果てが見えない白い世界……静かな空間に人間がふたり。
何が起きたのかわからず戸惑うスーツ姿の女性と、上下揃いのジャージを着ているやる気のなさそうな顔をした男はボサボサの頭を搔いてあくびをしている。
「な、なにここ……私確か営業先のビルに入ったはず……え……えぇ……?」
オロオロとする女性に反して、状況を理解しているかの如く冷静な男。
ひとりで騒いでいる女性に対して苛立ち、貧乏ゆすりをして、舌打ちをして……
「うるせぇなぁ死んだわけじゃねぇんだからピーピーわめいてんじゃねぇよブス。」
「な、なんてこと言うのよ?!」
口喧嘩が始まり、お互いに罵り合い、罵倒しあう男女。
「大体、急にこんなとこにいるってなったら定番があんだろーが!知らねぇのか!」
「て、定番ってなによ?こんなこと現実であり得ないじゃない!」
「……はぁ、クッソだりぃ……もういいわ。黙って待ってろ。」
「な、なんなのよ……!!」
数分か、数時間か。
何も起きないまま時間だけが過ぎていく……さすがにしびれを切らし、男が叫ぶ。
「いつまで待たせやがる!とっとと済ませたらどうだ!!」
「なに叫んでんのよ……キんモー。」
退屈そうに座り込む女性は、男の奇妙な行動に軽蔑の目を向けている。
男がしつこく見つめる先、何もないはずの空間が歪み始めた。
「人間よ、選ばれたことを光栄に思いなさい。これから歩み生きる世界に足を踏み入れれば、今この時、少しばかりの待ち時間など苦ではなくなるでしょう。」
「神だか女神だかどうでもいいけどよ、さっさとしろよ。この女と一緒なのもうざってえ。」
空間からジワリと姿を現した巨大な上半身は、美しい金髪で優しい女の顔をし、勇ましい男の胸板を持ち合わせた異質なもの。昨今はトランスジェンダー等話題に上がるようになり、奇異な目で見ることも少なくなったが、ふたりの前に現れた男が言う『神』、という存在はあまりにも巨大であり、話す声も男女とも言い難い異様な響きをして耳に入ってくる。
「……いいでしょう。ある程度状況を飲み込んでいるようですね
「は、はぁ?何言ってんの……?意味わからないんだけ――」
「うるせぇぞ女、今は俺がこいつと話してんだろーが。黙ってみてろ」
女性の言葉を遮り、
「俺が望むのは『例外なくすべてを破壊する力』だな……ついでに与えた力のキャンセルは無効ってことにしてくれ。できるだろーな?」
「……問題ありません。」
巨大な口から息を吐き、
「お前の番だ。」
勝手に仕切られていることに女性は不満そうだったが、自分が置かれた状況の説明を求めてから、もう戻れないことを知り、自分の望みを決める。
「も、もう仕方ないわよね……だったら私『守護の力』が欲しいわ!これならなにかあっても守られそうだし、大丈夫そう!」
「……わかりました。」
同じように、女性に向かって息を吐いた。
それを聞いていた
「浅ぇんだよなぁ……」
バチンッと弾ける音がして、女性の右腕が飛び、血しぶきが白い床を染める。それと同時に女性を包んでいた神の息吹も消える。
「ひっ……イギャァッァァア!!い、いだいいたいいたいあいだいいあああああ」
「あなたは何を……!」
「おまえがよこした力を使ってみただけだろ。なに驚いてんだよ。」
スタスタと歩き、吹っ飛んだ女性の右腕を拾ってポンポンと投げながらのたうち回る女性の横に立つ。
「ひぃ……ひぃぅ……はぁはぁはぁ……うーうっぅ……」
「あーららかわいそうになぁ……もうまともに望みも言えそうにねぇなぁ?俺が代わりに、お前の為になるような能力をつけてやるよ。」
思いもよらない行動にでる
「……仕方ありません。同じ世界で生きる同志。望みを言いなさい。」
「この女には……『例外なくすべてを作り、生み出す力』だ。」
多量の出血に意識を持っていかれそうになっている女性に向かって、『神』は息を吹きかける。まとわりついたその風は、エメラルド色に輝き、体に吸い込まれていく。
「おい、女。腕が欲しいって念じてみな。」
「ふぅーー……ふぅーーー……ぁぁ……」
吹き飛ばされた右腕からグジュグジュと音をさせて新しい腕が生えた。痛みも無くなったのか、女性は上半身を起こして
「あんたなんてことすんのよ!!死ぬところだったじゃない!!」
「おいおい、俺が力を指定しなかったら死んでたんだぞ?感謝してほしいくらいだが?」
睨んでくる女性をニヤニヤと嘗め回すように全身のパーツをひとつひとつ確認していく
「なぁ『神』さんよぉ。こいつと俺は同志っつったよなぁ?」
「はい。あなたがたは同志。我の世界に光を与える者たちです。」
「ふーん、ならいいか。」
ブチッ!バツンッ!バンッ!ビシャッ――
と、肉と骨が引きちぎれる音と共に、再び女性は体中から血を吹き出して床に転がった。
「ぎゃああああ!!!な、なんでこんなことすのよおおおおお!!ああああああ!!!」
女性は再び念じ、弾け飛ばされた手足や乳房を作り出そうとする。が、再生する前にまた破壊される。
「おいおい、勝手に作ってんじゃねぇよ。俺たちは同志だっつうじゃねぇか。どうせなら仲良くしてぇよな?」
「ひゅー……ひゅー……」
「……俺の言う通りに体を作り直せ。」
冷たく言い放ち、肉の弾ける音と血が飛び散る音が白い空間に響く……何度も、何度も。
「ちがうだろ、やり直しだ。ほらほら、言うこと聞きゃすぐおわんぞ?」
「うっ……うううぁぁ!!こ、の……クズ野郎……ぉお!!」
「名前覚えんのはあとでいーんだよ。ほぉれ。」
言う通りに再生できなかった体のパーツを破壊し続け、
「はぁはぁはぁ……こ、これで……お、わり?」
「ん-……まぁこんなもんだろ。」
作り直しの繰り返しで女性の着ていた服は無くなっており、全裸の状態で座り込んでいる。
スーツ姿の普通のOLだった女性の面影はなく、
片手では収まることのないほどの豊満な胸に、張りのある大きな尻。そして、柔らかく太い太ももに、少し青白い皮膚。セミロングだった髪の毛は長髪になり、色も黒ではなく銀色に。瞳の色は赤色へ……別人に変わってしまった。
相当な痛みだったのは間違いなく、血の色の涙を流しながら秘部を必死に隠している。
「いい女になったじゃねぇの。」
「ちょっと……せめて服はきてもいいでしょ?!」
「んなこと許してねぇぞ。めんどくせぇな……あぁ、こうすりゃいいのか。」
「はぁ?まだなんかす……ォァッ」
ガクンっと頭を上下に揺らし、そのまま血だまりにだらんと、力なく顔を埋めて倒れる女性。
「あなたは……なんということを……」
「あ?頬染めてよだれ垂らして、だらしねぇ顔して黙って見てたやつがなに言ってんだ。とっとと送り出せよ。」
『神』は先程とは違う吐息を吐き、空間に裂け目を作る。女の髪を掴み、引きずりながら、
「いってらっしゃい同志たち。」
「お前みてぇな気持ち悪い性癖持ってる『神』もどきと一緒にすんじゃねぇよ、きしょくわりぃな……」
最後まで『神』に対して辛辣な態度をとり、白い空間から消えていった。
「あぁ……退屈な世界に光あれ……」
ゾクゾクと興奮しながら、白い空間を染めている血だまりをビチャビチャと音を立てて舐めとり、『神』は同志に祝福の言葉を捧げて送り出す。