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06

 急に手帳が引っ張られる。

 は? と顔を上げると、警備員さんだった。

 警備員さんは僕の手からファイルと手帳を引っこ抜くと、小脇に挟んで焼却室の扉を開ける。いつの間にか小窓の向こうは黒く平穏を取り戻していて、焼却中を示す赤いランプが消え、出入可能を示す緑のランプが点灯していた。


 警備員さんは無言でずかずかと焼却室に入っていき、しゃがんで2、3個何かを拾った。そしてファイルと手帳を中へ適当に放り投げて扉を閉め、また焼却作動のボタンを押した。


 ボォー。


 赤いボタンが点灯する。


 「まだ、最後まで読み切れてないんですけど……」

 「最後のページには辿り着いてただろ」

 「えぇ……横暴……」

 「うるさい。時間ギリギリだったんだ」


 軽口を叩きながら、警備員さんがついてこい、とばかりに顎をしゃくって歩き出す。僕は慌てて後を追う。


 「え、何ですか、どこ行くんですか、僕どうすればいいんですか」

 「いちいちうるさい。質問は一つずつしろ」


 警備員さんは呆れたように言って立ち止まる。そして進行方向をまっすぐ指差す。


 僕は指し示された先を見る。そこは、出入り口。正面玄関の自動ドア。


 警備員さんは、さも当たり前かのように言った。


 「するんだよ、弔い」

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