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領主の器

 カイスより死んだと思われていたプラナが生きて、自らの意思で兄であるギンの元に戻ったということを聞いたルードはギンの姿を目にするとギンの元へと駆け寄り、言葉を放つ。


「あなたがギンという剣士か?」

「そうだが、何だ?」

「あなたは我が妻の父であるバンス将軍の命を奪った」


 ルードの言葉を聞いたエイムはルードに対し、何かを言おうとするが、ギンに制止される。


「でもそれは……」

「待て」

「ギンさん……」


 更にルードは言葉を続ける。


「義父の仇であるあなたを討つことが義父へのせめてもの弔いだと思った。だがあなたが妻の友であるプラナ殿の兄だというなら私は斬るわけにはいかない」


 ルードの言葉を聞いているカイスはそっと呟く。


「ルード殿……」


 ルードはギンに対し複雑な思いを抱きながらも自らの思いを話す。


「それに陛下はあなた方とは戦わない御意思を感じる。ここで私があなたを斬ることは陛下の御心に反する行為だ。だが、これだけは約束して頂きたい」

「約束?」

「妹君を大事にしていただきたい、私はこれ以上妻が悲しむ姿は見たくない」

「もちろんだ、俺にとってプラナはもうただ1人の家族だし、情勢が落ち着いて、またあなたの奥方とも会えれば妹も喜ぶだろう」


 ギンがそう言うとルードが返答をする。


「それは妻も喜ぶでしょう、プラナ殿が生きていることはすぐに妻に伝えねば」


 ギンとの会話を終えたルードに対しギガスが声をかける。


「ルードよ、主の申す通り余はこの者達と休戦をすることを決定した。異論はないな?」

「もちろんでございます。このルード、陛下の御意思に従い、帝国を盛り立てていく所存にございます」

「そうか、憎いはずの相手の前でも己を律することができる主は良き領主になるであろう」

「もったいなきお言葉、恐悦至極に存じます。ですが私などまだまだです、父の助けがなければ私はまだ領主の器ではありません」


 ルードの言葉を聞くとギガスはルドルフに対しても言葉を放つ。


「ルドルフよ。主はルードを立派に領主として育てる責務があるな」

「はっ!このルドルフ、見事、我が子を立派な領主に育て上げてごらんにいれます」

「頼むぞ。それから、まだ他の領主達がこちらに向かっておるはずだ、ルドルフ、ルード、この状況を伝えに向かってくれ」

「はっ!行くぞルード!」


 帝国と反帝国同盟、ひとまずの休戦は皇帝ギガスの一声で成り立とうとしている。


 完全なる和解はまだ難しいが、それぞれがそれに注力していくしかない。この場にいる多くの者がそう感じ取ったのである。

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