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第62話 終

「ア…ア…コロス…ゼ…ゼノ?…コロス…コロス…」


その声は人間のものではなかった。言葉を模しただけの、意味の通じぬ呻き。

それでも、そこに込められた悪意だけは、全身で感じ取れる。

理性が崩れ、言葉すらまともに形作れぬまま、それでも殺意だけが残った化け物。


(……もう、レモウラではないな。モンスターに近い)


黒い巨人の口が裂け、甲高い悲鳴のような咆哮を上げる。

その声に空気が震え、周囲のビルの壁面が粉々に砕け散った。

巨人は一歩、また一歩と迫り、そのたびに地面が崩れる

八咫烏の戦闘員達と俺の眷属達、ケルサス竜帝国の騎士達は遠くに撤退していった。

悪魔達はアンデッド達を殺し尽くしたようで、こちらに寄ってきている。


すると黒い巨人の翼が展開し、数百もの影が俺に襲いかかってきた。俺は深く息を吐き、縦、横、斜めと何度も冥王の剣を振り斬撃を放った。影は斬撃によって相殺される。


そして、サツキ,ヤヨイ,マリン,竜帝が俺と合流した。

サツキは左腕が無くなっており、右手には黄金の片手剣が握られている。


「サツキ、左腕が…」


「ああ。止血はしてある」


「…そうか」


「それに、ここからが本番だろ?」


サツキはそう言い、口元に笑みを浮かべる。

ヤヨイは背中の肩を回しながらニコニコと笑っている。


「すんごい大きい敵ですね!」


「ああ…そうだ。ヤヨイ、これを使え」


俺はヤヨイに六角の金棒を渡した。


「わっ!金棒じゃないですか!良いですねぇ」


ヤヨイは金棒をブンブンと振る。筋肉に魔力を纏わせた彼女の身体は、まるで山のような圧力を放っていた。

マリンはフワフワと浮き上がりながら、巨大な氷塊を創りあげていた。


「この敵じゃあ、もう周囲の建物なんて気にしてらんないですね」


「ああ。さっさとこの馬鹿を片付けてしまおうか」


黒竜状態の竜帝が口から黒炎を漏らしながら不敵に笑う。


「それじゃあ、始めようか」


俺がそう言うと、各々が即座に反応し、行動を開始する。

ヤヨイが巨人へ向かって駆け出し、地を割るような踏み込みで金棒を振りかぶる。


「よいしょおっ!!」


ドォン!という轟音とともに、巨人の膝が僅かに沈む。マリンがその隙を逃さずに巨大な氷塊を放った。

竜帝は上空から黒炎を吐き、巨人の翼を炙り焼く。


「キアアアアアアアアアア!!!」


巨大が悲鳴のような咆哮をあげると、黒い身体の表面から数多の黒いモンスター達が現れた。

ゴブリン、オーク、巨大蜘蛛、サイクロプス…様々なモンスターが黒い巨人の皮膚から剥がれるようにして地上へ降り立っていく。


「うわ、いっぱい出てきましたね!」


ヤヨイが金棒を片手に驚いた声をあげたが、その顔にはまだ余裕がある。

俺は影に魔力を注いで影の鬼を数十体生み出した。


「モンスター共を殺せ」


俺が命令すると、黒い巨人から生まれたモンスターたちへ向けて、屈強な影の鬼の群れが突撃する。

鋭い爪がオークの首筋を裂き、巨大蜘蛛の関節を食い破る。

どうやら巨人から生み出されるモンスター共は並のようだな。それなら脅威でもない。


サツキは黄金の剣を横に振るい、空気を裂いて光の刃が放たれる。それはモンスター達を消滅させ、地面に巨大な裂け目を生んだ。


「悪くないな」


そう言って、サツキは血の滴る腕を気にすることなく前へ進んだ。

その後ろで、マリンがさらに魔力を集中させる。


「それじゃあ、早速試しますか」


マリンが両手で何かを包み込むようにすると、両手の間に眩い光が創られていく。そして、それをモンスター達に放出した。

轟音と共に数多のモンスター達を葬った。


すると、黒い巨人がまるで笑うかのように肩を震わせた。

次の瞬間、巨人の顔に巨大な眼球が出来上がった。赤黒く濁ったそれは、明確な意思をもってこちらを睨みつける。

すると、仙人のソウスケが遅れてやってきた。負傷しているように見える。


「すまねぇ!待たせたな!」


「お、ソウスケさんだ。遅刻ですよー?」


「わりぃわりぃ!ちょっと寝てたぜ」


ヤヨイがニヤニヤと笑いながら言い、ソウスケは軽く謝る。

続いてアンデッドの相手をしていた悪魔達もこちらと合流した。


「ギャハハハハ!なんだよこのバケモン!!」

「こりゃあ楽しくなりそうじゃのぅ」

「ラスボスだー!!」


悪魔達は顔に満面の笑みを浮かべながら魔法を創り上げていく。

すると、巨人の瞳が赤黒く閃いた。瞬間、空間が引き裂かれ、黒く淀んだ槍のようなものが雨のように降り注いだ。

俺は剣を振り斬撃を放って相殺していく。

そして悪魔達も魔法を放って、全て相殺された。


巨人の身体全体が脈動し、黒い靄が渦を巻いて空へと昇っていく。

そして、それに連動するかのように大地が震えた。次の瞬間、地面から黒い触手が幾重にも伸び、こちらへと襲い掛かってきた。


「下から来ますよ!!」


ヤヨイが叫んで金棒をフルスイングすると、触手の束が一気に吹き飛ばされた。

マリンが即座に巨大な尖った氷柱をいくつも創り出して、触手を突き刺す。

その隙にサツキが突っ込み、黄金の斬撃を地面へ叩き込んだ。閃光が走り、触手の根元ごと切り裂かれる。

ソウスケが大樹の根で巻き付かせ、巨人を拘束した。


だが巨人はすぐに腕を広げて、拘束を無理やり解き、焼かれた翼を再生させて羽ばたかせた。

そして身体を浮かせる…ことは叶わなかった。巨人の身体が光の結界により囲まれる。


「おぉーい!ヒロキ!!冥界の入口の修復が終わったから半分連れてきたぞ!!こっち手伝うぜ!」


遥か上空には神々を引き連れた武神グラディウスがいた。


「キアアアアアア!!」


結界に囲まれた巨人は身体中から黒いモヤを噴出させる。だがそれは膨大な光の粒子によってかき消された。ゼノデウスだ。

冥界の入口が修復されたことで、冥界の魔素が漏れ出ることも無くなったようだな。

ゼノデウスはどこか残念そうな表情で呟く。


「随分と、変わり果ててしまったな…さてと、終わらせようか」


神々がいくつもの光の鎖を出現させて巨人を拘束していく。

そして、その場にいる者達が一斉に攻撃をする。

ヤヨイが身体から炎を撒き散らしながら、巨人の頭に金棒を振り下ろす。

ソウスケが腕を大樹に変化させ、鞭のようにしならせぶち当てる。

マリンが膨大な光を巨人に向け放出する。

サツキが巨大な光の剣を振り下ろす。

竜帝が、黒き雷が混じる燃え盛る黒炎を吐き出す。

悪魔達が炎,氷,水,雷…多種多様な魔法を放つ。

神々が数多の光の槍を創り出して操り、突き刺していく。

俺は冥王の剣に攻撃強化で魔力を集中させていき、冥王の剣を振り下ろした。

剣鬼の斬撃によって、巨大な漆黒の斬撃が放たれる。


辺りに轟音が鳴り響き、周辺の建物が巻き込まれ崩壊していく。

もはやレモウラであった黒き巨人の原型は留めておらず、ただの黒い塊となっていた。

そしてそれは、また再生しようと試みている。皆が瓦礫だらけとなった地面に降り立ち、黒い塊の周囲に集まる。

黒い塊には目がいくつも現れ、口も現れた。


「ア…ア……コロ…ス……コロ…ス」


見るも耐えないその姿に、皆が憐れめいた表情をする。

すると、黒い塊が叫んだ。


「オレ…ヲ……ソンナメデミルナアアアアア!!!」


「うるさいぞ」


ゼノデウスが黒い塊に黄金の大剣を突き刺した。そして黒い塊の内側から光の粒子が溢れ出した。

ゼノデウスの大剣が深くめり込み、塊の中心から放たれた光が内側から焼き払っていく。


「フン…まともに反省していれば、また天界に戻れただろうに…愚か者が。

では、さらばだ。レモウラよ」


ゼノデウスの言葉と共に、黄金の大剣が爆ぜるように輝き、内部から塊を崩壊させた。

目が、口が、意志の残滓が、光に呑まれて次々と消えていった。


この場に静寂が満ちる。

誰もがその場に立ち尽くしていた。


「……終わった、か」


サツキが呟き、マリンがゆっくりと息を吐いた。


「ええ…さすがに疲れましたね」


「ああ。次は…片付けか?」


俺は冥王の剣をアイテムボックスに入れ、瓦礫だらけになった周囲を見回す。ソウスケはくつくつと笑う。


「もうここらを使うのは厳しいだろ。何ならこのまま平原に移り住んじまうか?しばらくは野宿になっちまうだろうが」


ソウスケがそんな冗談を言うと、空から光が降りかかる。


「『それはいい考えですね』」


「…! 創造神…」


眩い光を纏う人型、創造神が現れた。光の粒子が空から降り注ぎ、それが傷に触れると治っていく。

神々は膝をつき、他の者達が唖然とした顔で見ている中、俺は問いかける。


「いい考えってのは?」


「『それは…』」

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