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第61話 黒

《佐藤ヒロキ視点》

俺は創造神が創った扉をくぐり抜け、新都心の上空に出る。

他の悪魔達は、ビルの周辺にいたアンデッド達で遊びに行った。

そして、ビルの屋上で、カイが謎の男に首を掴まれているのが見えた。側にはゼノデウスもいる。

カイからは諦めと若干の恐怖の感情が伝わり、俺の頭は怒り一色に染まった。即座に謎の男のところまで移動し、カイの首を掴んでいる腕を掴む。


「誰の眷属を、殺そうとしてんだお前は」


そのまま腕を握り潰した。男は後退し、カイは解放される。


「ぐっ…!」


「ゲホッゲホッ…ヒロキ様!!」


「遠くに逃げろ。お前もだ、ゼノデウス」


「あ、ああ」


何やらゼノデウスは冥界の魔素の対処をしているようだったので、ゼノデウスも退かせる。

俺は男の元まで歩く。全身を巡っている魔力が滾っているのを感じる。男は腕を再生させた。


「ほう…悪魔か。相変わらず趣味の悪い姿の者しかおらんな」


そう言って男は冷ややかな笑みを浮かべた。

俺は冥王の剣を片手に男を見据える。


「殺してやる」


男の目が細くなり、その瞳の奥に、ほんのわずかな警戒の色が滲んだ。ゼノデウスとカイは遠くに逃げ去った。


「随分と物騒な挨拶だな。だが…悪くない」


男の背後で闇が蠢き、翼のように闇の魔力が広がっていく。

周囲の空気が重く沈む中、俺は冥王の剣を横に構える。

黒いモヤが剣身を這い、剣そのものが呻くような音を立てて震えた。


「フン…冥王の剣…終わりの象徴か」


男は動く。闇の残像を残して距離を詰めてくる。俺はタイミングを合わせて剣を振るった。

重力すら歪める一撃と一撃が交差し、音のない衝突が空間に裂け目を走らせる。


(素手で冥王の剣を受け止めやがった)


衝撃が爆風となって周囲を吹き飛ばす。というかこいつが例の…


「…お前がレモウラか」


「如何にも。空に現れた扉を見るに、天界で暴れていた魔王は敗れたようだな」


「ああ。後はお前だけだ」


冥王の剣に力を込めて振るい、レモウラも拳を振るう。

力のぶつかり合いの中で、空気が軋む音を立てて震える。周囲の建物が軋み、ガラスが砕け落ちた。


「いい目だ。だがその目が苦痛に歪む姿を、私は何より好む」


嘲りを含んだ声と共に、レモウラの圧が跳ね上がる。

俺は一瞬後方へ跳び、冥王の剣を振るう。剣鬼の斬撃の効果で、巨大な漆黒の斬撃が放たれた。

大気が裂け、轟音が鳴り響く。


レモウラは闇の魔力を自身の前方に固めて防御態勢を取るが、冥王の剣による漆黒の斬撃はその防御を容易く貫通した。

黒い液体が空中に飛び散り、レモウラの体勢がわずかに崩れた。だが傷は急速に癒えていっている。


「ふむ…冥王の剣による"死"の腐食は効かぬようだな。冥界の魔素を取り入れたからか。

ならば、恐れることはない」


そうレモウラは呟くと、その身に纏う闇がさらに濃くなり、漆黒の霧となって全方位に広がり始めた。

まるで意志を持つかのように、霧は蠢きながら空を染め、俺の視界すら覆い隠していく。

次の瞬間、霧の中から風を切る音が響いた。反射的に身を沈めると、俺のいた位置を黒い爪が切り裂いていった。

俺は呼吸を落ち着け、空歩で足に魔力を集中。空中を蹴り、跳躍して一気に距離を取った。


俺の背に何かが迫る感覚。反射的に冥王の剣を背後に向けて振るうと、剣と何かがぶつかり、激しい衝撃が背筋を走る。

霧を切り裂いた剣先の余波で空間の淀みが消え、一瞬だけ視界が開ける。

その中にレモウラの顔が見えた。油断のない、しかし確かに愉悦を含んだ笑みだった。


俺は空中で体勢を立て直し、冥王の剣を構える。

握る手にさらに力を込め、攻撃強化で冥王の剣に魔力を集中させる。

そして俺は一気に加速した。レモウラも行動を開始する。

翼のように広がった闇を集約させ、自らを包む盾と化す。前のとは違い、冥界の魔素を纏っている。


俺は冥王の剣を振るい、漆黒の斬撃を放つ。攻撃強化で威力が増した斬撃だ。

黒と黒がぶつかり合い、ビルを飲み込む閃光が走った。衝撃波が爆風となる。

冥界の魔素が混じったことにより頑丈になった盾にヒビが入る。


「ッ……!」


レモウラの顔が初めて歪んだ。その一瞬を逃さず、俺はまた接近する。そして冥王の剣を振り下ろした。

次の瞬間、レモウラの胸部から触手が飛び出し、俺の腕を絡め取ってきた。

俺の腕に絡みついた触手が脈動し、魔力を吸い取られる。まるで骨の髄までを喰らい尽くすような感触に、全身の毛が逆立った。


「気持ちわりぃ…」


すぐさま触手を冥王の剣で切り裂くと、レモウラは闇の魔力を纏っている拳で殴る。俺は軽く吹っ飛び、レモウラとの間に距離ができる。

レモウラは片手を軽く掲げ、黒いトゲを俺の周囲にいくつも出現させた。俺は冥王の剣を振るって斬撃を放ち、黒いトゲを消滅させていく。

すると、レモウラの様子がおかしいことに気が付いた。


「フゥーッ…フゥーッ……ハハハ、力が…力が滾る…」


レモウラの身体から黒いモヤが出ている。奴の皮膚には血管のような黒い筋が太く浮かび上がり、目の奥にまで闇が染み渡っていた。

まるで、冥界にいたアンデッドを喰らうモンスターのようになっている。


「フフ…冥界の魔素による副作用か…もう、俺は…」


レモウラの声は低く、獣の唸りのようになっていた。その背から出現していた魔力の翼は、数多の黒い触手による翼に変化している。

俺は息を一つ吐き、冥王の剣を構え直す。そして斬撃強化で魔力を集中させていく。

飛行強化で翼を羽ばたかせ、再びレモウラへと接近。そして冥王の剣を振り下ろした。

なぜか、レモウラはまったく抵抗もせずにそれを受け入れた。


(なんだ…?)


レモウラは左右に斬り裂かれると、黒い液体が溢れ出て、レモウラを包みこんで黒い球体へと変化した。

黒い球体は心臓のように鼓動している。嫌な予感がした俺は冥王の剣で球体を斬り裂いた。

だが、まるで液体を斬っているようで、何の効果もない。

すると、球体から鳥類のような巨大な翼が生えた。

次は人間の体が作られていき、黒い翼が生えた黒い巨人が出来上がった。

すると何もなかった顔に口ができ、喋り出す。


「ア…ア…コロ…ス…ゼ…ゼノ?…コロス…コロス…?」

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