『いょう、
「な……んで……」
平然と話しかけてくる銀髪ロリ女神――メロディアースさまに対して、オレのアゴが落ちた。
もう絶句。
いやいや、そんなことってあるか?
よし。五分、時間を戻そう。
夜、オレはいつもの通り、寝所近くのトイレに入ったんだよ。
一応説明しておくとだな。
都市部に限っての話にはなるが、この世界のトイレは初歩の段階ながらすべて水洗だ。
上下水道もしっかり完備されている。
ただ、この城のトイレだけは特別仕様で、なんと全ての便座が尻の洗浄機能つきだ。
これには理由があってさ。
ほら、うち、新興国じゃん? 勇者が興したという前振りがあったとしても、やっぱり他国は
中には当然、あわよくば侵略をって
ところが、そんな国に
こんなすごいトイレがあるってことは軍事的にも隠し玉があるに違いない、これは
別に何のことはない。
文明人のオレとしては、単純に尻の洗浄機能つきのトイレが欲しかっただけなんだが、よくもまぁオレの無責任な要望を魔法技術だけで再現できたもんだよ。
なんてったって、トルネード水流だぜ? 凄いね、異世界アストラーゼ。
でまぁ話を戻そう。
夜トイレに行って用を足し終わったオレがトイレのドアを内側から開けると、足元に雲が流れる真っ白な空間――
何を隠そう、この空間こそ、異世界アストラーゼ創世の女神・メロディアースさまの本拠地なのだ!!
慌てて後ろを見たら、すでにトイレの扉が消えてやんの。
完全に
『長々と説明すまんな、藤ヶ谷徹平よ』
「オレの心の説明に突っ込み入れんな、メロディちゃん! つーか、フルネームやめれ!」
『まぁそう言うな。しばらく会っていなかったが、元気であったか? えっと、あれから一年経ったか?』
「そう……だな。つい先日、正妻ステラとの間に赤ちゃんが生まれたばかりだ。なんと男の子と女の子の双子。三聖女との間にできた子は全員もれなく一歳になるしさ。可愛いったらないぜ」
『ほうほう、子だくさんではないか。良きかな良きかな』
白い玉座にふんぞり返った女神メロディアースがうんうんと笑顔でうなずいている。
なーんか、うさんくせぇ。基本的に一筋縄ではいかないタイプの女神さまだからさ、この人。絶対なにか企んでるよ。
そんなオレの考えを知ってか知らずか、女神がニヤニヤしながら口を開いた。
『テッペイよ。そろそろまた冒険に出てみんかの?』
「出ねぇよ。名実ともに三十歳を迎えたオレに何やらそうとしてやがんだ。オレの旅はもう終わった。魔王退治の依頼も完璧にこなした。もうここからはボーナスタイムなはずだぜ?」
即座に否定する。
そんなのに付き合ってたら、命がいくつあっても足りねぇぜ。
『うん、まぁその通りなんじゃがの? 実はちょっと困ったことが起きて……』
なになにと話を聞いたオレの顔が引きつる。
「おいおいおいおい。何やってくれてんの、メロディちゃん。超マズいじゃん」
『いやぁ、すまんすまん。そんなわけでどうあっても誰かしらに行ってもらわねばならん。じゃが、今ワシがこの案件を安心して頼める者はおぬししかおらんからの。すまんが、相方、決めてくれんかの』
しぶしぶながら、オレは考えた。
まず三聖女。
魔法の聖女・フィオナ=フロスト。魔法に関してはスペシャリストだ。そして癒しの聖女・ユリーシャ=アンダルシア。僧侶だ。最後に
どの娘を連れていってもそれなりに戦ってくれるだろうが、なにせ三人ともオレの子供を産んだばかりだ。赤ちゃん連れて戦うか? ないよなぁ。
って考えると、総合的に優れている正妻のステラ=フヴァーラは、もっとないってことになる。
こっちはホント、数週間前に赤ちゃんを産んだばかり。しかも双子。母子ともに絶対に無理をさせちゃいけない期間だ。
じゃ、どうする?
アイツっきゃいないだろう。
「俺か? 俺なのか!? ふざけんな、藤ヶ谷!
親友・
◇◆◇◆◇
あからさまに不機嫌そうな久我が、ローテーブルにお茶のペットボトルをドンっと置いた。
勝手に飲めというんだろう。
だが、なんだかんだ言いつつも、冷蔵庫からわざわざ冷えているのを出してくれるのがこの男の優しいところだ。
ソファに並んで座るオレと女神の前にドスンと座った久我が、ムスっとした表情を崩さず口を開いた。
「で? 何が起こった」
何かを察したようで、怒ったそぶりを見せながらもその表情は真剣だ。
それに対し、メロディちゃんがオレに向かってアゴをしゃくる。
おいおい、依頼主のくせに説明をオレに丸投げかよ! いいご身分だなぁ、銀髪ロリ女神!
「魔王・ゼクス=ハーケンが光の牢獄から脱獄した」
「……は!?」
久我の目の色が変わる。
一年前、オレは単騎で、異世界アストラーゼを破滅させんとする魔王と戦った。
魔王はそりゃもう強かった。
だって魔王だもんな。
三聖女の絶対的守護があったにも関わらず、オレは死ぬような目にあった。
全長十メートルを超える巨体から次々と繰り出される打撃やら魔法やらで、腕がちぎれるやら足がもがれるやらで、もうズタボロ。
しかも、そんな手足を失ったオレの身体をむんずと掴んだ魔王は、びったんびったんそこら中に叩きつけやがった。
意識飛んだね。
あの当時、オレには『超回復』という、欠損部分が平気で生えてくるびっくりスキルがあったから良かったけど、そうじゃなかったら間違いなく死んでたよ。
「魔王の行方は分からず、ですか?」
『うむ。どこかの異世界に潜り込んだようじゃが、あの辺りは他の神の管轄区域が絶妙に入り混じっていてよく分からんのじゃ。おかげでワシの力も及ばん。地道に探すしかないの』
「なるほど、メロディちゃんの力も及ばないと。……なんだとー!!!!」
あまりのことに、オレは大声で叫んでしまったのであった。