ブロッス帝国の水軍が警戒範囲を広げ民間船の捜索を開始したころ、ギン達は着々と補給拠点のある島に近づいていた。
「なんか拍子抜けだな、ここまで水軍なんて影も形も見当たらねえよ」
「確かに変だな、ジエイ、どうだ?」
双眼鏡で周りを見渡しているジエイはギンに尋ねられ、返答をする。
「船らしきものは見当たりません。ですが、船の残骸は多く見かけます」
「残骸?」
「この辺一帯でプレツの水軍と帝国の水軍との間に戦闘があったとみられますが。肝心の軍船は姿自体、目に入りませんな」
ジエイの言葉を聞き、ミニルが自らの意見を話す。
「帝国の船も壊れてこの場を離れたのではないでしょうか?」
「いえ、帝国は何隻も軍船を所持しているので多少の被害が出てもここに戦線を維持しているはずです」
ジエイの意見にギンが同意する。
「俺もジエイの意見に賛成だ、プレツの水軍を圧倒できるうえ、補給拠点がある以上ここを退く理由はないはずだ」
「まあ、何にせよ補給拠点には着けるんだ。俺としては帝国に見つからなくてラッ……ん?」
「どうした、ウィル?」
「な、なあ、双眼鏡であっちの方を見てくんねえか」
ウィルの懇願を聞き、ジエイが双眼鏡でウィルの指定した方向を見ると驚きの光景を目にした。
「あれは、ブロッス帝国の旗印!」
「何⁉島の寸前まで後退しているのか?」
「ええ、プレツを睨むための船が何故、これほど後方に⁉」
「ジエイ、まさか俺達はフィファーナが上陸したという偽情報を掴まされたのか?」
ギンの言葉にジエイは思案を巡らせ1つの答えを導き出す。
「フィファーナが上陸したかどうかは分かりかねますが、我らの動きはここまで警戒されたようです」
「正面突破は無理だ。迂回して島の裏手に回ろう、そうすれば敵は陸地で俺達と戦わざるをえない」
ギンは自分達が先に島への上陸を果たせれば陸地で敵を迎え撃ち、勝つ可能性が高まるとふんでいる。
だが、そんなギンの考えとはまた別の案をウィルが提案する。
「いや、ここは撤退した方がいいんじゃねえか?」
「何⁉」
「あんたの案にしたってうまくいく保証はねえ、ここは退いて次の機会を待とうぜ」
ウィルの案に対しミニルが反論をした。
「でも兄さん、私達が逃げたらまた帝国はすぐにプレツを攻めてくるわ!」
「だけど、俺達が失敗したら誰が次この作戦をやるんだ⁉とりあえずここは退こうぜ」
「兄さん……」
進むべきか?退くべきか?この戦いの命運を分ける選択を今まさにギン達は迫られている。