……落ち着け……落ち着け……ぶっ殺すのは最終手段だ。
徐々に気持ちが抑えられない、まあ……まだ我慢出来るが。
「おいおい、アイツら本当に知らないのか?」
「オシマノスさんとか紅林夫妻はもう有名だからな」
「ベリスカルファ家知らんとかどこの国の奴らだよ」
「だよな、掃除用具モチーフの装飾品をしているのに」
……ここじゃまっとうに仕事している人達の邪魔になるな。
おいこら、俺を無視して外に行こうとすねんじゃねぇ。
「待てよ再利用出来ないゴミ」
「ああん!?」
「喋るな」
まずはモップで喉をかっきると同時にギルドの外に出そう。
扉は後で修理業者に頼むか。
「ふべぇ!」
……俺もまだまだか1人がやっとだ、家族なら同時に出来るだろうな。
ゴミを吹っ飛ばしたが、まだゴミが残っている。
こう……掃除が終わったのに小さいゴミを見つけたあの気持ちだ。
「こ! コイツ! ぶった切っ――」
「あ、ギルド内で抜刀しましたね?」
「ああん!?」
「ほとんどがギルド内での抜刀は違反ですよ?」
「こ! このギルドは狂ってやがる! 何故ここに居る冒険者は平然としてられるんだ」
「え? じゃあ貴方達みたいな横暴な態度が普通という事ですか?」
「何んだと!?」
「常識的に普通にできないんですか?」
「けっ! 日雇の清掃が偉そうに説教するんじゃねぇ!」
「……清掃馬鹿にしやがったな」
「ハッ! 誰でも――」
「そうかですか……では見せてもらいましょう、誰でも出来るんだろ?」
俺は目の前の男を放り出した。
「……」
「ごばぁ!」
俺は先程喉元を切った男にトドメを刺した。
「この男の死体を清掃してみてください、誰でもできるんですよね?」
「は! はあ!?」
「清掃は誰でも出来る、そうなんでしょう?」
「ちっ! その清掃じゃ――」
「どうした! アラン君! 何か問題かい!?」
「……ガンロックさん」
この人は熟練冒険者のスミス=ガンロックさんだ。
『君は清掃員だろ? 冒険者の揉め事は冒険者に任せろ』
この人は人間として尊敬出来る。
何というか年の功というと失礼かもしれない。
だがこの人の言葉には説得させる力がある。
「……なるほど、君の仕事をバカにしたのか」
「この人達は受付でも騒いでまして」
「そうか、俺が首を突っ込んでいいか?」
「どうぞ」
俺は好きで人殺しをしたいわけではない。
家の名誉を守るというのはあるが……
『我が一族の名にかけて貴様は清掃せてもらう』
『清掃! 清掃! あははは! 本当に救いようの無いゴミは清掃!』
『兄さんは優しすぎます、拭けない汚れもあるんですよ?』
『お兄様? ゴミ箱にダンクしなきゃですわ!』
ああ……思いとどまると何時も、兄さんと姉さんと弟と妹が頭をよぎる。
家族は本当に過激なんだよ、両親もさ、もう少し人の命は大切にした方がいい。
確かにとどめをさしたが、安物の蘇生アイテムで復活出来るほどにしておいた。
清掃員がゴミを出すにはいかない、ギルド内と外もまた清掃しなきゃな。
「ほれ、蘇生アイテムだ、自分達の国に帰るんだな」
「けっ! こんな狂った田舎のギルドに来なければよかったぜ!」
蘇生アイテムを使ってそそくさと逃げた。
はぁ……あんなのが居るから冒険者達が馬鹿にされるんだ。
「ベリスカルファ君、冒険者がすまないね」
「いやいやガンロックさんが謝る事じゃないですよ」
「……そうか」
当事者に謝ってもらわんと意味ないし。
「気持ちを切り替えて、君に話があったんだ」
「話ですか?」
「ああ、仕事の話をしたい」
「わかりました、10秒ください」
ベリスカルファ方式魔法術!
これは――いや、集中集中。
ついつい内心で考えにふけってしまう。
「清掃魔法!」
……よし、これでギルド内と今ここを散らかしたのは大丈夫だ。
この清掃魔法は色々とあるが名前は言わない家訓だ。
使われて困るというわけではないが、先祖の日記によれば。
長ったらしい詠唱はするな、口より手を動かせとね。
詠唱は省略したり色々とあるんだが――
おっと清掃の事になると内心が多くなる。
「お待たせいたしました、ご用件は?」
「ああ、この間話した俺の店の事なんだが」
「奥様と一緒にこのチュッカンで開くと言っていた?」
「そうそう、まだ先の話なんだがなお前さんに月一での清掃を頼みたいんだ」
「そういう事でしたら、もちろんいいですよ」
「そうか、ほれ前金だ」
「は!? いやいやちょっと待ってください! 見積もしてないんですよ?」
いきなり皮袋を渡された、これ絶対にお金だよな!?
前金てちゃんと見積とか契約とか――
「んじゃ確認だがアラン君」
「はい」
「清掃に関して君は噓を言わないだろう?」
「もちろんです、そんな事をしたら一族の恥です」
「うむ、数ヶ月しか君と関わり合いが無いが、掃除に対しては絶対の信頼をしている」
「ありがとうございます」
「だから君を信頼して見積も無く金を渡せるんだ」
「えぇ……じゃあお店が出来てから見積出しますね」
「おう、そこから引いてくれ、ちなみに長期契約な」
お客様が出したお金を、再びふところに入れさせるのはダメだ。
……俺はこう言う経験が少ないな。
ガンロックさんは信用出来るからいいけど。
相手は選ばないとダメだな。
「よし、口約束も出来たし俺もゴールドダンジョンに言って来るかな」
「行ってらっしゃいガンロックさん」
「まあまだ受付してないから受注するんだがな」
「あらら、俺も従業員室の清掃が残ってるんでした」
「お互い頑張ろうぜ」
「はい」
本当にガンロックさんは気持ちいい人だな。
でも俺はこの時、ああなるとは思わなかった。