目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

SS―6.鑑定士のお仕事1

俊則と結ばれて私も力を増した後。

レギウスさんと俊則の訓練が終わった数日後、私は自室でかつてメモをしておいたシナリオを見かえしていた。

どうしてもゲームの世界なのにそういう事、いわゆるイベントが起きないことに私は少し不安を感じていたからだ。


攻略対象が15人いて、あの事件で確かに7人は脱落した。

ゲームの時間軸だとまだ新たなイベントは起こらないはずだし、そもそも主人公であるミリー嬢、絵美里は今私たちの大切な仲間で俊則大好きな女の子だ。

何よりもう他人じゃないような関係だしね。

思い出して思わず顔が赤くなる。


だから絵美里がいきなり誰かを攻略する事などあり得ない。


でも確かこの国の政治的背景でいろいろな事件が起こって、それに絡んで糞みたいな物語は進んでいたはず。


「うーん。確かアルライダ辺境伯の領地で伝染病が発生したはずよね。しかも人為的に。……それをなぜか不思議パワーでミリー嬢が解決し、そこに派遣された聖教会のギルビル司祭と恋に落ちる」


私は腕を組み部屋の中を歩き回る。


「ん?……伝染病?…なんだろ。何か引っかかるね」


病気自体はこの世界にもある植物を精製することで押さえられる物だったはずだ。

確か……!?スベリヒユ(五行草)だ。


昔日本で見た漢方の本に載っていた。

そして病気は……細菌性の胃腸炎?……いや、たぶん赤痢。


思い出した。

あの周りの不衛生な村。


糞尿を処理せずに放置していたバカな領主ルグムナ子爵。

第2王子派の中堅貴族だった彼は、逆恨みで第一王子派の辺境伯に嫌がらせを考えたんだ。


昔から糞尿を放置すると多くの人が高熱と下痢に苦しむことを知っていたルグムナ子爵はわざと貧しい村でお金を与えてまで放置させた。

そして大量発生する赤痢。


発症した人々を辺境伯領へと送り込む計画だったはず。


私はちらりとカレンダーもどきを確認する。


「うわっ、もう時間ないじゃん。確か……うん、そうだ来月には病気が蔓延するはずだ。なら対策を立てないとね」


「まずは薬、いや、環境を整えればそもそも病気は発症しない。王様に頼ろうかしら」


私は部屋を飛び出しお父様の執務室を目指した。


「あれ、舞奈どうしたの?……怖い顔してる。何かあった?」

「あ、俊則。もう訓練終わったの」

「うん。……舞奈?俺を頼って。……力になりたい」


優しいまなざしを向けてくれる俊則。

もう、この男、カッコよすぎか!


「うん。あのね……」


※※※※※


俊則覚醒したせいかもしれないけど……

うん、チートだわ。


今私と俊則はルグムナ子爵の治めている辺境の村「グッダ村」に転移して来ていた。

もちろんお父様ともしっかり相談して、王様からもいくつかの権利を預かってきていた。


到着した瞬間に漂う酷い匂いに、思わず二人蹲っちゃったくらい、大変なことになっていた。


「うわっ、くさっ!……広域浄化!!」


覚醒した勇者の固有スキル『浄化』

今の魔力量の多い俊則にかかれば村中の浄化は朝飯前だ。


一瞬で村中の嫌な臭いは消え去った。

でもまだ糞尿はそのままなので、国王様より預かった勅命書を村長に見せて、早急に対策してもらう事にした。

領主よりも当然国王の方が権力がある。


「舞奈、何この村。ちょっと酷いよね」

「うん。これってシナリオなんだよね」

「そうなの?……えっ、じゃあ絵美里ちゃんと関係ある感じ?」

「放って置くとそうかな。でも私が介入しちゃったから絵美里には関係なくなると思うよ?俊則だって絵美里が違う男と仲良くなるの嫌でしょ?」

「う、うん」


あの日4人でそういう事しちゃったから俊則今、絵美里のことスッゴク好きなんだよね。

ちょっと複雑。


でもこれで良いよね。


そんなことを思っていたら俊則がなんかキョロキョロとあたりを見始めた。

そしておもむろにオーラを纏い始める。


「っ!?」

「舞奈、俺の後ろに。……魔物?」


どうやらここを治めるルグムナ子爵は相当性悪のようだ。

何と糞尿を除去すると、魔物が出てくるトラップまで仕掛けていた。


「もしかして……悪い神の影響なのかな」


魔物を引き裂く俊則を見ながら私は独り言ちていた。


※※※※※


「こ、これはこれは、侯爵令嬢様と勇者様、こ、このような汚い場所へ、先ぶれもなく訪れるとは……」


私と俊則は今ルグムナ子爵の屋敷に直接訪れていた。

村の人たちは魔物の事何も知らなかったんだよね。

なのでケリをつけるため私たちが直接来たってわけ。


ああ、俊則の勇者就任はすでに全国にお触れが出ています。

何気に宰相様仕事早いのよね。


完全に招かざる客状態の私たちに対し各下なのに礼儀の成っていないルグムナ子爵にイラついた私はわざと高圧的な態度で対応した。


「ふう、わたくし今頭に来ているの。くだらない話は良いわ…『鑑定』」

「な、なにを?」


うわー、この人真っ黒じゃん。

ひくわー。

ふうん、あの侯爵家とつながっているとはね。

殺人に婦女暴行までしてるとか……

しかも幼女趣味!?


殺してもいいかな?


私の殺気に反応した俊則が私をそっと抱き寄せてくれた。

一瞬黒く染まった私の心が浄化されていく。


「舞奈?俺に任せて。……ルグムナ子爵、あなたに国家反逆罪の嫌疑が掛けられています。おとなしく連行されるならそれでよし。もし抵抗するのなら……武力行使を行います」


顔を青ざめさせる子爵。

そうよね。

国家反逆罪は一族郎党縛り首だ。


「くっ、こ、これはおかしなことを。私はそのような恐れ多いことなど……」

「ゴッズワイ侯爵様と仲がよろしいようで……ふうん。辺境伯様がお嫌いなのかしら?まあ、麻薬である大麻草の横流しも!?……メイルーダ婦人、それから薬屋のオズイト、まだ8歳のオルナーちゃん。……何か言う事ありまして?」

「っ!?な、なぜ、それを……くそっ、コイツら2人だけだ、おいっ、皆、コイツらを始末しろ!!」


バカなのかな。

普通の人間が俊則にかなうわけないでしょ?


本当にあっという間に制圧し、子爵の屋敷から大量の証拠を押さえました。

もちろん鑑定で隠し場所とか丸わかりなので。

うん、本当にあっという間だったな。


でも新たな懸念も生まれたのよね。

シナリオ、生きてるじゃないの!


どうやらこの腐った世界は私が想うより数段陰険だったようだ。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?