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怪異11 VSエクソシスト!?下総霊園

怪異11 霊能者VSエクソシスト!? 下総霊園編 1

「な、なにを……!? あ、あれは一体――」


 幹部「電魔」が悲鳴を上げるも遅かった。

 饕餮とうてつが舌のような触腕で黒服たちを一掃。

 跳ね飛ばされた彼らは、地面に叩きつけられると同時に魂ごと吸い出され、次々と饕餮の口の中へ消えていく。


 九人の幹部、「老師」「凶滅」「麗華」「武神」「師夫」「児買」「金王」「薬毒」「電魔」らが震えながら叫ぶ。

 リーダー格らしい「白皇」は冷静を気取ろうとしているが、明らかに焦っていた。


「待て、我らは国家の裏の……!」

「まだ交渉の余地が!」

「我が一族は千年の……!」


 饕餮は聞かない。

 全員を吸い込み――一瞬の沈黙の後、盛大に嘔吐した。


「オ、オエェェ……マズッッ!! クサッ! タマシイ、クサッテル!!!」


 船が揺れるほどの勢いで咳き込む饕餮。

 そのまま魂の残骸を撒き散らし、ついにはぐったりと横たわる。


「ウグェェェェ、オゲロェェェェエッ!!」


 それだけ吐き捨てて、饕餮は霧散した。

 船には静寂が戻り、ただ嗚咽する少女たちの声が残った。


「……ま、魂すら喰ってもらえん連中やったな」


 満生みつきさんが吐き捨てるように言った。


「ワシでもお断りじゃ。タヌキのフンより不味そうじゃしな」


 紗夜さやはぷいっと横を向いた。


 そこに姿を見せたのは、真っ黒なパッカー車と、マスクをつけ、作業着を着た極卒だった。

 彼等は、饕餮が派手に吐いた嘔吐物をかき集め、無言のままで作業を終え、満生さんに挨拶すると去っていった。


「な、何だったんだ、あの連中は!?」

「あー、アレかいな。アレは地獄の極卒や、あーしの呼んだ饕餮がゲロ吐いたんでこのまま残して置いたら現世で災い呼ぶからってすぐに処理しに来たんや」


 なんだそりゃ? と言いたかったが、もうツッコミを入れる気力もない。

 あの凶悪な式神がペットの汚物処理扱いって……。


 まあ、あの九頭蛇(ジウ・トウ・シェー)とか言っていた連中は、饕餮に全て飲み込まれ、完全壊滅したようなので、これ以上インチキ宗教団体に騙される人達は出てこないと信じたいところだ。


 そういえば、あのインチキ宗教団体の霊同会ってどうなったんだろう?


 俺達は霊同会のあった道場に行ってみた。

 すると、そこには黒山の人だかりが……だが、様子は前と違うようだ。


 派手なパフォーマンスをした男が一人、箱の中に入る。

 そしてその箱が派手に爆発し、木っ端みじんにくだけた。

 すると……その後ろから煙を上げながら箱の中に入ったはずの男が姿を見せた。


 見ていた人達は拍手喝采、俺達も思わず拍手してしまった。


「おや、貴方がたは、以前はお世話になりました」

「お世話になった?? いったいどういう事だよ」

「いえ、私たちはあの後改心し、老師の本来の仕事だった手品師を再開することにしたんです。もうあんな霊能者の真似事をしてひどい目に遭うのは懲り懲りです」


 なるほど、俺達がインチキ宗教団体を完膚なきまでに壊滅させたのが本人達の改心のやり直しのきっかけになったって事か。

 まあ、あんなもん騙される方が悪いレベルで、詐欺ともいえないが……この双子の脱出マジックなら誰も傷つかずにむしろ喜んでもらえるからな。


「それで、貴方がたに教えてほしいですが、一体あの立体映像はどうやって作ったんですか? 今後のマジックの参考に是非とも教えてほしいんですが」


 いやいや、アレ本物でしかもガチの霊能力を持ってる満生さんだから出来た事なんで……。


「へー、ええ心がけやん。あのなー、あの方法はなー、プロジェクションマッピングっつーてな」


 満生さん、適当なウソ教えないで下さい。


「そういう形でプロジェクターで立体的な物体に映像が映るようにするこった」


 そう言って満生さんは、どこか得意げに腕を組むと、質問してきた元・霊同会のマジシャンたちの前から、さっさと歩き出した。

 俺は慌てて後を追いながら、思わずツッコミを入れる。


「……いや、それ、ほとんどネットの中学生向けの説明そのまんまじゃないかよ」

「ええやん。あいつら、信じてたし」

「信じてたというか、信じたいだけだろ。『今度は手品で人を楽しませたい』とか言ってたし」


 満生さんは肩をすくめて笑った。


「ウソやのうて方便や。あーしも便利な言葉や思うわ」


 そこまで言って、ふと空を仰ぎ見る。

 風は湿っていて重たく、梅雨の残り香のような匂いがした。

 地獄の門が開き、魂が吐き出され、処理業者がやって来て……そんなバケモノじみた騒動のあとの風景は、どこまでも静かだった。


 元霊同会の道場から戻った俺たちは、久しぶりにツムギリフォームの事務所に顔を出した。

 倉持さんは経理データを前に険しい顔をしていて、俺たちの姿を見るなり、ため息をついた。


「ちょうどよかったわ。あんたたち、今月の請求処理、どこまでやった?」

「えっ? いや……地獄から戻ったばかりなんで」

「そんなのは聞いてない。会社としては今月末の支払いがヤバいって話よ」


 俺は思わず背筋を伸ばす。


「え、でもららもーとの解体あったろ? あれ、契約分だけでも――」

「甘いわね。ららもーとはまだ地盤調査の段階。手つけ金は出てるけど、本格的な工事に入るのは早くて来月。しかも公共絡みだから支払いは月末締めの翌月払い」

「……つまり、今月は金が入らない?」

「そういうこと。ついでに言えば、バリハワイアンセンターの改修も予算下りたばかりで書類作り段階。工事は秋以降よ」


 俺は思わず天を仰いだ。

 霊を祓っても腹は膨れない。いや、少なくとも帳簿は潤わない。


「え、でも、紀國第二小のトイレ改修終わったばかりで……あっちは?」

「あれはちゃんと入る。でも額が小さい上に、あれこれ備品をサービスで入れた分、赤字ぎりぎりよ」


 満生さんが苦笑いを浮かべて口を挟む。


「まあ、何かしらスポットの修繕でも引き受けとかな食いっぱぐれるわな。便利屋か霊能者か分からんけど、背に腹は代えられん」


 倉持さんが手元の資料をポンと叩く。


「ちょうどひとつあるわ。築古アパートの修繕依頼。軽い雨漏りの対応だけど、最初に入った業者が現場で倒れかけて逃げ出したって」


 俺と満生さんは顔を見合わせた。


「まーた……そっち系か?」


「普通の水漏れちゃうやろな……嫌な予感しかしないわ」


 帳簿と現場のあいだで、またひとつ、得体の知れない“スポット仕事”が動き出す。


 そして、俺達は問題のアパートに向かった。

 隙間風の吹くような部屋、これはかなり生活に困窮した上での無理心中といったところか。

 なんだか良い雰囲気は無いな。


 俺、紗夜、満生さんの三人はアパートの錆びた階段を上った。

 すると、そこにあったのはこじんまりとした六畳一間、トイレ共同、台所は電気コンロ一つといったいかにも貧困層向けの安アパートだった。


「あーしのいた鬼哭館でももうちょっとマシやったで」

「これは、かなり追い詰められた様子じゃのう、まるで兵糧攻めにでもあったような状態じゃ」


 幼児の玩具が転がる以外は、ほとんど何もない部屋だった。

 多分お母さんは自分の生活を切り詰めてでも子供の為に金を使おうとしていたのだろうか。


「まあええわ、とりあえず本人から話聞くで、ちょっと待っててや」


 そういうと、満生さんは呪文を唱え、俺達にも可視化できるようにこの部屋にいる霊を呼び出した。


 線は細いが美人といった人だったが、いかにも幸が薄そうなお母さん、そしてそのお母さんに抱えられた幼児が姿を見せた。


「あなたがたは、わたしの声が、聞こえるのですか?」

「ママ……ママ……まんま、まんま」


 とりあえず、このお母さんに話を聞いてみる事にしよう。


「あんた、旦那さんはおらへんのか?」

「はい、以前はいたんですが……最近は全く帰ってこず、お金も全くくれなくなったんです」

「なんや、複雑な事情がありそうやな……」


 俺達がお母さんに聞いた話は、全員のはらわたが煮えくり返るような話だった。

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