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第四話 仕事をせずに報酬はもらえませんので

 今日も俺はギルド内の清掃だ。

 チュッカンも徐々に色々と建設されてきたな。

 娯楽も欲しいな……大きな街まで行かないと無いし。


「あ! あの! 夫を知りませんか!?」


 む? 受付が騒がしいな。


「ガンロック夫人、どうしました?」

「夫がゴールドダンジョンから帰還していますか?」

「少々お待ちください……いえ、クエスト報告はありませんね」

「もう一週間になります、普段なら遅れる場合は手紙とかで知らせるのに! 3日に一回は連絡する人だったのに!」

「奥様落ち着いてください、捜索――」

「オシマノスさん私が行きましょう、捜索隊を出すにもお金がかかるでしょう?」

「ベリスカルファさん、貴方は清掃員では?」

「そうです、先日ガンロック様から前金を頂きました」

「なるほど、雇い主を――」

「た、頼む! ガンロックさんを助けてくれ!」


 む? 入り口から入ってきたのは……あれは新米冒険者のシン=アタラさん。

 怪我してるじゃないか!


「アタラ様、今怪我の治療をいたします」


 オシマノスが魔法で治療を始めたが……

 ガンロックさんに何があったんだ?


「お、俺の事はいいです! 早くガンロックさんを助けて下さい!」

「何がありましたか?」

「キッタン村の近くのゴールドダンジョン、その2階層にゴールドドラゴンです! 2階層に出てくるモンスターじゃない!」


 ゴールドドラゴン、確か複数の熟練冒険者で倒す様なモンスターだ。

 ……ガンロックさんは大丈夫か?


「ガンロックさんは結界のアイテムを使ってしのいでいます! 数時間前の話です! 俺に帰還アイテムと高速移動のアイテムを渡して! 自分が囮に!」


 帰還アイテムにも種類がある。

 つまりアタラさんが使ったのは、入り口まで戻る程度のアイテムか。

 って、キッタン村から走ってきたのか!? 高速移動のアイテム!?

 怪我しながら使う代物じゃない……いや、それだけ緊急事態という事か。

 まずはキッタン村で状況確認だ。


「私がキッタン村のゴールドダンジョンに行きます、雇い主を助けなくては一族の恥です」

「わかりましたベリスカルファさん、後の事はお任せください」

「行ってまいります」


 俺は清掃魔法を使ってスケートをするように移動する。

 これは靴を洗う魔法の応用だ、つまり滑りやすくしている。

 チュッカンからキッタン村までは歩いて数時間。

 この速度なら数十分で行けるだろう!


 流石は田舎道! 人通り何てほぼ無い、何人かとすれ違うくらいだ!

 よし! キッタン村が見えて来たぞ!


「村長! 俺がゴールドダンジョンに!」

「待て待て! ゴールドドラゴンだぞ!? ここはチュッカンに居る冒険者を待つのじゃ!」

「ガンスミスさんを見殺しにはできん!」

「村長!」

「でも――」

「お待たせしました」


 俺は颯爽さっそうとと登場した。

 おそらく村人達は、ガンスミスさんをどうするか考えてくれていたのか。

 ガンスミスさんの人徳には驚くな。

 あ、村人さんが驚いている、そりゃそうか……

 足に泡付けながら滑ってきたらな。


「チュッカンのギルドで働いている、アラン=ベリスカルファです」

「おお! アラン君か!」

「キッタン村長! 状況は!?」

「2階層にゴールドドラゴンがまだ居て、ガンスミスさんが追い詰められている、今は結界でどうにかなって居るが……」

「わかりました直ぐに向かいます、ゴールドダンジョンの入口は?」

「うむ、そこの看板を真っ直ぐじゃ!」


 おお、わかりやすく看板が出でるな。

 おっと、ゴールドダンジョンにはルールがあったな。

 確か上級のモンスターとかボス倒すとダンジョンが消えるとか。

 どんな理屈かは知らないが、まあ倒したら消える程度でいいだろう。


「村長、ゴールドドラゴンを倒したらダンジョンが消えるかもしれません」

「うむ、この村も久しぶり潤った、これ以上の贅沢は身を亡ぼす」


 そう、ゴールドダンジョンが出現した周辺の村。

 これは注意が必要だ、大きな町なら大丈夫なのだが……

 村となれば莫大な富のチャンス。

 だが歴史の教科書にのるくらい失敗談も多い。


「村の総意でよろしいですか? 後腐れが――」 

「アランさんさっさと行ってくれ!」

「ガンロックさんの方が優先に決まっているだろ!」

「はやくはやく!」


 村の人達の怒りの声を受けてしまった。

 でも確認しないと後腐れがあるんだよな、ゴールドダンジョン。

 よし!


「行ってまいります! ゴールドダンジョンは他に誰も居ませんよね?」

「うむ、ガンロックだけじゃ!」

「わかりました!」


 俺は看板に従ってゴールドダンジョンへと向かった。

 もちろんあわあわスケートでだ。


「む? 入口なのにドラゴンの声が聞こえる」


 いや確か地下2階に居るということだから当たり前か。

 ゴールドダンジョンは全て金、もちろん入口もモンスターも。

 そしてドロップする物も食べ物や飲み物も金。

 奥に行けば行くほど難しい、食料問題とか色々な。


「ガンロックさん!」

「む!? アラン君か!?」


 なんだかんだと問題の地下2階にやってきた。

 ガンロックさんをすぐに見つけれてよかった。

 んで、問題のゴールドドラゴンが何か咆哮とかあげてるけど……


「即決清掃」


 さ、消えてもらいましょう。

 んで小説とかだと……こういう時に主人公が説明する時があるだろ?

 あれって時の流れはどうなっているのか?

 長々と語っている間どうなるんだ?

 例えば長文になればなるほど、説明的になればなるほど。


 この間読んだ恋愛小説で、主人公がヒロイン達を解説していたんだが……

 容姿や服装や体系とかさ、いや気持ち悪いだろ。

 三人称視点ならともかく一人称視点でだ。


 うーむ、俺の悪い癖だな、目の前の出来事と内心が別だ。

 昔からの癖だな、こうした方が集中出来るんだ。

 つまりはこの程度、考えるまでもないという事。

 俺が真剣に向き合うのは清掃だけでいい。

 ……語弊のある言い方になってしまった。


「アラン君……凄い手際だね」

「ん?」


 おやおや、いつの間にかゴールドダンジョンを脱出して、ガンロックさんの治療をしていた。


「すまない、清掃以外を君にやらせる事になってしまった」

「いいんですよ気持ちはわかります、奥様とのお店の為にですよね?」

「ああ、このゴールドダンジョンを最後の冒険にしようとした……欲を出し過ぎた」

「いいではありませんか、最後なんでしょ?」

「そうだ、妻には私のワガママを聞いてもらった、これからは妻の夢を叶える」

「ではキッタン村の人達に軽く挨拶を済ませた後、すぐにチュッカンに向かいましょう」

「ああ、今は妻に謝りたい」

「ガンロックさん、スケートは出来ますか?」

「んん? ああ……出来なくはないが……どうして?」

「俺の清掃魔法でスケートの様に滑るんですよ」

「なるほど、走るより速そうだ」


 その後俺とガンロックさんは、キッタン村で挨拶をした。

 そしてすぐさま、チュッカンへと向かった。

 ガンロックさん……中々滑るのうまかったな。

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