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最終話 日常

カンッカンッ


俺は趣味用の鍛冶場で黄金の鉱石を加工していく。この神の鉱物と言われている鉱石は中々に硬い。

火炎魔法で熱してもあまり柔らかくならず、さすがは神の鉱物と言われているだけはある。

ハンマーを振るたび、カンッと高く澄んだ音が響き渡る。熱されて赤く染まった黄金の鉱石は徐々に形を整えていく。

しばらく打ち続け、ある程度形が整うと作業を止めた。


「ん、もう昼か。いったん家に戻るかな」


そう呟くと、俺は立ち上がる。周囲には様々な鉱石と、俺が作った武器が転がっている。

歩いて鍛冶場を出て、入口で見張りをしている者に声をかけると、自宅へ戻り始めた。


出店が並ぶ大通りを歩く。

創造神によって平原に創られたこの町は、現在5万人ほどが居住している。

それにこの町には異世界への門が設置されているため、異世界からの来訪者も後を絶たない。

出店には見慣れぬ果物や香辛料、異国の衣装に身を包んだ商人たちが集い、まるでどこかの祭りのような賑わいを見せていた。


俺が通り過ぎると、何人かの住人が小さく頭を下げる。中には視線を逸らしながらも、手を胸に当てて敬意を示す者もいる。

異世界で行動していた俺の姿を覚えている者もそれなりにいるらしい。結果的に人助けをしていたからな。

しばらく中央に向けて歩き続けると、一際大きな屋敷が見えてくる。門をくぐり抜け、扉を開くと、腹に何かが突撃してきた。


「おかえりパパ!」


「ああ。ただいま」


俺の子供のサキだ。すると何人もの足音が聞こえてくる。


「パパだ!おかえり!」

「パパ見て!氷魔法使えるようになったの!」

「父さん!おかえり」


「ただいま。今日も元気だな」


11人の子供たちが降りてきて、各々喋り出す。

頭を撫でてやると、子供たちは嬉しそうな顔をする。

全員灰色の肌で黒く捻れた角が生えていて金色の瞳だ。


「おかえりなさい、ヒロキさん」


廊下の奥から声がかかる。現れたのはハルカだ。


「ただいま。サクラの様子はどうだ?」


「悪くないですよ。来週には産まれるそうです」


サクラはマリンから性別を変える魔術を施してもらい、男から女へと性別を変えた。それでやることやって、無事妊娠したわけだ。


「他の嫁たちは?」


「まだ妊娠したばかりなので、まだまだ元気ですね」


「そうか。無理はしないように言っておいてくれ」


俺はハルカに軽く釘を刺すように言うと、彼女は微笑んで頷いた。


「もちろんです。それじゃあ、昼食にしますか?」


「そうだな。お前らは食べたのか?」


子供たちに顔を向けて言うと、全員首を振る。


「パパのこと待ってたの!」「お腹減った!!」

「一緒に食べよ!」


「ハハハ。そうだな、それじゃあ行こうか」


俺は少し笑い、居間へと足を向けた。ふとあることを思い出し、ハルカに声をかける。


「ハルヒロはどうした?」


「そういえば、まだ帰ってきてませんね。あの子のことだからまた鍛錬場でしょう」


ハルカが呆れた顔をして呟く。ハルヒロは俺とハルカとの子供だ。俺達眷属たちは妊娠する確率がかなり低いが、ハルカの妊娠は一番早かった。

現在ハルヒロは12歳で遊び盛りのはずだが、何故か鍛錬にハマってしまっている。というか原因はあの武術バカ共のせいだが…


「俺が呼んでこよう。先に準備しておいてくれ」


「分かりました」

「「「はーい!」」」


俺は屋敷を出て、翼を羽ばたかせて飛び立った。

そして街の外にある鍛錬場へ移動する。そこではソウスケとイサムが鍛錬用に作った屋外鍛錬場で、今では大人数でも使えるように拡張されている。


鍛錬場の中心ではハルヒロとソウスケが手合わせをしていた。ソウスケはもちろん手加減をしているが、ハルヒロもなかなかの体捌きで無駄な動きが少ない。

鋭い踏み込み、素早い後退、そして低く構えた姿勢から繰り出される拳。


ソウスケは柔らかな笑みを浮かべながら、時折軽く受け流したり、意図的に隙を見せたりと上手いことやっている。

眷属のカイを見つけたので、カイの隣に降り立った。


「ヒロキ様!こちらにいらしたんですね」


「ああ。ハルヒロを迎えにな」


「おっと!もうお昼でしたか。ソウスケさん、ハルヒロ!いったん終わりにしましょう!」


カイがそう言うと2人は動きを止めて、俺に気が付いた。

ハルヒロは小走りで俺に駆け寄ってくる。ハルヒロは12歳ながら身長が160cmを越えており、ガタイも良い。

俺に似ているのかもしれないな。


「父さん!」


「良い動きだったな。ハルヒロ」


「うん!あと今日は空歩の練習をしたんだ!」


そう言ってハルヒロは空中をぴょんぴょんと跳んだ。そして着地する。


「ハハハ!凄いな!」


「でしょ!ソウスケさんにも褒められたんだ!」


嬉しそうに笑うハルヒロを見ていると、つい口元が緩む。

空中で何度も跳ぶのは中々に難しい。それをこの歳でやるのは鍛錬の賜物だろう。

すると後ろからソウスケが歩み寄ってきて、手を振ってきた。


「ようヒロキ!もう昼飯か?」


「ああ。今日はイサムはいないのか?」


「今日は竜帝国に行ってやがるな。面白い武闘家がいたんだってよ。

それよりもヒロキよ、たまにはこっちで体を動かさねぇか?」


「俺も久しぶりに見たいな!」


ハルヒロがキラキラとした目で見てくる。

前にもハルヒロの前で手合わせをしたが、お互いに負けん気が出てしまって中々に終わらなかった。

俺は子供の前で、ソウスケは弟子の前で負けまいという理由で。


「まぁ昼食後にでも軽くやろうか。また後でな」


「よっしゃ!またな!」


そう言って、カイも一緒に3人で歩き出した。

街の中を歩きながら談笑する。


「そういえば、最近ゼノデウスとはどうだ?」


「まぁ、相変わらずですよ」


カイは苦笑いをしながら言う。あのレモウラとの戦いの後、ゼノデウスがカイのことをひどく気に入って猛アプローチをした。カイはそのまま押し切られて、現在は結婚して2人同じ家に住んでいる。


「しかしゼノデウスが誰かを愛すとはな。そういうことには興味がないと思っていたが…家ではどんな感じなんだ?」


「まぁその…一日中くっついて…」


「何を言ってるんだ、カイ」


いつの間にかカイの後ろにゼノデウスがいた。後ろから手を回してカイの顎を持ち上げて上を向かせて目を合わせている。


「あ…ゼノデウスさん…」


「ふふふ…あまり家庭のことを人に言うものじゃないぞ。カイ、お仕置きだ」


「ちょっ、ヒロキ様!たすけ…」


ゼノデウスはカイを抱きしめて黒い翼を羽ばたかせて飛び上がった。俺とハルヒロはそれを見届けて、目を合わせた。


「さ、早いとこ帰ろうか。昼飯が冷めちまう」


「うん、そうだね!」


2人は満面の笑みを浮かべて歩き出した。こんな日々がいつまでも続けば良いなと思いながら・・・

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