目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

怪異11 霊能者VSエクソシスト!? 下総霊園編 2

 俺達の聞いた話は、ドロドロの昼ドラマかよ! と言いたくなるような凄惨なものだった。


 どうやらこのお母さんは、元々会社員の旦那さんと普通の新婚生活をしていたそうだ。


 だが、彼の上司がある日いきなり旦那さんを呼びつけたのが不幸の始まりだった。


「……あの人が、飲酒運転なんて、するはずないんです……。あの夜、電話が鳴って……“迎えに来てくれ”って、泣いていたんです。だけど……もう、もう遅かった……」

「でもアンタの旦那のそれは“飲酒事故”として処理されたのやろ?」

「ええ……誰も、疑わなかった……。そして、今の夫は……私のお腹に命が宿っていると知ったとたん、他の女と消えたんです。『もう邪魔なんだよ、お前も腹の子も』って……」


 これを聞いた紗夜さやがブチ切れた。


「なんじゃ……伴侶を捨てて男としての責任すら取らぬとは! クズの極みなのじゃ!!」

「でも……でも、私は、生きていなきゃいけなかったのに。この子だけは、守らなきゃって……それだけが……それだけが……」

「まんま……まんま……おそと、いこ……?」


 これ、間違いなく裏でその元上司が彼女を手に入れるために元の旦那を陥れた形だよな。

 こういう話はやはり、あの南郷徳のニューハーフママ薫さんに聞くのが一番良さそうだ。


 俺は幽霊のお母さんから、今の旦那の名前を聞こうとした。

 すると、引き出しの中に名刺があるからそれを持って行ってくれという話だった。


 俺は引き出しの中に入っていた名刺を手に取った。

 そこには、今の旦那の名前と会社名が書かれていた。


「よし、これで薫さんのところに行こう」


 俺達は早速、南郷徳の薫さんが経営するニューハーフバー・knock outへ向かった。


 薫さんは事情を聞くや否や、眉をひそめて深いため息をついた。


「ひどい話ね、そんな話があったの。確かにあの交差点は数年に一度は死亡事故も起こってるけど、まさか飲酒を上司に強要されたってね……。そうそう、あの男、表向きは普通のサラリーマンだけど裏の顔は真っ黒よ。保険金詐欺はもちろん、数人の女の財産も根こそぎ奪い取って、愛人と豪遊してるって噂よ」


満生みつきさんが顔を真っ赤にして怒りをあらわにする。


「そいつ、絶対に許したらあかんやつや……生きてる限り人を不幸にするだけの奴や」


 薫さんは言った。


「アンタ達。正義感だけで動くのはやめておくのね。でも、もし何か必要なものがあるなら、アタシが調達してあげるから……カタギさんはあまり危ない橋は渡らない事ね」


 流石は薫さんというか、確かに俺達が下手に裏工作したら犯罪だとバレてしまう。

 その点裏の世界に精通した彼女なら、確かに裏ルートで人に言えないようなものも調達できそうだ。


「例えばやけど、ブレーキの壊れた車とか、用意できるのん?」

「余裕よ、廃車寸前ので良ければ捨てる程」


 いやいや、満生さん何をしようというの? それにサラッと返す薫さんもタダモノじゃないけど。


 まあとにかく次の標的は、あの不幸な奥さんの今の旦那と愛人だ。

 これは人の力を超えた何かでやらないと、簡単に足が付きそうだな。


 満生さんが真剣な表情で、ブレーキの壊れた車の話をすると、紗夜がぽつりと呟いた。


「ほほう、車とな。ではワシは牛でも用意すればよいのかのう」


 満生さんが一瞬キョトンとしてから、苦笑い。


「アホか、どこの世界に牛に引っ張られる自動車があるねん!」


 しかし、そのボケに紗夜が気づかない。


「え? そ、それだ!! それなら絶対に俺達の仕業とバレないぞ!」


 紗夜の言葉に、俺と満生さんは顔を見合わせる。


「確かに……霊の牛なら現実の物理法則に縛られんし、目撃証言もごまかせるかもしれんな」


 満生さんが決意を込めて言う。


「せやな、飲酒運転でブレーキ壊れた車を引っ張るのが牛の霊、これで完璧や!」

「そやつら、山に突っ込ませるか? それとも海に突き落とすか?」

「山は追突したら見た目もグロいし、海の方が逃げられないから海でいいんじゃないのか」


 酒の勢いとはいえ、俺達は普段言わないようなとんでもない作戦を立てていた。

 薫さんはあえて見て見ぬふりをしてくれているようだ、まあ、社会正義というよりはあの報われない母子を助けてあげたいってのが本音なんだけどな。


 こうして、紗夜の天然ボケから生まれた作戦は形を成していくのだった。


 薫さんの情報でこの二人は高表市の高級ホテルにいつも入り浸っているのが判明した。

 そこで薫さんに調達してもらった廃車寸前のボロ車を鍵をつけっぱなしにしたまま、あえてこのクズ男と愛人の乗ってきた高級外車の横に置き、外車は満生さんの式神と紗夜の骸骨武者によって粉々のスクラップにしてもらった。


 二人ともよほど鬱憤溜まっていたんだな、車を壊させる時とてもいい笑顔してた。


 そして俺達はクズ二人が出てくるのを見計らい、陰に隠れた。


「な、なんだこれは? オレの車が粉々になってるぞ」

「どーするのよ、ワタシ、タクシーなんかで帰るなんてダサいことしたくないんだけど」


 その横にあった廃車は一応高級外車のオープンタイプのクラシックカー、それも骨とう品レベルのものだ。

 だが、おあつらえ向きに鍵はつけっぱなしになってる。


「ねえ、この車持ってかない? 持ち主がバカで鍵つけっぱなしのままよ」

「そうだな、それにこれだとクラシックカーとして売れば結構な金額になりそうだよな」


 ハイ罠にかかりました。

 倫理感の無い二人は当然のように高級ぽく見えた鍵がつけっぱなしのクラシックカーを奪い、そのままホテルを後にした。


 俺達は車を遠隔で追跡していた。もちろん、あの車には満生さんが仕込んだ式符が貼られていて、走行中に異常な音を立てるよう細工してある。

 そして――海辺の崖沿いに差し掛かったその時。


「ん? なんだ、この音……?」

「いやああああ! 車体がきしんでる、なにかおかしいってば!」


 その時、突如として霧が立ち込めた。

 夜の海辺に、重々しい足音が響く。


 ゴトン……ゴトン……

 そして、霧の向こうから姿を現したのは、全身骨だけになった二頭の牛――

 目は赤く燃え、鼻息は蒸気のように地を這っていた。


 車の前に、重厚な鎖と縄がいつの間にか絡みついている。


「う、うわ……なんだ、こりゃ……? 動けないぞ、ハンドルもブレーキも効かねえっ!」


 クズ男が叫ぶも虚しく、車は霊牛に引かれ、ゆっくりと海岸沿いの斜面を下っていく。

 愛人が泣き叫ぶ。


「やめて、いやああ! これ夢でしょ!? 誰か助けて!」


 ガス欠でもないのに動けなくなった車。

 その周りは骸骨の鎧武者が囲んでいた。


 ありえない光景にクズ男と愛人は戦慄に慄く。

 だがこのクラシックカー、当然のように屋根が無いので侵入を止めることは出来ず、武者霊が酒瓶を手にクズ男と愛人を羽交い絞めにし、酒を強引に口に注ぎ込んだ。


 紗夜が、幽霊の酒盛り隊――かつての武者霊たちを召喚する。彼らは楽しげに笑いながら、魔酒を車内に強制流し込み、クズ男と愛人の口に無理やり注ぎ込んでいく。


「おら、あん時の飲酒運転! 人に強制されて酒を飲まされる気分はどんなもんや」

「おぬしらの行先は無間地獄じゃ、牛に引かれて地獄参りと行くがよいわ!」


 紗夜と満生さんがビシッと決めると、車は骨の牛に引かれ、全速力で海に向かって一直線に――!


 ――ドボォォン!!!


 豪快な水しぶきが夜の海に散った。

 車もろとも、二人は海底へと沈み、後に残ったのは泡と静寂だけ。


 そして、海に沈んだ車が浮き上がってくることは二度となかった。


 次の日、ニュースで海に転落した盗品のクラシックカーから男女の遺体が発見されたというニュースがテレビで流れてきたが、ブレーキ痕も見当たらず犯人も分からないと言う話だった。

 まあ、因果応報、自業自得だな。


 そして、あの母子のいたボロアパートに行った俺達は、俺達の仕業とは言わずに元旦那が車で海に転落して死亡した事を伝えた。

 すると、奥さんはその話を聞き、少しほっとした様子だった。


 今日の満生さんのTシャツには、あったか家族、と書かれている。


「せや。アンタら……もうここいる必要あらへんで、あーしが連れてったるから」


 そう言って俺達は歩いて奥さんの元旦那が事故死したという交差点に向かった。


「今会わせたるから、ちょっと待っとり」


 満生さんが呪文を唱えると、優しそうなスーツ姿の男性が姿を現した。

 どうやらこの人が元旦那みたいだな。


「あなた、あなたなのね……」

「お前、どうしてここに……?」


 満生さんが奥さんと子供が亡くなっている事、そして彼を陥れた元上司が海で転落死した話を伝えた。

 すると、彼は奥さんと子供に向かい合い、親子がようやく一緒になれたようだ。


「そうだ、子供が生まれたら一緒に高表市の東城ドリームランドに行こうって言ってたんだよな」

「ええ、この子と三人で……」

「まんま。ぱぱ……」


 そして、三人は親子で手をつなぎながら、テーマパークのある方に向かって歩いて消えていった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?