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第56話 創造神

《佐藤ヒロキ視点》


天界への穴に入った瞬間、黄金の雲の海が目の前に広がった。他の悪魔達も続々と入ってくる。


「うひょー!こりゃすげぇ!」

「壊したくなるほど綺麗ねぇ!」


悪魔達は楽しんでいるようだ。

飛びながらさらに進むと荘厳な白の大地が見えた。神殿のような巨大建造物が立ち並んでいる。

そして所々にゼノデウスと似た容姿の者達が倒れていた。翼は白いようだが。

すると、遠くから筋骨隆々とした爺さんが白い翼を羽ばたかせてやってきた。


「やっと来やがったか!おい、そこの山羊頭の悪魔!冥王から剣を預かってんだろ?それ貸せ!」


「何?お前のこと信用できる要素が全く無いが」


「分かった分かった!頭でも下げるからよ!魔神の馬鹿を倒せる手段がそれしかねぇんだよ!」


「…なるほどな」


すると白翼の筋肉ジジイは空中で宙返りでもするかの勢いで俺の前に飛び出し、物凄い勢いで頭を下げた。

俺はアイテムボックスから冥王の剣を取り出した。


「俺は武神のグラディウスだ!頼む!今でも仲間達が戦ってんだ!貸してくれ!」


「分かったよ。ほら」


俺は冥王の剣を渡した。悪魔達の目の前でここまで頭を下げたんだ、それほどの状況なんだろう。

グラディウスが冥王の剣を手に持つと、漆黒の剣身から黒いモヤが漂い始めた。


「助かる!あぁっと、ついでにお前らも一緒に手伝ってくれねーか?」


「俺は構わないが…」


「俺も行くぜ!魔神の馬鹿がどんな風になっちまったのか見てみてぇ!」

「私も〜」

「あたしも行くわよ〜!面白そうじゃない!」

「ギャハハ!神共の情けねぇ顔を見に行ったろ!」


グラディウスは剣を両手で持ち直し、俺たちを一瞥してからニッと笑った。


「こりゃ心強いな…!よし、こっちだ!」


彼の背中に続くように、俺たちは一斉に羽ばたいた。

天界の空はどこまでも澄み渡り、黄金の雲が遠ざかっていく。

視界の先には、ひときわ巨大な神殿が見え、その上空では十数人の神々と魔神が戦っていた。

神々は全員、肌,瞳,髪,翼と全てが白く、美男美女が揃っている。

魔神は真っ赤の肌に二本の黒い角と蝙蝠の翼が生えていて、いかにも悪魔らしい姿をしていた。

神々は駆けつけてきた俺達を見つけると、歓声をあげた。


「悪魔達キター!!」

「あの山羊頭の悪魔もいるわね!」

「ようやくこの戦いも終わる…」


思っていたよりも歓迎ムードの神々に悪魔達は戸惑う。すると、魔神が喋り出した。


「ゴミ共が…うじゃうじゃと集まりおって」


「なんじゃ…?お前さん、魔神じゃないな?」


ミッセルは眉を寄せて問いかける。すると1人の女神が喋り出した。


「そいつの中身は魔王よ。どうやら魔神を乗っ取ったみたいでね」


「なんじゃと?魔王は勇者によって討伐されたはずじゃ…」


「残念ながら、魂までは滅ぼせて無かったみたい」


すると、魔王がシロのことを見た。


「ほう。吾輩の残留思念は肉体を完成させたか。だが、もはや必要ない。この魔神の体を手に入れたからな」


その身体から吹き出す魔力は、まるで巨大な竜巻のように周囲を巻き込み、神々の一部が押し返されるほどだった。

グラディウスが冥王の剣を片手に前線へ出る。


「まっ、それでもテメェはもう終わりだがな」


「それは……冥王の剣だと!?」


魔王の目が、見開かれた。ほんの一瞬だが、その威厳に満ちた表情に揺らぎが走る。


「貴様、どうやってその剣を…!」


「いくら不死に近いほど強大な存在になったとしても、"死"そのものには対抗できねぇだろ」


グラディウスが、黒いモヤを放出させている冥王の剣を上段に構え、風を裂くように天界の空を駆けた。

その動きはまるで雷光のような速さだった、剣が振り下ろされる一瞬前に魔王は翼を広げて後退する。


神々が黄金の鎖をいくつも創って操り、魔王を拘束しようとする。魔王は全身から闇の波動を放出して鎖を消し去った。

悪魔達も様々な魔法を放っていく。炎、雷、氷、土…悪魔たちの放つ多彩な魔法が天界の空を彩る。

俺も刀を取り出して剣鬼の斬撃を放っていく。

だが魔王はその全てを、右手から闇を放出して薙ぎ払った。


「虫けら共が…!貴様ら如きの力で、吾輩を止められると思ったか!」


魔王が両手を掲げると、竜巻のような闇が俺たちへと迫る。

俺は刀を取り出し、斬撃上昇で刀に魔力を集中させ、そして刀を振るった。剣鬼の斬撃による効果で赤黒く巨大な斬撃が放たれる。

その斬撃は闇の竜巻を斬り裂き、そして斬撃も闇の竜巻によって勢いが弱まり相殺される形となった。


「ただの上級悪魔程度が何故それほどまでの力を…!!」


「ただの上級悪魔じゃ無いからじゃないか?」


俺は口角をあげてニヤリと笑い魔王を煽る。魔王は額に青筋を浮かべ苛立った顔をした。


「その挑発、乗ってやる」


魔王の目が妖しく光り、その身体から噴き出す闇が一層濃く、重くなる。

空間が歪み、まるで天界の空が暗黒に染まっていくかのような錯覚を覚えた。


「見せてやろう。絶望の力を…!!」


魔王が両手を広げると、その掌に禍々しい魔法陣が浮かび上がる。血のように赤い魔力が渦巻き、雷鳴の轟音と共に、漆黒の雷が降り注いだ。

地上に落ちる前に、神々が黄金の結界を張るが、それすらも焼き焦がすような威力だ。


「フハハハ!!」


魔王は高笑いをしながら次々と漆黒の雷を落としていく。


すると、黄金の結界が魔王を中心に四角い箱のような形で囲み、そして一気に収束していった。

魔王は一時的に身動きを取れなくなるが、すぐに結界を破壊する。


だが強大な神を相手には、その隙は致命的であった。

グラディウスが隙を見逃さずに、急接近して魔王を斬り裂いた。魔王の体が漆黒に蝕まれていく。


「グワアアアア!!」


魔王は叫び声をあげると、蝕まれていくその体から黒い影のような球体が出てきた。そしてシロの元へユラユラと近付いてくる。

だがグラディウスがそれを見逃すわけもなく、その球体を冥王の剣で斬り裂いた。

その球体は真っ二つになると、球体よりも黒い何かに蝕まれ、完全に消滅した。魔神の体も同じタイミングで消えていった。

グラディウスは一息つき、俺の方を向く。


「ふぅ、終わったな。この剣は返すぜ」


「ああ」


俺は冥王の剣を受け取りながら、その剣身を軽く眺めた。黒いモヤがゆらゆらと立ち昇っている。

神々も次々と巨大な神殿の前に着地し、魔神が消えた空を見上げて深く息を吐いていた。彼らの顔には安堵と、ほんの少しの疲労が浮かんでいた。

1人の女神が喋りかけてくる。


「助かったわ、悪魔達。そして、貴方が元人間の悪魔ね」


「まぁ、そうだが…」


「『子供たちよ。お喋りよりも先に、冥界の修繕へと向かいなさい』」


巨大な神殿から厳かな声が響き渡った。まるで空そのものが語りかけてくるような、重厚な威圧感。それだけで辺りの空気が一変する。


「創造神様…!回復なさいましたか!」


女神が姿勢を正し、頭を垂れる。周囲の神々も同様に膝をつき、沈黙の中でその声に耳を傾けていた。

神殿の扉がゆっくりと開き、そこから眩い光をまとう存在が現れる。

その姿は、男女の区別すら曖昧な神性そのもので、見る者に絶対的な畏敬の念を抱かせる。


「『まずは転移した冥界の入口を修繕。次に冥界自体の修繕。直ちに向かいなさい』」


「「「はっ!!」」」


創造神は巨大な扉を一瞬で創り、その扉が開く。

その先にはビルなどの建物が見える、どうやら冥界の入口がある大阪のようだ。神々は一斉に立ち上がり、その扉の先へと向かった。


「『貴方達はどうしますか?まだ暴れ足りないのなら絶好の戦場がありますが』」


「ほう!そりゃあ良い!」

「折角だし行こうかなぁ」


「『では、相手は大量のアンデッドになりますが』」


そう言ってまた巨大な扉を創り出した。そこは新都心の上空のようで大勢のアンデッドがいた。


「うひょー!!グチャグチャにしてやるぜぇ!!」

「正直暴れたりなかったのよねぇ」


「あれは、新都心か。俺も向かわなくては」


「『ああ。佐藤ヒロキ、貴方は少し待ってください』」


他の悪魔達が新都心へと降りていく中、創造神に呼び止められる。


「なんだ?あまり時間は取りたくない」


「『ええ。大丈夫です。貴方には、これまでの経緯を教えておきたい』」


「なぜだ?後で良いんじゃないか?」


「『いえ、今回の事態を引き起こした者も分かりますので。すぐに終わりますよ』」


そう言うと、創造神は俺に近付いてきて、俺の頭に触れた。

すると、創造神の記憶が俺の記憶に入り込んできた。






《創造神の記憶》


「『…魔神が魔王の魂に乗っ取られましたか』」


すぐに魔王の様子を確認すると、天界へ間もなく攻めてくることが分かった。

世界全体の時間の流れを一時的に止め、そのまま全知の能力を使う。

そこで分かったのが、ゼノデウスに殺され冥界に送られたレモウラが魔王の手助けをして魔神が乗っ取られたこと。

そして天界が魔王によって孤立状態となり、下界で人間が殺され尽くし、冥界が決壊すること。

それにより世界がまともに機能しなくなることだった。


「『……あの、勇者の故郷がありましたね』」


神に放棄された世界を見る。そこは魔素もなく、ただ人間だけで発展した世界だった。


「『ゼノデウスが封印されている平原を、まずこの世界に転移させてレモウラへの妨害。

戦争墓地を転移させて下界の被害を減らす。

エルフの国を転移させて万が一の保険。

ケルサス竜帝国…いや大陸ごとあちらに転移させてあちらの世界の手助けを。

いや、そもそもあちらの世界を作り変えなければいけませんか…』」


それをしたら私はしばらく動けなくなる…子供たちだけでは魔王を倒しきることは厳しい…


冥王の剣があれば可能…しかし天界はこれから孤立してしまう…


異世界の人間に…単なる生き物では冥界には行けない…


「『人間を悪魔に作り変えますか。勇者の親戚だと良いですね。ああ、それに悪魔だったら強引に天界へ行くこともできますか』」


勇者であった佐藤タクミの親戚を調べ、夜道をスーツ姿で帰っている佐藤ヒロキを発見。この人にしますか。

今の悪魔にはいない容姿……山羊頭の悪魔なんて良いですね。


私は時間停止をやめ、冥王に思念を送る。


『冥王よ。聞こえますか?』


『…! 創造神か。どうした?』


『これから世界に異変が起こります。もし貴方の元に山羊頭の悪魔が現れたら冥王の剣を渡してください』


『それほどまでの異変か。分かった』


その返事を聞いた私は、グラディウスに思念を送る。


『聞こえますか、グラディウス』


『…! 創造神様!どうなされましたか』


『これから天界に、魔王に乗っ取られた魔神が攻めてきます。倒すことを目標とせず、犠牲を減らすことを目標として相手しなさい。

私はこれから世界の変革を行うことにより、行動が不能となります。ただ時間を稼ぐことを目標です、分かりましたね?』


『はい!かしこまりました!!』


『ああ。それと、山羊頭の悪魔が冥王の剣を持ってくると思います。天界に悪魔達がやってきたら真っ先に貴方が受け取りに行きなさい』


『分かりました!!』


思念を送るのを止めると、行動を開始した。


まず各地を日本へと転移させる…こちらの世界の魔物が今襲いかかるとまずい…認識阻害の結界を付けておきますか…


異世界の人間達の進化を行う…異世界に豊富な魔素を循環させる…


最初に魔物が一気に現れてしまいますか…致し方ない…


佐藤ヒロキを悪魔へと作り変える…1週間もかかってしまいますか…部屋全体に結界を付けておきましょう…


作り変えることにより若干の記憶の欠損…きっかけがあれば思い出しますね…


そして、全てのことをやり終えると、力を使いすぎた影響で倒れ込む。


「『これで、いくらか解決すれば良いですが…』」







《佐藤ヒロキ視点》


創造神の記憶が走馬灯のように一気に再生され、膝をつく。


「なるほど、お前に直接作り変えられたのか。俺は」


「『ええ。悪魔という役割が必要でしたから』」


「それで、とりあえずはレモウラという神を殺してしまえば解決か?」


「『そうですね。その前に貴方を限界まで成長させましょう』」


創造神が俺の体に触れると、俺の体が光りだして、力が溢れてくるような感覚に陥る。


「『上級悪魔の最大レベルまで上げておきました。これでレモウラとも戦うことが出来るでしょう』」


「…一応、礼を言っておく。ありがとう」


「『こちらこそ、ありがとうございます』」


俺は巨大な扉をくぐり、新都心の空へと降りていった。

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