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第60話 神と神

《ゼノデウス視点》


「…来たか」


私は神剣クラルスに魔力を注いで冥界の魔素を浄化しながら、竜騎士を肉弾戦のみで倒し、こちらに向かってくるレモウラを見る。

奴は仮にも最高神だった男だ、竜騎士では相手にならないようだな。

レモウラがビルの屋上に到達し、私の前へと来る。その表情には憎悪が滲み出ている。


「お前もしつこい男だな。レモウラ、今貴様に構っている暇はないんだが」


「黙れ、ゼノデウス……!」


レモウラの声は低く、だが確かな怒りと呪詛を含んでいた。

彼の周囲に渦巻く黒い魔力が、屋上の空気を歪ませる。


「創造神からの赦しで冥界へ行かせて貰ったというのに、貴様は恩を仇で返すのか」


「黙れ…!そもそもあのような薄汚い冥界に俺を送ること事態が間違っているのだ!!」


「その割には随分と冥界を利用しているようじゃないか。実は気に入ってるんじゃないか?」


私はくつくつと笑う。レモウラが表情に憤怒を浮かべると、ふと無表情になり平原の方の方へ顔を向けた。


「…あの者らが敗れたのか」


「あの者ら…?」


「…魔王を討伐した勇者パーティーだ。冥界で浄化することもできず彷徨っていたから使ってやったが…そうか、すると相手をさせていた奴らがこちらにやってくるな」


レモウラが手を掲げた。すると上空に魔法陣が現れ、このビル周辺にアンデッドが続々と現れ始めた。

その中には竜の生きる屍やアンデッドの中でも上位であるリッチまでいる。大したアンデッドがいないとは思っていたが、こっちが本命だったか…


「これで多少は時間稼ぎにもなるだろう。そして、お前だ」


(冷静になったか…)


レモウラが光と闇が混じる魔力を放出しながら接近してくる。私は肉弾戦で応戦する。

拳と拳がぶつかり合うたび、周囲の空気が爆ぜた。ビルの屋上の床が軋み、コンクリートが砕け、衝突で閃光が奔る。

私は身を翻しながらレモウラの拳を避け、逆に膝を蹴り上げた。

だが奴は寸前で身をずらし、肘を返して私の肩を打つ。その衝撃で一瞬だけ視界が揺れた。


「自堕落だった神とは思えん動きだな。冥界で鍛え直してきたか?」


「冥界で得たのは力じゃない、“理解”だ。怒りも、憎しみも、力に変える術を」


「何が憎しみだ阿呆め。自業自得という言葉を知らんのか貴様は」


「フン…何でも良い。俺はお前さえ殺せれば良いのだから」


(ちっ、魔力を神剣に注ぎながらこいつと戦うのはさすがに厳しいな)


拳を交えるたび、私の神経は軋むように張り詰めていく。レモウラの肉体には、呪詛に近い闇と神の力である光が混じった異質な魔力が流れていた。

しばらく拳と蹴りを打ち合うと、レモウラが止まる。


「やはり、創造神の最高傑作とまで言われた貴様には、この程度じゃ無理か」


そう言うと、レモウラは異空間に手を突っ込み、黒い宝玉を取り出した。

そしてその宝玉を握り割った、すると中から黒い液体が溢れ出し、レモウラの口に入り込んでいく。

レモウラの体が一瞬、びくりと痙攣した。

その直後、爆発的な闇が、レモウラの肉体から吹き出した。


「…これは」


私がわずかに目を細めた瞬間、レモウラの気配が激変する。

わずかにあった神の力である光が消え去り、闇の魔力が膨れ上がる。

その密度と質量が屋上の空気を圧し潰すように変質させていく。


「これが、力だ」


低く、凶悪な声。

レモウラの皮膚は黒く変色し、髪は逆立ち、目も漆黒に染まっている。


「冥界の魔素を、凝縮させて集めたものか…? 無理に魂の格を上げたら存在そのものが消滅するぞ。レモウラよ」


「構わないとも、ゼノデウス。お前を殺せればな」


レモウラの拳が振るわれる。それは風圧ではなく、空間そのものを抉る一撃だった。私は寸前で受け止める。

だが衝撃が私の胸を打ち、後方へ吹き飛ばされた。私は神剣を手放さないために握りしめる。

すると、既にレモウラが目の前で拳を振っていた。


「しまっ…」


すると、レモウラの顔面に風の刃が直撃して拳が止まる。傷は付かないが、レモウラの注意がそちらに向かう。

そこには、ヒロキの眷属で虫人のカイがいた。私は叫ぶ。


「馬鹿者!!お前が戦えるレベルの敵じゃない!逃げろ!!」


「さすがに、殺されそうな仲間を見殺しになんてしませんよ」


「フン…ゼノデウスの仲間か。それは良い、貴様の前で殺してやる」


レモウラが雷光の如き速さでカイに接近する、カイはそれに対応して攻撃を避ける。カイも短剣から風の刃を放つが、レモウラは片手を払って簡単に消滅させる。

虫人であるカイの速さは確かに頭一つ抜けている…が、元最高神であり、強化をしているレモウラには及ばない。


カイとレモウラの激しい応戦を目で追う。レモウラはあえて急所を外して傷をつけ、明らかに弄んでいる。

すると、無数の黒い針が空中でカイを囲んだ。


「遊びはここまでだ。羽虫」


私は即座にレモウラへ接近して蹴りを放つ。レモウラの体が軽く仰け反り、黒い針が消え去った。


「どけ!!」


レモウラが掌を向けて、膨大な魔力の放出により衝撃を与えてくる。私はビルの屋上に叩きつけられた。

コンクリートが砕け、粉塵が舞い上がる中、私は肩を押さえながら立ち上がった。

視線を前に向けると、レモウラはすでにカイの首を掴んでいた。

そして、レモウラはこちらに顔を向ける。


「見ていろ。お前が守ろうとした者が、無惨に殺される姿を」


「貴様…」



「誰の眷属を、殺そうとしてんだお前は」


突如、カイを掴んでいたレモウラの腕が灰色の手に掴まれた。レモウラの腕が握りしめられ、潰れる。

そしてカイが解放された。


「ぐっ…!」


「ゲホッゲホッ…ヒロキ様!!」


「遠くに逃げろ。お前もだ、ゼノデウス」


「あ、ああ」


久々に見たヒロキは、以前よりも魂の格が上がり、威圧感が増していた。

引き締まった肉体には魔力が満ち、周囲に歪んだ魔力の渦が形成されていた。


「ほう…悪魔か。相変わらず趣味の悪い姿の者しかおらんな」


レモウラが冷笑を浮かべながら、潰された腕を再生させる。ヒロキは一歩、また一歩と歩を進めレモウラに接近する。

片手には死の気配がする漆黒の剣が握られている。おそらくは、冥王の剣だろう。

そして、ヒロキの顔は怒りに満ちていた。


「殺してやる」

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