急に手帳が引っ張られる。
は? と顔を上げると、警備員さんだった。
警備員さんは僕の手からファイルと手帳を引っこ抜くと、小脇に挟んで焼却室の扉を開ける。いつの間にか小窓の向こうは黒く平穏を取り戻していて、焼却中を示す赤いランプが消え、出入可能を示す緑のランプが点灯していた。
警備員さんは無言でずかずかと焼却室に入っていき、しゃがんで2、3個何かを拾った。そしてファイルと手帳を中へ適当に放り投げて扉を閉め、また焼却作動のボタンを押した。
ボォー。
赤いボタンが点灯する。
「まだ、最後まで読み切れてないんですけど……」
「最後のページには辿り着いてただろ」
「えぇ……横暴……」
「うるさい。時間ギリギリだったんだ」
軽口を叩きながら、警備員さんがついてこい、とばかりに顎をしゃくって歩き出す。僕は慌てて後を追う。
「え、何ですか、どこ行くんですか、僕どうすればいいんですか」
「いちいちうるさい。質問は一つずつしろ」
警備員さんは呆れたように言って立ち止まる。そして進行方向をまっすぐ指差す。
僕は指し示された先を見る。そこは、出入り口。正面玄関の自動ドア。
警備員さんは、さも当たり前かのように言った。
「するんだよ、弔い」