今日も俺はギルド内の清掃だ。
チュッカンも徐々に色々と建設されてきたな。
娯楽も欲しいな……大きな街まで行かないと無いし。
「あ! あの! 夫を知りませんか!?」
む? 受付が騒がしいな。
「ガンロック夫人、どうしました?」
「夫がゴールドダンジョンから帰還していますか?」
「少々お待ちください……いえ、クエスト報告はありませんね」
「もう一週間になります、普段なら遅れる場合は手紙とかで知らせるのに! 3日に一回は連絡する人だったのに!」
「奥様落ち着いてください、捜索――」
「オシマノスさん私が行きましょう、捜索隊を出すにもお金がかかるでしょう?」
「ベリスカルファさん、貴方は清掃員では?」
「そうです、先日ガンロック様から前金を頂きました」
「なるほど、雇い主を――」
「た、頼む! ガンロックさんを助けてくれ!」
む? 入り口から入ってきたのは……あれは新米冒険者のシン=アタラさん。
怪我してるじゃないか!
「アタラ様、今怪我の治療をいたします」
オシマノスが魔法で治療を始めたが……
ガンロックさんに何があったんだ?
「お、俺の事はいいです! 早くガンロックさんを助けて下さい!」
「何がありましたか?」
「キッタン村の近くのゴールドダンジョン、その2階層にゴールドドラゴンです! 2階層に出てくるモンスターじゃない!」
ゴールドドラゴン、確か複数の熟練冒険者で倒す様なモンスターだ。
……ガンロックさんは大丈夫か?
「ガンロックさんは結界のアイテムを使ってしのいでいます! 数時間前の話です! 俺に帰還アイテムと高速移動のアイテムを渡して! 自分が囮に!」
帰還アイテムにも種類がある。
つまりアタラさんが使ったのは、入り口まで戻る程度のアイテムか。
って、キッタン村から走ってきたのか!? 高速移動のアイテム!?
怪我しながら使う代物じゃない……いや、それだけ緊急事態という事か。
まずはキッタン村で状況確認だ。
「私がキッタン村のゴールドダンジョンに行きます、雇い主を助けなくては一族の恥です」
「わかりましたベリスカルファさん、後の事はお任せください」
「行ってまいります」
俺は清掃魔法を使ってスケートをするように移動する。
これは靴を洗う魔法の応用だ、つまり滑りやすくしている。
チュッカンからキッタン村までは歩いて数時間。
この速度なら数十分で行けるだろう!
流石は田舎道! 人通り何てほぼ無い、何人かとすれ違うくらいだ!
よし! キッタン村が見えて来たぞ!
「村長! 俺がゴールドダンジョンに!」
「待て待て! ゴールドドラゴンだぞ!? ここはチュッカンに居る冒険者を待つのじゃ!」
「ガンスミスさんを見殺しにはできん!」
「村長!」
「でも――」
「お待たせしました」
俺は
おそらく村人達は、ガンスミスさんをどうするか考えてくれていたのか。
ガンスミスさんの人徳には驚くな。
あ、村人さんが驚いている、そりゃそうか……
足に泡付けながら滑ってきたらな。
「チュッカンのギルドで働いている、アラン=ベリスカルファです」
「おお! アラン君か!」
「キッタン村長! 状況は!?」
「2階層にゴールドドラゴンがまだ居て、ガンスミスさんが追い詰められている、今は結界でどうにかなって居るが……」
「わかりました直ぐに向かいます、ゴールドダンジョンの入口は?」
「うむ、そこの看板を真っ直ぐじゃ!」
おお、わかりやすく看板が出でるな。
おっと、ゴールドダンジョンにはルールがあったな。
確か上級のモンスターとかボス倒すとダンジョンが消えるとか。
どんな理屈かは知らないが、まあ倒したら消える程度でいいだろう。
「村長、ゴールドドラゴンを倒したらダンジョンが消えるかもしれません」
「うむ、この村も久しぶり潤った、これ以上の贅沢は身を亡ぼす」
そう、ゴールドダンジョンが出現した周辺の村。
これは注意が必要だ、大きな町なら大丈夫なのだが……
村となれば莫大な富のチャンス。
だが歴史の教科書にのるくらい失敗談も多い。
「村の総意でよろしいですか? 後腐れが――」
「アランさんさっさと行ってくれ!」
「ガンロックさんの方が優先に決まっているだろ!」
「はやくはやく!」
村の人達の怒りの声を受けてしまった。
でも確認しないと後腐れがあるんだよな、ゴールドダンジョン。
よし!
「行ってまいります! ゴールドダンジョンは他に誰も居ませんよね?」
「うむ、ガンロックだけじゃ!」
「わかりました!」
俺は看板に従ってゴールドダンジョンへと向かった。
もちろんあわあわスケートでだ。
「む? 入口なのにドラゴンの声が聞こえる」
いや確か地下2階に居るということだから当たり前か。
ゴールドダンジョンは全て金、もちろん入口もモンスターも。
そしてドロップする物も食べ物や飲み物も金。
奥に行けば行くほど難しい、食料問題とか色々な。
「ガンロックさん!」
「む!? アラン君か!?」
なんだかんだと問題の地下2階にやってきた。
ガンロックさんをすぐに見つけれてよかった。
んで、問題のゴールドドラゴンが何か咆哮とかあげてるけど……
「即決清掃」
さ、消えてもらいましょう。
んで小説とかだと……こういう時に主人公が説明する時があるだろ?
あれって時の流れはどうなっているのか?
長々と語っている間どうなるんだ?
例えば長文になればなるほど、説明的になればなるほど。
この間読んだ恋愛小説で、主人公がヒロイン達を解説していたんだが……
容姿や服装や体系とかさ、いや気持ち悪いだろ。
三人称視点ならともかく一人称視点でだ。
うーむ、俺の悪い癖だな、目の前の出来事と内心が別だ。
昔からの癖だな、こうした方が集中出来るんだ。
つまりはこの程度、考えるまでもないという事。
俺が真剣に向き合うのは清掃だけでいい。
……語弊のある言い方になってしまった。
「アラン君……凄い手際だね」
「ん?」
おやおや、いつの間にかゴールドダンジョンを脱出して、ガンロックさんの治療をしていた。
「すまない、清掃以外を君にやらせる事になってしまった」
「いいんですよ気持ちはわかります、奥様とのお店の為にですよね?」
「ああ、このゴールドダンジョンを最後の冒険にしようとした……欲を出し過ぎた」
「いいではありませんか、最後なんでしょ?」
「そうだ、妻には私のワガママを聞いてもらった、これからは妻の夢を叶える」
「ではキッタン村の人達に軽く挨拶を済ませた後、すぐにチュッカンに向かいましょう」
「ああ、今は妻に謝りたい」
「ガンロックさん、スケートは出来ますか?」
「んん? ああ……出来なくはないが……どうして?」
「俺の清掃魔法でスケートの様に滑るんですよ」
「なるほど、走るより速そうだ」
その後俺とガンロックさんは、キッタン村で挨拶をした。
そしてすぐさま、チュッカンへと向かった。
ガンロックさん……中々滑るのうまかったな。