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育ての親の思い出

 ムルカの計らいで馬車の中でプラナと過ごすギン、中々話すタイミングを掴めないでいたが、ようやくプラナが口を開く。


「ねえ兄さん、兄さんはそういえば実家が滅ぼされたのにどうして生き残ったの?それにどうして傭兵になったの?」

「お前は知らないと思うが、俺達の父親に仕えていたブレイクという男に逃がされて、コッポで過ごしていた」

「そうだったんだ、それで傭兵になったのは?」

「その前にブレイクの事を話してもいいか?良ければみんなも聞いてくれ」


 ギンの呼びかけにプラナは応じ、エイムもギンの言葉に反応する。


「兄さんを育ててくれた人の話なら聞きたいわ」

「そういえば私も聞いたことがありませんでした。お願いします」


 エイムとプラナに促されるとギンは実家が滅びた後に自分を育ててくれたブレイクについて語り始める。


「ブレイクは俺に剣と魔法を教えてくれた。元々三男だったこともあり、跡を継げない代わりに兄を守れる剣士としてとんでもない厳しい稽古を課されたな」


 プラナは真剣にギンの話を聞き入っており、ギンは更に話を続ける。


「コッポに流れてからはブレイクは傭兵の仕事をしながら俺を育て鍛えてくれた。剣にはすごく厳しい人だったな」

「そうだったのね」

「だけど剣だけでなく、世の中のいろんな事を教えてくれた。彼がいなければ今の俺はない」


 ブレイクがいたから自分という存在を確立することができたと語るギンであったが、次の瞬間表情を曇らせる。


「そんなブレイクも病に倒れ、帰らぬ人となった。俺を育てる為に相当な無理をしていたからな」

「兄さん……」


 少しの沈黙ののちにギンは話を再開する。


「そこからは傭兵の仕事を始めて、みんなと会って、そしてお前とまた会うことができたんだ」

「そうね、最初は私達は戦う間柄だったものね」

「正直、お前とまた会えなくても仕方ないと思っていた。だけどエイムが会えば嬉しい気持ちになると言ってくれてそこからそれを希望に生きていこうと思った」


 ギンの言葉を聞いて、エイムは少し照れくさそうに話す。


「えっと、私はただギンさんもプラナさんも会えれば幸せな気持ちになるからそれがいいって思ったんです」

「エイムさん……」

「それに私も会えれば仲良くしたいと思ってましたし、プラナさんもとても優しい方ですし」

「私が優しい?」


 プラナの疑問にエイムは屈託のない笑顔で応える。


「そうですよ。あの時だって暴力を振るわれそうになった私を助けてくれましたし、単なる騎士の誇りとは私には思えませんでした」

「本来守るべき軍規を破ったのもありましたが、戦闘外で人をいたぶる。その行為が許せなかったんです」

「ほら、やっぱりプラナさんも優しい方ですよ」


 プラナは今日初めて知った。兄は自分の知らない苦労をしていたことを、そして兄を思う人がいるから兄は強く優しく生きてこれたことを実感する。

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