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第12話 『黒き焔』

「今日は魔法の実戦テストをしよー!」


突然、セイラムがそんな事を言ってきた。

まぁ、そんな予感はしていた。

また人を殺すのだろうか…少し憂鬱な気分になってしまう。

まだ昨日の感覚が手に残っている。


首を刎ねる感触。

身体を突き刺す感触。

思い出すだけで吐き気がする。


「あぁ、安心してぇ〜、昨日みたいな事はしないよん!あーしのテストで死体は出ませぇん」

「そうですか」


ふぅ、良かった…

少しだけ安堵する。


「それで何をするんですか?」

「今日はねこの間、あーしがやって見せたように的に魔法を放ってもらいます!大きい的から小さい的を当てるテストでーす」


セイラムが指を刺す方向には五つの大きさが違う的が用意されていた。

なるほど、ただ闇雲に魔法を打つだけでは駄目そうだ。


「魔法はそうだなぁ、簡単に『炎玉フレガ』でいいよ」

「助かります」

「まずは一番簡単な的から打ち抜いてみせて」


腕に魔力を込める。

ボーリング玉位の大きさの炎の玉を手の平の上に生み出す。

狙いを定めて、木の的に向けて射出する。

放たれた炎の玉は的のど真ん中を正確に打ち抜いてみた。


「うん!威力、精密性、速度、全部合格。因みにどれか一つでも条件を満たしてないと魔法は弾かれるからね」

「了解です!」


簡単そうに見えて難易度が高いテストだ。

次の的にさっきと同じ魔力を込めた炎の玉を放つ。

しかし、今度は的を打ち抜くことが出来ずに炎の玉は空高く弾かれる。

よし、大体理解した。

今度は、さっきの2倍程の魔力を込める。

大きさや見た目は同じだが、魔力密度が違う。

的を狙って、放つ。

的に命中し、火柱が上がる。


「合格!どんどん行こう〜」


それから次々と的を的確に打ち抜いていく。

地味な魔法のテストだが、やっている本人から言わせて貰うと無茶苦茶に難しい。

綿密な魔力操作にはそれに伴う莫大な集中力と精神力が必要になる。

小さな炎の玉に魔力を込めて魔法を大きくする事は簡単だ。

だが、そのままの形を保ちながら魔力の質を調整するのは至難の業だ。

集中力や精神力が少しでも欠けてしまうと、魔法が暴走してしまうリスクもある。

魔法と言うのは意外にもピーキーな技術である。

ゲームの世界では簡単に魔法が撃てたが…実際の異世界だとそれは非常に難しい技術なのだと理解できる。

自分の知り尽くしているゲームの知識を過信しすぎると足元を掬われる。


いよいよ、的は残り二つ。

先程よりも意識を集中する。

赤い炎の玉に少しずつ地道に魔力を流し込む。

徐々に揺らぐ炎の色が変化してくる。

炎の玉を保っている腕や顔が暑くなり汗が流れてくる。

そして、ようやく炎の色が美しい青へと変化した。


「ーー『炎玉フレガ』」


四つ目の的に命中。

これまでよりも大きく炎が燃え、火柱が上がる。

的が黒焦げになった。

成功。

練習した甲斐があった。


「うん、文句なし!いや〜、流石はあーしの自慢の生徒!第一回目のテストはこれで合格かな!次は魔物を相手に魔法で戦う訓練も予定しているからね」

「あのー、先生」

「どうしたの?」

「まだ的が残ってますよ」


最後の一つ。

その的はこれまでと違い、鉄らしき素材で作られている。

これも撃ち抜くとばかり思っていたのだが…


「ん?これは予備というか、あーしが間違えて持ってきた奴だから気にしなくていいよ〜」

「先生は確か、炎はどれだけ魔力を込めても青にしかならないと言いましたよね?」

「うん」

「なら、その先があると言ったらどうします?」


その言葉に、セイラムの顔色が変わる。

少し不満そうな表情だ。

でも、当然だ。

彼女は魔法のエキスパートであり生みの親。

そんな自分ですら知らない魔法の先をこんな小僧が知っていると豪語するのだ。

自分なら不快に思ってしまう。


「へぇ?面白そうじゃん?」

「今からあの的で見せて上げますよ」

「そこまで言うならやってみてよ」


原作知識を存分に使わせて貰う。

これは【スター・ウォーリアーズ】をプレイしている殆どのプレイヤーすら知る人が少ない裏技。

ある特定の属性魔法に隠された秘密。

炎属性は魔法のレベルを上げる事で赤焔から蒼炎へと進化する。

が、実は蒼炎の更なる上がある。

それを今から見せてやろう。

まずは、蒼炎に最大限界値まで魔力を流し込む。


「ちょっ!?それ以上魔力を流したら爆発するよ!?」


確かに、その思考に至るのも理解できる。

と言うかこの状況を普通の魔法使いが見たら一人残らずそう言うだろう。

でも、それは違う。

俺だけが違うと、知っている。

そう、

一周目をクリアした後に解放されるとあるコードを入力するとそれが顕現する。

蒼炎が最大限界値に到達する寸前に至ったタイミングで、俺は言葉を紡ぐ。


「ーー魔力装填」


巨大な蒼炎が空高く火柱を上げる。

刹那ーー蒼炎が漆黒の焔へと姿を変えた。

これこそが、"黒焔"。

紅き炎。

蒼き焔。

そして、黒き焱。

凡ゆる悉くを焼き尽くし。

万物を塵芥に帰す。

闇属性魔法と炎属性魔法が混合した特殊な魔法。

ゲームではある最強の裏ボスが使用していた恐ろしく強力な魔法だ。



「う、そ…」


セイラムは、目の前の状況に理解が出来ず固まっている。


「それは、なに?」

「これがその先の炎…黒焔です」

「初めて、みた…私ですら知らないよ?」

「驚くのはまだまだ早いですよ!」


黒焔を的に放つ。

的は黒い炎の渦に飲み込まれ、一瞬にして消し炭になる。


「驚いた…魔法のテストは合格、満点以上」


先生は凄く満足そうにそう言った。

本格的に魔法を極める為の訓練も始まった。

ニグラスの五大元素の適正は『風』・『土』・『炎』・『水』の四つ。


「普通、魔法の適正は一人に一つ。稀に二つ。そして、三つは片手で数えるほど、そして四つは…私の知る限り、君だけ…五つは私…そして君は更に、『闇』にも適正がある」


全てを伸ばすのではなく、特に適正が秀でた『土』・『炎』・『闇』を中心に魔法の訓練が始まった。

いつものように闇雲に魔力を放出するだけでなく、セイラム先生が用意した魔物を相手に魔法だけで戦うという訓練も行なっている。


剣術もまたスパルダ師匠との打ち合いだけでなく、魔物などを相手取った鍛錬や盗賊団などを襲撃し対人戦の訓練をやっている。

なるべく殺さず、ただ躊躇いなく手足を斬り落とす。


一年と少しの鍛錬でステータスやレベルも信じられない程に伸びた。


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ニグラス・シュブーリナ (13)

レベル:20

種族:ーー

耐久:D(220)→C(404)

筋力:D(215)→D(380)

敏捷:D(250)→D(390)

魔力:E(105)→C(403)

固有スキル:淫乱、努力LV 5、剣術LV 4(上級)、魔力操作LV3、身体強化LV3、気配察知LV2、疾駆LV2、根性LV3

魔法:火魔法LV3・水魔法LV1・土魔法LV3・風魔法LV2・闇魔法LV2


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初めの頃と比べると凄まじい成長を遂げた。

スキルもかなり増えた。

というか増えすぎ。

現時点で原作はまだ始まっていない。

原作開始時点の主人公のレベルは覚醒前で5、頑張れば10だった。


だがまだ安心は出来ない。

此処からがスター・ウォーリアーズが鬼畜と言われる所以。

レベルが20に到達すると、ステータスの伸びやレベルの伸びが極端に長くなる。

この世界がどう言う仕組みか分からないが、少なくとも災厄級の世界では20から上にレベルを上げるのは相当に苦労した。

確かに、レベル15に到達したあたりからレベルやステータスの伸びが悪くなった。

学園編開始まであと一年と少し。

ニグラスは母親のコネで一年早く入学試験を受ける事になっている。

あと一年、もっと強くなる。


朝も。

昼も。

夜も。

寝る間を惜しんで剣を振い、魔法を高める。

物陰から恐ろしい獣のような視線を感じながら、なるべく気にしないように頑張る。


「頑張るぞ」

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