目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第三話 熟練冒険者の介入

 ……落ち着け……落ち着け……ぶっ殺すのは最終手段だ。

 徐々に気持ちが抑えられない、まあ……まだ我慢出来るが。


「おいおい、アイツら本当に知らないのか?」

「オシマノスさんとか紅林夫妻はもう有名だからな」

「ベリスカルファ家知らんとかどこの国の奴らだよ」

「だよな、掃除用具モチーフの装飾品をしているのに」


 ……ここじゃまっとうに仕事している人達の邪魔になるな。

 おいこら、俺を無視して外に行こうとすねんじゃねぇ。


「待てよ再利用出来ないゴミ」

「ああん!?」

「喋るな」


 まずはモップで喉をかっきると同時にギルドの外に出そう。

 扉は後で修理業者に頼むか。


「ふべぇ!」


 ……俺もまだまだか1人がやっとだ、家族なら同時に出来るだろうな。

 ゴミを吹っ飛ばしたが、まだゴミが残っている。

 こう……掃除が終わったのに小さいゴミを見つけたあの気持ちだ。


「こ! コイツ! ぶった切っ――」

「あ、ギルド内で抜刀しましたね?」

「ああん!?」

「ほとんどがギルド内での抜刀は違反ですよ?」

「こ! このギルドは狂ってやがる! 何故ここに居る冒険者は平然としてられるんだ」

「え? じゃあ貴方達みたいな横暴な態度が普通という事ですか?」

「何んだと!?」

「常識的に普通にできないんですか?」

「けっ! 日雇の清掃が偉そうに説教するんじゃねぇ!」

「……清掃馬鹿にしやがったな」

「ハッ! 誰でも――」

「そうかですか……では見せてもらいましょう、誰でも出来るんだろ?」


 俺は目の前の男を放り出した。


「……」

「ごばぁ!」


 俺は先程喉元を切った男にトドメを刺した。


「この男の死体を清掃してみてください、誰でもできるんですよね?」

「は! はあ!?」

「清掃は誰でも出来る、そうなんでしょう?」

「ちっ! その清掃じゃ――」

「どうした! アラン君! 何か問題かい!?」

「……ガンロックさん」


 この人は熟練冒険者のスミス=ガンロックさんだ。


『君は清掃員だろ? 冒険者の揉め事は冒険者に任せろ』


 この人は人間として尊敬出来る。

 何というか年の功というと失礼かもしれない。

 だがこの人の言葉には説得させる力がある。


「……なるほど、君の仕事をバカにしたのか」

「この人達は受付でも騒いでまして」

「そうか、俺が首を突っ込んでいいか?」

「どうぞ」


 俺は好きで人殺しをしたいわけではない。

 家の名誉を守るというのはあるが……


『我が一族の名にかけて貴様は清掃せてもらう』

『清掃! 清掃! あははは! 本当に救いようの無いゴミは清掃!』

『兄さんは優しすぎます、拭けない汚れもあるんですよ?』

『お兄様? ゴミ箱にダンクしなきゃですわ!』


 ああ……思いとどまると何時も、兄さんと姉さんと弟と妹が頭をよぎる。

 家族は本当に過激なんだよ、両親もさ、もう少し人の命は大切にした方がいい。

 確かにとどめをさしたが、安物の蘇生アイテムで復活出来るほどにしておいた。 

 清掃員がゴミを出すにはいかない、ギルド内と外もまた清掃しなきゃな。  


「ほれ、蘇生アイテムだ、自分達の国に帰るんだな」

「けっ! こんな狂った田舎のギルドに来なければよかったぜ!」


 蘇生アイテムを使ってそそくさと逃げた。

 はぁ……あんなのが居るから冒険者達が馬鹿にされるんだ。


「ベリスカルファ君、冒険者がすまないね」

「いやいやガンロックさんが謝る事じゃないですよ」

「……そうか」


 当事者に謝ってもらわんと意味ないし。


「気持ちを切り替えて、君に話があったんだ」

「話ですか?」

「ああ、仕事の話をしたい」

「わかりました、10秒ください」


 ベリスカルファ方式魔法術!

 これは――いや、集中集中。

 ついつい内心で考えにふけってしまう。


「清掃魔法!」


 ……よし、これでギルド内と今ここを散らかしたのは大丈夫だ。

 この清掃魔法は色々とあるが名前は言わない家訓だ。

 使われて困るというわけではないが、先祖の日記によれば。

 長ったらしい詠唱はするな、口より手を動かせとね。

 詠唱は省略したり色々とあるんだが――

 おっと清掃の事になると内心が多くなる。


「お待たせいたしました、ご用件は?」

「ああ、この間話した俺の店の事なんだが」

「奥様と一緒にこのチュッカンで開くと言っていた?」

「そうそう、まだ先の話なんだがなお前さんに月一での清掃を頼みたいんだ」

「そういう事でしたら、もちろんいいですよ」

「そうか、ほれ前金だ」

「は!? いやいやちょっと待ってください! 見積もしてないんですよ?」


 いきなり皮袋を渡された、これ絶対にお金だよな!?

 前金てちゃんと見積とか契約とか――


「んじゃ確認だがアラン君」

「はい」

「清掃に関して君は噓を言わないだろう?」

「もちろんです、そんな事をしたら一族の恥です」

「うむ、数ヶ月しか君と関わり合いが無いが、掃除に対しては絶対の信頼をしている」

「ありがとうございます」

「だから君を信頼して見積も無く金を渡せるんだ」

「えぇ……じゃあお店が出来てから見積出しますね」

「おう、そこから引いてくれ、ちなみに長期契約な」


 お客様が出したお金を、再びふところに入れさせるのはダメだ。

 ……俺はこう言う経験が少ないな。

 ガンロックさんは信用出来るからいいけど。

 相手は選ばないとダメだな。


「よし、口約束も出来たし俺もゴールドダンジョンに言って来るかな」

「行ってらっしゃいガンロックさん」

「まあまだ受付してないから受注するんだがな」

「あらら、俺も従業員室の清掃が残ってるんでした」

「お互い頑張ろうぜ」

「はい」


 本当にガンロックさんは気持ちいい人だな。

 でも俺はこの時、ああなるとは思わなかった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?