フィファーナはかつて婚姻の約束をした男がいた事をギン達に打ち明け、しかもその男がギガスの起こしたボース転覆の際に王国軍に与し、勝利したギガス達にその男は捕らわれたというのだ。
「陛下は軍議の場で『王国軍につく者を咎めはせん』とおっしゃったが、あくまでもそれは自らの陣営を離れるのを容認したに過ぎず、戦場では容赦はせんし、無論敗者がどうなるかはそち達も理解できよう」
「王国軍に与したうえで戦いに敗れた、つまり何かしらの処遇は免れないという事か」
「そうじゃ、しかも直前までは味方であった事がなお処遇を重くし、死罪となった」
死罪となったというフィファーナの言葉を聞いて、ルルーは疑問に感じた事があり、フィファーナに尋ねる。
「その時、あなたはどう思ったんですか?ギガス皇帝を怨んだことはなかったんですか?」
「娘よ、やはりそちはこれだけ戦いの場に赴いても聖職者たる考えが抜けんようじゃな。戦争はきれいごとだけで終わらせられるものではない」
「それは……」
「わらわの母も王国軍に人質にとられた。父と離れ、わらわだけでも王国軍につく選択はとれたが、陛下の理想を信じるからこそ、わらわも陛下に付き従った。じゃから陛下を怨むなど筋違いなのじゃ」
フィファーナもまたギガスの理想を信じるからこそ愛する男と敵対する選択をとったのだ。
「じゃが、わらわもさすがに他の者に手をかけられるのは我慢ならず、陛下に願い出てわらわ自身の手でその男の首を切り落とした」
「そんな……そこまでして……」
「直前にこう言ったわ『自らの力の無さと見る目の無さをせいぜい地獄で悔い、苦しめ。いずれわらわが地獄に行ったあかつきにはそちの苦しむ姿をあざ笑ってやろう』とな」
「それは……本心……からですか……」
ルルーの涙ながらの質問にフィファーナはギン達に背中を見せながら返答をする。
「さあな……、じゃがギンよわらわはプラナにまでそうはなって欲しくはないと思っておる。わらわもできうる限り力を尽くすが結局はそち達次第じゃ」
「フィファーナ、分かっている。それじゃあ、失礼した」
そう言ってギン達はフィファーナの部屋を退出し、フィファーナはふと息をつく。
「ふーーー、涙などいつぶりじゃろう。わらわにもまだそういった感情があったという事か」
過去を思い出し、涙するフィファーナは若いプラナに自らと同じ道を歩んで欲しくないという思いをギン達に告げ、そっと椅子に座り直すのであった。