お目にかかれない美少女二人。


 偶然声をかけたのが異世界でその名を聞けば常人なら卒倒するであろう、天の怒れる神災『雷鳥』シャロシュ。


 更に暗黒と破滅の代名詞であった『魔王』の娘、などと思いもよらないだろうし、知る由もない。


 件の『つけ麺屋』を前に絡まれたソフィアの表情は俯いていてよくわからないが、全身から溢れる魔力の波長が『触れるな危険』と言外に彼女の心境を表している。


 シャロシュの方は、あのニヤケ顔。


 あの二人組も理不尽な契約精霊の哀れな被害者となるのは確定事項のようだ。


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