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SS―18.俊則の実力と改心する3馬鹿の二人

最初はちょっと緊張したけどドレスト侯爵様との会食は和やかな雰囲気で大きな問題もなく進んでいた。


けっこう侯爵様おちゃめな人で、冗談とも本気ともとられる内容にびっくりもさせられたけど。


うん。

侯爵様のご子息。


エリス嬢のお兄様であるラドリック様と私を結婚させたかったと言われたときには思わずワインを噴き出しそうになっちゃったし。


その時の俊則の顔。

ああ、私本当に彼に愛されているって実感したのよね。


「侯爵様、お戯れを。まい、いえ、ロナリア嬢は私の大切な女性です。絶対誰にも渡さない」


そう言って私の手を握り締め、怖い顔で侯爵様を睨み付ける。

余りの怒気にちょっと怖かったけど。


「す、すまぬな。今はそのような事、思ってはおらん。……怒りを治めてはくれぬか?」

「……はい。申し訳ありません」

「ははっ。ロナリア嬢、愛されておるな。うむ。やはりシュラド様は最近の若い者とは大きく違うな。アントニオがそなたに傾倒するわけだ」


そう。

そこで出た3馬鹿の一人アントニオの名前。

私は知らなかったけど、俊則はルルとのデートの時、どうやら彼と会ってなぜか彼の心の闇を浄化したみたいなのよね。


まったく。

相変わらずの優しく、そして人たらしだ。



※※※※※



食後の紅茶を頂き、まったりと過ごす私たち4人。

そんな中侯爵様が目を煌めかせ俊則に問いかけた。


「シュラド様、先ほども少し触れたが、実は折り入って君に頼みたいことがあるのだ」

「はい。なんでしょう」

「うむ。アントニオはどうやらシュラド様に触れたおかげで、以前の好ましい青年へとその態度から性根まで、すべてを取り戻した。……だが相変わらずロローニとエスペリオがな。彼らはきっとかの邪神に心を囚われておる。私が監視を引き受けたが一向によくなる気配がない。どうかシュラド様、今一度そなたの力、貸しては頂けまいか?」


真剣な表情の侯爵。

そう、彼らはこのゲームで重要な役割を持つキャラクター。

まあ主に犯罪方面なのだけれどね。

特に女性関係。


今は侯爵様が押さえてくれていて問題は起こしてないけど、いつまでもこのままという訳にはいかない。


「正直私は良く解っていません。でももし少しでも力になれるのなら喜んでその願い、叶えたいと思います」


まあね。

やさしい俊則のことだ。

頼まれれば断れないよね。


「ちなみに侯爵様?どのようにするのですか?」

「うむ。実はそのためにシュラド様にはそのような格好を指定させてもらったのだ。立ち会ってほしい。ロローニとエスペリオと」

「……立ち合い?ですか?」

「実は私が彼らに告げたのだ。もしお前たちの言う様に、勇者様が偽者だとするのなら、お前たちが証明せよ、と」


流石に聞き捨てならない。

思わず私は会話している二人に割り込んだ。


「……侯爵様?それは越権では?」

「む。すまない。確かに分を超えていよう。だが彼らもすでに3か月以上ここで暮らして居る。そろそろ答えを出す時期なのだ。……申し訳ない」


私は大きくため息をつく。

きっと彼らは間違いなくあの悪神の影響下だ。


それにシナリオは私が壊してしまった。

責任というかけじめはつけたいと思っていた。


「……それ、私じゃダメですか?」

「は?」

「コホン。この国の騒動、それに伴う解決について、私が深くかかわっています。けじめつけたいのです」

「だ、だが……確かにロナリア嬢は強かろう。しかし……」


悩む侯爵様。

そんな中俊則がそっと私の肩に手を置いた。


「ロナ…コホン。舞奈」

「う、うん」

「ダメだよ?それは俺がやる」

「ど、どうして?だって私が…」


突然怖い顔をする俊則。

私はビクリと肩をはねさせる。


「君が強い事、俺が一番よく知っている。でもこれは違うよ?彼らは男。女性の君に分からされてもきっと心に暗いものが残ってしまう。男にはさ、くだらないけど譲れないもの、あるんだ。……だから俺に任せて欲しい」


そして瞳が優しい私をいたわる色を纏う。

心の奥から温かいものがあふれ出してくる。


もう。

どうしてこの男、こんなにかっこいいの?


「う、うん」


そう言うしかないじゃん!

もう♡


「侯爵様、俺はいつでも大丈夫です。庭にある武舞台でいいですか?」

「あ、ああ。お願いいたします」


こうして男たちの立ち合いが始まる。



※※※※※



すでに夜の帳がおり薄暗い侯爵家の広い庭。

そこの武舞台が魔道具の光により闇夜に浮かび上がる。


「シュラド様、お久しぶりです」

「アントニオさん。お元気でしたか」

「ええ。おかげさまで。……シュラド様?」

「うん?」


真っ先に俊則に会いに来たアントニオが何故か言いよどむ。


「…あいつら、根は悪い奴ではないのです。きっと私と同じ、心を暗い闇に囚われている。どうかシュラド様、あの二人、お救い下さい。……幼馴染の大切な友を」

「お任せください。全力で成し遂げます」


そんな中現れる二人。

すでに遠目で見ても彼らから怪しい魔力が吹き上がっていた。


「あなたが勇者を語る愚か者ですか。ふう。良いでしょう。私の魔法でその正体、白日の下にさらしましょう」


なぜか自信たっぷりにのたまうエスペリオ。

彼は魔法省のトップの息子。

確かに彼の纏う魔力、十分重責を張れる強さが見受けられる。

でも…


混ざっている悍ましい魔力。

悪神の物だ。


「……くそっ」


そして後ろからついて来たロローニ。

彼はつい先日俊則にたしなめられたばかりだ。

悔しそうに俯いていた。


武舞台の中央で待つ俊則。

侯爵様が口を開く。


「どちらから行う?すでに勇者様は準備が整っており…っ!?なっ?!!!」


侯爵様が話し始めたその時、いきなりエスペリオが極大魔法であるヘルフレアを俊則めがけ発動、凄まじい熱とともに轟音が鳴り響く。


「ひゃははは!!間抜けめ。くくっ、勇者とて人間。ひとたまりもなかろう」


未だ黒煙がもうもうと沸き上がる武舞台。

見ていたエリス嬢が悲鳴を上げる。


「き、貴様?何という卑怯な真似を」

「うるせえよ。もう我慢できねえ。てめえのせいで俺はこんなしみったれた屋敷に縛りつけられたんだ。勇者を語る偽物は殺した。これで文句ねえだろうが!!」


未だ武舞台に上がってすらいないエスペリオはその顔をいやらしく歪め口にする。

そしてその彼の肩に突然置かれる手。


「ふう。あんな強い魔法、ここで使うかな?…お仕置きが必要なようだね」

「なっ?き、きさ…ひぐうっ?!!」


反論を待たずに放り投げられるエスペリオ。

どうにか立ち上がる目の前にはすでに俊則が待ち受けていた。


「なあっ?!」

「ふうん。これは酷いね……深いところまで侵食してる。……浄化!!」

「ぐうっ?!ギヤアアアアアアアああああああああ――――――」


俊則が手をかざすと、エスペリオの頭から黒いものがまるで悲鳴を上げるがごとく少しずつ浮かび上がっていく。


「ぐうあっ?!や、やめろ……わ、私の力だ…う、奪うなっ!……ひ、ひいいいっ!!」

「違う。それは悪神の力だよ?…君は酷い事をしてきたんだね……ミルリア嬢にノットン嬢、それからまだ幼いミューナムちゃんまで……在り得ないよ。こんなにたくさんの女性を……っ!?」


なぜか冷めた目で淡々と語っていた俊則。

いきなり激昂し、エスペリオの胸ぐらを左腕一本でつかみ上げる。


「お前…絵美里に、ミリーにこんな酷い事をしたのかっ!!……彼女の弱みに付け込んで……許さない。……絶対に!!」


いけない。

大切な絵美里。

きっと過去に彼女はこいつにひどい目にあわされている。


能力が向上している今の俊則はそれが分かってしまったんだ。


「……お前、生きている価値、無いよね」

「ひぐっ?!や、やめ、やめて…くだ、さい……た、たすけ……」


左手でつかみ上げ俊則の右手が覇気を纏う。

ゆっくりと振り上げそして……


「ダメ―――――!!!!」

「っ!?」


わたしは夢中で彼の右手に抱き着いた。

覇気によって切り裂かれるデイドレス。

血しぶきがあたりを染め上げた。


「っ!?ま、舞奈?…うあ、お、俺…」


エスペリオを離し愕然とする俊則。

私はそっと彼を抱きしめた。


「……俊則?」

「…う、うん」

「ふふっ。あなたでも怒るのね」

「……」

「なんか妬けちゃう」

「う、うあ、そ、その」


私は彼を離す。

そして真直ぐに見つめた。


「でもね、絵美里の為に真剣に怒る俊則……私大好きだよ♡」

「っ!?……う、うん。…ああ、君は本当に素敵な女性だね。…もう大丈夫」

「うん」

「舞奈より効果は落ちるけど…『ヒール』…これで大丈夫かな」

「ありがと。さあ、あと一人よ。頑張ってね」

「うん」


蹲るエスペリオからすでにあの黒いものは完全に切り離されていた。

茫然と空を見上げる彼に俊則が笑いかける。


「俺は君を許せない。でもそれは悪神がやったことだろ?どうか償ってほしい」

「は、はい。……ああ、あ、わ、私は…なんてことを……」


悪神の呪いに似た執着。

それを取り払われた今、彼の心は懺悔の気持ちに支配されていた。


「凄まじいな……これが勇者様の力……ロローニ」

「ぐうっ、は、はい」

「貴様も立ち会うといい。シュラド様、かまわぬか」

「ええ。……2日ぶりだね、ロローニさん?さあ、かかってきてください。その性根、叩き直して差し上げます」


「ひ、ヒイイイイイイ―――――――――――」


突然奇声を上げ逃げ出すロローニ。

その目の前に俊則が出現、彼の腕をつかむ。


「逃げないでくださいよ?あの時の貴方の絵美里に対する言葉。俺結構ムカついているんだよね」


にっこりとまるで心が凍るようなおぞましい笑みを張り付ける俊則。

はっきり言ってメチャクチャ怖い。


(うん。俊則普段優しいから……怒らせない様にしよう。うん)


「ひいいっ!?ひぐうっ?!!」

「さあ、騎士団長の息子さん?その力俺に見せてください」

「う、うわああああああああああああああああ――――――――」


恐怖なのか何なのか。

ロロ-ニーはがむしゃらに剣を振り回す。


それにしても俊則。

あなた怒るとけっこう性格悪いのね。


俊則は反撃すらせず最小の動きでただ躱し続ける。

彼の目を見つめながら。



※※※※※



「はあっ、はあっ、はあっ……も、もう、勘弁…し、してください…」


息も絶え絶えに懇願するロローニ。

あれから10分。

一度も当たることなく振り回された剣は、柄を破れた豆からの出血で真っ赤に染まっていた。


「この国を守る騎士団。その団長の威を借りていた君の覚悟は、その程度なのかい?」

「す、すみません…ごめん…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい……」


すすり泣くロローニ。

彼の心はとっくに折れていた。


そんな彼にそっと手をかざす俊則。


「絵美里は、ミリー嬢はもう過去を清算したんだ。今の彼女は俺の大切な人。二度と付きまとわないでくれるかな……浄化!!」

「は、はい……ち、誓います……ぐううっ、ぐあああああああっっっ!!!」


やがて浄化されたロローニ。


こうして3馬鹿はそのすべてが俊則によって浄化、悪神の呪縛から解放された


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