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SS―20 最終話:2人と4人そして私のパラダイス

この世界では珍しい黒髪の二人。

仲睦まじく寄り添い歩くさまに、多くの人たちが温かい視線を向けていた。


「ねえ、俊則、記念に似顔絵書いてもらおうよ」

「うん。いいね。……あれ、でもタブレットでさっき撮ったよね」

「もう。こういうのが良いんじゃん。まったくそういうところ気が効かないよね」

「うあ、ご、ごめん」


言うが早く舞奈は俺の手を引き『似顔絵屋』と書かれている暖簾をくぐる。


「おじさーん。お願いできますか?」

「はいよ。おお、こりゃ珍しい。嬢ちゃんたち旅行かい?」

「ええ。記念に最高の似顔絵が欲しくて」

「ははっ。こりゃ真剣にやらないとな。…彼氏かい?」

「っ!?はい」

「ほほーう。こりゃまた系統はこの国とは違うが良い目をしているね。さあさあ、そこに座ってくれ」


二人より添い座る。

肩に伝わる舞奈の優しいぬくもり。


自然に顔がほころんでくる。

舞奈もうっとりとしている。


メチャクチャ嬉しい。


「はあ。おじさんは他人だけど……全く妬けちゃうね。…新婚旅行かい?」

「うあ、え、えっと」

「はい」

「っ!?と、俊則?!!」


「はっは。そりゃあいい。よし、おじさん渾身の最高傑作描いてやるからな。楽にしていいから動かないでくれよ」


おじさんの筆を動かす音が聞こえる。

そしてそれよりも大きく聞こえる舞奈の鼓動の音。

…多分俺の鼓動の音も混ざっている。


とくんとくんとくん……

ああ、なんて心落ち着く音。


舞奈に対する愛おしい気持ち。

それが拍車をかけていく。


ずっとこうして二人でいたい。

そう俺は思っていたんだ。



※※※※※



「……よしっできたぞっ……あん?どうした?不思議そうな顔をして」


えっ?

もうできたの?

……2~3分しかたってなくない?


俊則もぽかんとしてるし。


「ああ、疲れたのか?悪いな。あんまりモデルが良いもんだからおじさん張り切っちゃってな。もう少しで1時間だ。お詫びに銅貨2枚で良いよ」


1時間?

嘘でしょ?


私は慌てて懐中時計を見てみた。

1時間。

きっかりと過ぎていたんだ。



※※※※※



「なんか不思議な感じするね…大好きな人と一緒だと、本当に時間早いんだね」

「う、うん。私もびっくりしちゃった」


あの後二人は食堂に入り、お昼ご飯を済ませたところだ。


「でももっと不思議なのがお腹だよね。ちゃんとお腹減ってるし」

「あはは。ほんとそれだよね。私こんな大盛りのパスタ、初めて食べたもん」


くるくると表情の変わる可愛らしい舞奈に見とれてしまう。

俺はじっと彼女を見る。


「うあ、も、もう。見つめすぎ……ねえ?」

「うん?」

「……どうして俊則、私のこと好きになってくれたの?」

「え?今更聞く?」

「うん。聞きたい。だって保育園の時から好きになってくれていたんでしょ」

「うん。……あの時の舞奈……はあ、めっちゃ可愛かった」

「っ!?も、もう。……ありがと」


ありふれた会話。


何よりもそれが俺の心をはねさせる。

きっと慣れることなんてない。

もう好きが止まらない。


「俺さ、舞奈は覚えているか分からないけど……小さいとき女の子の服着ていたんだよね」

「女の子の服?……え………ま、まって?……そ、それって……としくん?」

「うん、そうだよ」

「はあああああああああああっっっ!!!!」

「ひうっ?!」


突然立ち上がり大声を上げる舞奈。

お店の他のお客の視線が集中する。


「ちょ、ちょっと舞奈?落ち着いて」

「っ!?ご、ごめん」


顔を赤らめ席に座る舞奈。

やばい。

そんな表情も俺にはたまらない。


そして落ち着いたのか、なぜか俺にジト目を向ける舞奈。

つぶやくように口を開いた。


「……なんで教えてくれなかったの」

「え?」

「だから、何で俊則、小さいときに『としくん』って呼ばれていた事、教えてくれなかったの?」


んん?

どう言う事?


「ごめん舞奈?えっと俺、言ってなかったっけ?」

「言ってない!!もう……はあ、やっぱり私たち、絶対運命よね」


不貞腐れたようにときめくワードを口にする目の前の愛する人。

シチュエーション的に残念な感じがするのは俺だけだろうか。


そして明かされる真実。

そして俺はますます固まってしまう。


「私の初恋の人なの」

「舞奈の初恋?」

「としくん」


小さな子供の記憶力。

それは恐ろしく曖昧だ。


ずっと一緒に居た保育園。

だけどハブられた俺はしばらく彼女と話が出来ていなかった。


だから彼女の記憶の中で、初恋の『としくん』と俺『俊則くん』は別人として認識されていた。


それに途中から俺は男の子の服に変えていた。

それも相まって彼女の記憶は醸成されていたようだ。


「ははっ、でも嬉しい。…舞奈の初恋の人……俺だったんだね」

「むう。なんか悔しい。……ねえ俊則?」

「うん?」

「……ティナちゃん、好きだったの?」


おう?!

なんかジト目、というかここの気温下がってる気がするんですが……


「あー、好き、というより……同志、みたいな?」

「同志……」

「覚えてる?健太とか」

「あー、何となく?…イジワルな子よね」

「うん。そいつ。…俺もいじめられていて、それでティナちゃんもでしょ?特に彼女言葉判らなかったからさ、そういうの卑怯だなって」

「うん」

「だからかな。どうしても守ってあげたかった。それにね」

「……うん?」

「俺はさ、ずっと前から君に応援されていたんだよ。それだけは忘れない」


この前の夢。

ほとんど忘れたけどそれだけは覚えていた。

きっと夢を見る前からずっと。


舞奈はなぜか大きく息を吐き天を見上げる。


「ねえ、じゃあさ、俊則はさ……本当に私のこと好きでいてくれたの?」

「そうだよ。ずっと君を、可愛い舞奈を見ていた。そしてこれからも、ロナリア嬢になった君だって、思い出の中にある舞奈だって……俺の宝物だもん」


ああ俺。

絶対に真っ赤だ。


目の前で湯気を出している舞奈。

可愛すぎるでしょ?!


その後二人でとことんデートを楽しんだ。

一緒に居るだけですべてが輝いて見える。


俺は本当に幸せ者だ。



※※※※※



夕刻。

辺りがだいぶ暗くなってきて俺たちは今何故か宿の部屋で二人、固まっていた。


いわゆる休憩での利用だ。


正直あまり気分のいい話ではないけど俺たちはお金の心配はないくらいには裕福だ。

だから今いるこの部屋。

プライベート温泉が完備されていた。


「あ、あの、あのね?……一緒に…そ、その…」


顔から火が出そうなくらい赤く染まっている舞奈。

ここは男の俺が言わねば!!


「舞奈」

「ひゃい」


俺はそっと彼女を抱きしめる。


「あう♡」


はあああああああああ、やばい…やばすぎる!!

可愛すぎるでしょ!!


「ま、舞奈?お風呂、入ろうか」

「っ!?う、うん」


彼女の手を取りお風呂のドアを開ける。

そうしてたどり着いた脱衣所。


服のこすれる音がやけに大きく聞こえ、緊張が限界まで高まっていく。

ちらりと見る彼女の体。


マジで俺卒倒しそうだ。

あの時の二の舞は絶対にダメだ。


俺は大きく深呼吸を繰り返した。


「え、えっと…じゅ、準備できた……よ?」

「う、うん」


大きなタオルで隠された彼女の体。

上気した顔と白いうなじが色っぽい。


俺は彼女の手を取り、ゆっくりと二人湯船に入っていった。


「はああ、気持ちいい♡」

「うん。最高だね!」


改めて見つめる。

夢みたいだ。


可愛い彼女がほぼ裸で俺の前で可愛らしい表情を浮かべている。


「舞奈」

「うん?」

「愛してる」

「っ!?…わ、わたしも。俊則、大好き♡」


タオル越しに感じる彼女の体。

愛おしさが上限を超えた。


「あ、あの、あのね…」

「う、うん」

「こ、この体…………………そ、その………しょ、処女なの」

「っ!!!!!????」


うあ…

マジか?


ああああっ?!

俺もそうだよ?!


ど、童貞?


そして恐怖の混じった、それでいて期待があふれ出す何とも言えない可愛い顔で舞奈がささやく。


「優しく、してね♡」



※※※※※



詳しくは割愛させてもらうけど。


彼女はまさに女神だった。

確かにロナリア嬢よりは普通のスタイルなのだろう。


でもそんなことは全く関係なかった。


愛する舞奈。

出会えた運命に俺は心の底から感謝していたんだ。



※※※※※



あれから数日。

私は今自室で、あの時の似顔絵を前に顔をにやけさせていた。


おもむろにベッドに倒れ込む私。

その表情はきっと誰にも見せられないほどだらしがない事だろう。


「俊則…」


つぶやく愛しい人の名前。


それだけで私は無敵になれる。


「ロナリアお姉さま、入ってもよろしいですか?」

「ええ。ルル。どうぞ」

「私もいますよ?舞奈さん」

「いらっしゃい、絵美里」


まもなく最後の戦いが行われる。


この世界をかけた勇者である俊則のデビュー戦だ。

今私たちの愛する俊則は最後の調整のため王宮でレギウスさんとの訓練に明け暮れていた。


もちろんすでに覚醒上限は超えていた。

まあ、そ、その……


私たち、沢山可愛がってもらっているからね。


あう。

恥ずかしい。


「わあ、これが日本にいた時のロナリアお姉さまなんですね。可愛い♡」


ルルが似顔絵を見て感嘆の声を上げる。


「何言ってるのよ。ルルの方が100倍は可愛いわ」

「そ、そんな事……シュラド様、何かスッゴク幸せそうな顔してます。可愛い♡」


正直俊則の前世、この世界の男性に比べれば決してイケメンではない。

でもそんな彼には溢れんばかりの私に対する愛がある。


それだけで私はもう幸せだった。


「懐かしいです。ねえ舞奈さん?あの薬、もう作れないんですよね?」

「うん。ちょっと無理しちゃったからね。材料も実は神級だったし。お父様に怒られちゃったもの」


実は私はもうあの薬を作る気がない。

だって。


「ただいまっ!!舞奈、ルルっ、絵美里」


「おかえり」

「おかえりなさい」

「シュラド様♡お疲れ様です」


あれは思い出。

だって私たちは今、間違いなく愛すべき世界で生きている。


「どうだったの訓練」

「うん、ばっちり」

「流石はシュラド様です♡」

「お茶、淹れますね」


ああ、死んでしまったけど。

私は愛する人に囲まれて。


そしてちょっと怪しい百合とかにも少し染まっちゃったけど。


「あらあらロナリア?たまにはお母様も仲間に入れてくださる?」

「はい。お母様。なんか嬉しいです。お母様と一緒のお茶」

「うふふ。可愛いこと言ってくれるのね。可愛いロナリア」


くそ運営にアホな開発陣。


「ルイラ様?私の焼いたクッキー、ぜひ召し上がってください」

「あら。凄いわね……美味しい。ルル、あなたまた腕を上げたのね」

「はい。お褒めにあずかり光栄です♡」


散々悪口言ったけど……


「へえ、ルル凄いね。……あむ。…美味しい」

「わあ、嬉しいです。いっぱいあります。たくさん食べてくださいね♡」


今私は感謝しています。

まあ、少しだけどね?


「ルルさん、今度私にも教えてくれますか?」

「もちろんです。頑張りましょうねミリーさん」


それからあのやたらと長い名前の神様?

ありがとう。


俊則を見つけてくれて。


「ロナリアお姉さまもどうですか?」

「いただくわ。……本当に美味しい♡」

「良かったです」


可愛いルル。

親友の絵美里。

大好きなお母様とお父様。


そして愛する俊則。



私たちはこの世界でずっと楽しく生きていきます。




愛しています。


俊則。




FIN


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