かつてヨナと傭兵団が過ごしていた村は現在はグラッス軍の軍事拠点となっていた。そこでジエイは既にグラッスがブロッス帝国内の領主と通じていることを耳にし、ヨナ達に報告するべく、その場をあとにした。
周囲にも兵士がいる為、気付かれないように移動して、ヨナ達がいる馬車にまで戻って来る。
その様子にミニルが気付いてジエイに声をかける。
「あ、ジエイさん、お帰りなさい。どうでしたか村の様子は?」
ミニルの問いに険しい表情でジエイは見聞きしたありのままをヨナ達に伝える。
「落ち着いて聞いてください、村は既にグラッス軍の軍事拠点として兵が詰めています」
「そうなの?いや、確かにあそこは軍にとっては活用しやすい場所だね」
「それだけではありません、やはりギン殿のおっしゃるように、既にグラッスは帝国内の領主と通じておりました」
既にグラッスが帝国の領主達と通じていたことにヨナはさすがに動揺を隠せず、不安を口にする。
「それじゃあ、このままグラッスが帝国に攻め入ったら……」
「ええ、その領主達はそれに乗じ、カイス殿を裏切るでしょう」
ジエイとヨナのやり取りを聞いて、ウィルも怒りと共に、疑問が湧いてくる。
「皇帝が死んだ途端にやりたい放題だな、そんなにカイスが気に食わねえのか!」
「カイス殿の統治能力に不安もあるのでしょうが、やはり休戦の方針に引っ掛かりがあるのやもしれません」
「それじゃあ、この話はどっちが持ち掛けたんだグラッスか?それとも帝国の領主達か?」
「これは分かりませんが、今はそこの調査よりも我々にはやるべきことがあります」
ジエイの言葉にさらにウィルが尋ねる。
「俺達のやるべきことって?」
「まずは領主の館を奪還し、そこでヨナ殿が自らを正当にトッポックスを治める者としてアピールするのです」
ジエイの突拍子もない提案にヨナは戸惑い、思わずジエイに疑問を投げかける。
「ちょ、ちょっと待ってよジエイ、いきなりそんな実力行使に出て大丈夫なの?」
「ヨナ殿、我々は国王を欺く奸臣をトッポックス領主の娘として討ち、国を奸臣より救うという名目で動く以上、まず屋敷の奪還は必須です」
「……あんたの言う通りに進んだとして、そこからどうすんのさ?」
「もちろん、大義名分の為だけではなく、何か屋敷内に証拠があればそれを公表し、側近達を国内から孤立させます」
もはや一刻の猶予もないヨナ、ジエイの電撃作戦に賭けるのか?