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第14話はっちゃめっちゃファミリー②

「すまないイザーク、こんなつもりじゃなかったんだ」


「えーと……個性的なご家族ですね?」


「疑問形は要らない、うちの兄弟も私をまともと換算するなら、まともアホアホアホまとものアホ三コンボにイザークが加わって、ようやくまともバランスの均衡が保たれるんだ」


(あと二人アホがいるんだ……いやまともも居るんだって思おう)


 敢えてイザークはファランギーヌをどちらにも計算しなかった。まとも勢が不利になる。


「そういえば、専門機関の方はまだいらっしゃるんですよね?」

「あぁ、起きて食事をとったらまた専門機関の方の質問責め……異世界インタビューの予定だ」


 それがチューニビックの突撃からのファランギーヌの華々しい登場で、怒涛の展開劇が起きてしまったわけだ。


「漫画とかで埋もれてたんですけど、僕――私の一番の異世界みやげはこのスマホだと思うんです」

「そういえば、それで時間を見ていたね。しゃしん?と今の日本の時計だと思ったんだが」


 イザークはスマホを取り出した。充電は半分だ。

 音楽アプリを押して、ダウンロード済の音楽を選択。ダウンロードしてあるので、オフラインでも聞ける。


 流れてきた音楽に、ハイドロイドとアベルが飛び上がった。


「これは……こんな板に音楽が?」

「しかも何百何千と入るんです。あとは動画も、漫画も」

「なんだって?!」


 イザークはお気に入りの海外ドラマやアニメを一部ダウンロード保存している。指で操作するイザークを、ハイドロイドたちは驚きの顔で見つめていた。


 適当にドラマを押すと、画面でしゃべって動く人々に二人は釘付けだ。


「これは……!すぐにでも専門機関の方々にお見せしなければ!」


 踵を返したハイドロイドに、イザークとアベルは慌てて追いかけた。

 予定外の客が来てメイドたちがバタついていたようだが、ハイドロイドの姿を見ると一斉に廊下の隅に退いていく。


 専門機関の人々がいる部屋はすぐにわかった。漫画への熱い討論と、コンビニパンの包装紙の正体について喧々諤々と喋っているのが漏れ聞こえている。


「失礼します、皆様。イザークから重大なお知らせが」


 楕円テーブルから5人が勢いよく立ち上がってイザークを歓迎した。一人座っているピンクブロンドの髪の青年は、昨日の料理大盛り上がりの中でも一人だけ感想を挟まなかった人物だ。それでもその目は興味深げにイザークを見ている。

 ハイドロイドに促されて、イザークは先程同様にスマホを操作してみせた。

 豪邸に大歓喜の声があがって、近隣の貴族家はドッキリさせられた。


「あの、私には絵の才能も、詳しく説明できる技術もないので、これで日本や海外の建物とか文化とか……あとはアニメも参考になるかな、と」


「大変素晴らしいです!!使徒様、あにめとはあの伝説の?!」


「漫画に声と動きがついてるんです。それぞれプロが監督して、音楽や効果音がついているんです」


 イザークは異世界ものを避けて、現代日本の学園アニメを再生する。

 狭い画面に、専門機関の人々が密接して食いついていた。誰かに持つのを変わって欲しかったが、壊れそうで触れないと拒否される。


「オーーーッホホホ!!光栄に思いなさい、あなたの姉になる、この、ワタクシ、こ・の・姉上が!わざわざ!お茶を!入れて差しあげてよ!!」


 唐突にチューニビックを彷彿とさせる登場をしたのは、オフショルダードレスの女性だった。

 持っていた巨大なティーポットからお茶を零し、そのまま廊下を派手に横転したところで、すかさずハイドロイドが開いたドアを閉じて施錠する。


(これが残るアホの二人のうちの一人……) 


 驚くべきことに、今のドタバタは専門機関の皆様には届かなかったらしい。全員が画面から1mmも顔を逸らすことなく、見入っている。


「ちょっと!お兄様?!!何故閉めたんですの?!ワタクシよ、エランソニアですわよ!!まだ新しい弟に挨拶してませんのよ!!」


「さっき済んだから大丈夫だ。私が保証する。いいから着替えてきなさい」


 アベルは厚紙を折り曲げていて、即興でスマホスタンドを作ってくれていた。イザークの意図を組み、見たことの無いものへの対応力といい、出来る侍従だ。そんなアベルも、エランソニアと名乗ったお茶滑り令嬢に関心は無さそうである。


 アベルが作ったスマホスタンドによって、イザークの両手が解放された。どこからか引っ張りだされたお値段の高そうな本が、急遽スタンドの台座にされる。


 イザークのスマホはテーブルに鎮座され、専門機関の後ろにハイドロイドと並んで座って、イザークが説明することになった。

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