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命を奪う覚悟

 ミッツ教団の孤児院のマザー、マリンとアルの後押しを受け、プラナはより決意を強め、最後の挨拶をしていた。


「それではマザー、短い間でしたがお世話になりました。マリンちゃん、アル君、私行くからね」


 プラナの挨拶を聞いて、マザー、マリン、アルがそれぞれ返答をする。


「ええ、お気をつけて、あなたにもミッツ様の加護があらん事を」

「マリン、いい子にしてるから、また会おうね」

「頑張れよ、他の子達は俺が守るからさ」


 3人の返答にプラナは深々と頭を下げてギン達と共にゲンジが引いている馬車に乗り込む。


 プラナが馬車に乗るとルルーがマザーに声をかける。


「それでは、プラナさんの事は私が司祭様に報告しておきます」

「ええ、お願いします。子供達は今は魔物の襲撃で混乱しているので落ち着いてからプラナさんの事はお話します」

「そうですね、お願いします。では我々もスップに戻ります」


 そう言って、ルルーもゲンジの馬車に乗り、移動を開始する。


 馬車に一同が乗り込み、しばらく移動するとギンが最初に口を開く。


「こういう形でまた帝国に行く事になるとは思わなかった。だがこれ以上人間同士で争うと魔族につけこまれる。どんな形であれ帝国との戦いは今度こそ終わらせなければならない」


 ギンの言葉を聞いてブライアンが返答をする。


「そうだな、カイスが戦いを止めてくれるのが一番だが、あいつが言葉だけで止まってくれるかどうかだよな」

「実際、それなら話は早いが、兵を差し向けてはくるだろうし、少々の戦いは避けられないだろう」


 ギンがこの発言をして少し顔を伏せているとプラナがギンに声をかける。


「兄さん、きっと兄さんは私が帝国の兵と戦う事になるのを危惧して最初は私が帝国に行くのを反対したんでしょう?」

「プラナ……ああ、そうだ。それにカイスが説得に応じなかった場合にカイスの命を奪うことを思うと、お前を連れて行くことは避けるべきだと思った」

「私は陛下やカイス様を信じて帝国の騎士として戦ってきた。でもカイス様がそれを見失っていたずらに戦火を拡げるようなら止めなくちゃいけない。例えカイス様を……」


 プラナはカイスの命を奪う事も辞さない考えを示そうとするが、言葉が続かず、ヨナがプラナに対して言葉を放つ。


「無理しない方がいいよ。惚れた男を殺すなんて嘘でもあんたが言っちゃいけない。余計に苦しくなるだけだよ」

「でも最悪……」

「そん時はあたし達がやる。あんたにもギンにもカイスは殺させやしない」


 ギンやプラナの為にもカイスの命を奪わせないというヨナの言葉にプラナは複雑な思いを抱きながらも心遣いが身に染みていた。


 そして一同を乗せた馬車はスップに到着する。

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