スップのミッツ教団よりムルカ、ルルーが特使の任を命じられ、ギンが護衛に付くことが決定したころ、ブロッス帝国の皇帝の間で2人の男がなにやら話をしている。
「陛下、ご報告がございます」
「エンビデスか」
男の1人はブロッス帝国皇帝ギガスであり、かつて反乱により前ボース王を殺害し、皇帝の座に就き、ブロッス帝国を興したその人である。
もう1人はブロッス帝国の魔術師団を束ね、宰相も兼任しているエンビデスである。
「バンス将軍より文が届きました。その内容はどうやらプレツの砦の制圧に失敗したようでございます」
「そうか、しかしバンスの部隊がしくじるとはプレツ軍が予想外の強さだということか」
「いえ、どうやらそうではないようでございます」
「何?」
ギガスの眼光が鋭くなるが、エンビデスは更に報告を続ける。
「先の戦いに例の魔法剣を使う男が参陣していた模様にございます」
「あの男か、コッポにいたのではないのか?」
「理由は分かりかねますがバンス将軍の部下のブリードが深手を負い、その治療のためもかねて現在本国に向けて帰還の最中のようにございます」
部下の遠征の失敗にも顔色を変えないギガスに対し、エンビデスは更に報告を続ける。
「その戦場に魔術師がいたと言う報告を受けました。それも規格外の魔法を使用した模様。もしかするとあの者らの娘ではないかと思われますな。私が直接この目で確かめて参りましょうか?」
「いや、それには及ばん。主は主の役目を今は果たせ。どうも各国が我らに対する同盟を画策しているようだ。それらの動きに注視せよ」
「ははっ」
「しかるときが来れば、余より主に指令を下す。今は宰相として国内外の動きに注視せよ」
「ははっ」
ギガスは頭を下げるエンビデスを下がらせる。
「下がってよいぞ」
「ははっ」
そう言ってエンビデスは皇帝の間より出て自らの職務へと戻っていく。
1人になったギガスは突如呟き始める。
「魔法剣、そして規格外の魔法を使う娘か……」
魔法剣を使うギン、そして強力な魔法を使うエイムに対し思うことがあるギガスだが、その胸中は何者にも分からない。ギガス本人を除いては。
エンビデスは自らの執務室へと戻り、職務へ戻ろうとするなか、他の魔術師に声を掛けられる。
「お帰りなさいませ、エンビデス様」
「うむ、そうだお前に命じたいことがある」
「何でございましょうか?」
「プレツに間者を派遣し、情報を集めよ」
魔術師はエンビデスに任務の内容を尋ねる。
「何の情報でございましょうか?」
「例の魔法剣を使う剣士、そして共に行動をする魔術師の少女についての動きをだ、詳しいことが分かれば私に報告せよ」
「はっ!では早速手配します」
そう言って魔術師は執務室を出ていく。エンビデスは独自にギンとエイムについての情報を得ようとしていた。