玩具博物館の修繕が落ち着いて久々の休日。
俺は
紗夜はいつものぽんぽこタヌキ着ぐるみパジャマ姿に1階食料品売り場で売っていた2リットルのポカコーラを持っている。
一方の
毎度のことながら、彼女はいったいどこでこんな変なTシャツを買ってくるんだか。
満生さんは、「絶対にPANYのプレイターミナル5や、ゲームのグラフィックが違うねん」と言うし、紗夜は「ワシはせんがんどー・ちぇんじ二で子供達と一緒になって遊ぶのじゃ」とどっちも譲らない。
だからと言って二つ買う訳にもいかない……勝負の結果、紗夜の欲しがっていたセンガンドー・チェンジ2を買うことに決まった。
しかし、紗夜……ゲームは初めてそれほど時間経っていないのに、天性の才能というべきか天才的反射神経というべきか、満生さん相手にクラッシュシスターズで見事に勝利していたよな。
スーパーハリオのヒロイン プリンセス・プリンを使い、メタライドのサラス使いの満生さんを見事に圧勝していたからなー。
……まあ、ちょっとズルと言えばズルだが、空飛ぶ傘を使い落下を避けながら遠距離攻撃させずに接近戦でずっと小攻撃で追い詰めるのはまあ、あまりやられたくない。
母さんがジュースとお菓子を持ってきてくれて、「あら懐かしいわね。昔、ファミリードライブとゲームボーヤをお父さんに買ってもらったの」と笑っていた。
そのヒロインが今じゃ声付き3Dで動いてるんだから、時代ってすごい。
スーパーハリオって、母さんの子ども時代のゲームだろ? それが今じゃ声優付きの3Dキャラで動いてるなんて、当時の子どもには想像もできなかったはずだ。
まあ、約束通り紗夜にゲーム機を買ってやる事になったので、俺達はデッカカメラ四階の玩具・ゲーム売り場にやってきたというとこだ。
玩具博物館の完全リフォームが紀國市からの依頼として仕事で請け負ったものになったので、臨時収入で紗夜か満生さんにゲーム機を買ってやる事になったんだよな。
で、紗夜が勝ったからセンガンドー・チェンジ2を買うという話になった。
……しかし、四階に到着したら何だか満生さんがちょっと神妙な顔をして不吉なことを言っている。
「ここ、何か焦げ臭いわ。せやな、運気が……最悪というより、大凶や。ここ、あまり長いことおらん方がええで」
「ふむ、何やら焦げ臭さだけでなく獣臭さも感じるのじゃ、コレは……まるで馬糞のような臭いじゃな」
そういう俺も、なんだか床に焦げ跡が見えたり、玩具の中に煤けて黒くなったものがあるように感じた。
焦げた匂いに、微かに混じる獣のような臭気――本来なら、こんな匂いは漂うはずがない。
もしかすると、ここには“何か”があるんじゃないか。
そう思ったとたん、背筋に冷たいものが走った。
「お母さん、お母さーん、どこ? 一人は寂しいようぅ……」
かすれた子供の声が、どこか遠くから聞こえてきた。誰かの録音か? いや、そんな音源があるはずがない。
……あらら、どうやら迷子がいるみたいだ。仕方ない、探してあげようか。
そう思って足を踏み出しかけたその瞬間、ハッとした。
――誰も、いない。
耳を澄ませば、聞こえてくるのはいつもの大型量販店の賑わい。親子連れの笑い声、子供のはしゃぐ声、店内放送が流れる中で、あの声はどこにも混ざっていなかった。
……今の声は、いったいどこから?
だが、玩具・ゲームコーナーに行くと先程の不穏な気配を忘れたかのように紗夜と満生さんはゲームを見てはどれを買うかの言い争い。
「すーぱーはりおでらっくすなのじゃ! なんせ、でらっくすじゃぞ、でらっくす、それだけ豪華なんじゃ」
「何言っとるねん、ここは虎が如くやろ、なんせ関西怒涛変やで。ここで猛虎魂燃やさんでどーすんねん。これこそ浪漫やで、そう、男の浪漫やろ」
「何を言っておるか、おぬしは
「なななん、何やてー、このぽぽぽん姫!!」
まあ、一応ゲームソフトは何か一つとは言ったけど、個人で一つずつだから張り合う必要ないんだけどな……でも周りも面白がってこの二人の言い争いを見ているから、そろそろ収集つけないと。
「わ、わかったから。二人とも少し落ち着こうよ。そうだ、向こうにマッサージソファーがあるからちょっと行ってみよう」
――だが、その選択が大きな間違いだったと気が付いたのはこの後だった。
四階の玩具・ゲームコーナーから奥に進むと、そこは電気の薄暗い寝具・家具型家電コーナーだった。
電気の薄暗いのは寝具コーナーを意識しているからなのだろうか。
そこに置かれたマッサージソファーの場所には誰もいなかった。
「なんか……動いてる?」
「フェッフェッフェ、お客さン、最新の寝具型ソファ、どうぞお試しくださイ」
あれ? 店員さんいたの。
しかしこの店員のお婆さん、何故か家電量販店デッカカメラの店員とは違った昔のデパートの店員さんのような制服を着ている。
この人、どこかの店から派遣でやってきた人なのかな?
「申し遅れましタ、ワシ……いヤ、わたシハ、店員ノ、ウチトと申しまス。ウチト婆とお呼びくださイ」
でも、このお婆さんの店員さん、なんか不気味さを感じるな。
ぽつんと並んだ2台の黒いリクライニングシートは、まるで俺たちを待っていたかのようにぬめっと光っていた。
見た目は電源が入っていないように見えるのに、ほんのわずかに震えていた。
「ふむ、まあ、たまにはこういう文明の利器とやらを体験するのも悪くないのじゃ……って、うわぁ!?」
ソファーに腰かけた紗夜が、突如としてそのまま倒れ込むように眠ってしまった。
「ちょ、紗夜!? ……うわっ、俺も……なんだこれ……重……っ……!」
どうなっているんだ? 俺はいきなりマッサージソファに引き寄せられるように座ってしまい、気持ちよさにそのまま眠り込んでしまった……。
満生さんもその横にあったベッドに座り込み、そのまま寝てしまったようだ……。
――ん? なんだ??
俺は、パチパチ……という音を聞いた。
寝ぼけ眼の俺が目を覚ますと――そこは、一面が火の海になっていた!?
「うわぁああ!! 火事、火事だぁぁぁあ!!」
いったいどうなってるんだ!?
俺達は、何故か火事の寝具売り場で火に囲まれていた。
「うわぁあああん、怖いよぉぉー」
「ママー、ママどこなの……」
「熱い、熱いよ、助けてよおおお!!」
子供達の悲痛な叫び声が聞こえる。
そこにいたのは、先程のお婆さんの店員さんだった。
「フェッフェッフェ……寝具売り場へようこそ……お客様、快適な眠りの先にあるものを、ご覧いただきましょウ」
何だって!? 目の前のお婆さんはにこやかに笑いながら目を細め、下卑た笑いで俺達を見ていた。
それよりも紗夜、紗夜はどうなってるんだ。
それに満生さんも!
「紗夜、紗夜は無事なのか!!」
「な、何じゃワシは後三刻は寝たいのじゃ、ワシを起こすでない……」
「それどころじゃない! 辺りが火事なんだ!!」
「な、何じゃと!」
流石に火事と聞いたら寝坊助の紗夜も一瞬で目が覚めたようだ、そこは流石戦国時代を生き抜いた姫君というべきか。
「タクミ、いったいどうなっておるのじゃ? ワシらはなぜこんな場所におるんじゃ」
「フェッフェッフェ、貴様ラはナ、このワシ、
なんと、俺達は老婆の姿をした怪異によって、燃え盛る悪夢の中に閉じ込められてしまったようだ。