何なんだよ、この男・・・!
俺は今までに何度思ったことだろう。セックスの時の嗣にぃは、いつも大いに狂っているが、今日も相変わらず変なスイッチが入ってる。
車内からしてそうだったと思うし、お仕置きとかこのホテルとか、変な機械だって・・・挙げ句の果てにはそれを自分で挿れろとか言うし。AV消してほしいしな?!
俺と結婚式をあげてから、可哀想なほど、狂ってる。それに付き合い続ける俺もやはりアレだけど。
痛みと気持ちよさが表裏一体の刺激ばっかりを与えられた乳首はいつもよりジンジンしてるし、嗣にぃの指と自分の指で押し込んだ機械が、俺の中でまだ蠢いている。早くこれも抜いてしまいたいのに、嗣にぃはそれを許してくれず、抜かれたのはお互いの指だけだ。
人では出せない動きに、中がずっと反応し続けてきついし、見られるのだって相当恥ずかしい。ただ、ずーっと嗣にぃは楽しそうに微笑んでいるーーいや、これは、ニヤけてるって言うのかな・・・顔が良すぎて判別がつかないーーし、その顔が変に格好良いものだから、許してしまうし言うことを聞いてしまう。・・・うん、やっぱり俺も大概アレなんだろうな。
しかし、このあまりな狂いっぷりは俺が嗣にぃを好きでなきゃ、おまわりさんを呼ぶレベルじゃなかろうか。奥さん役だからって度を越しているような・・・でも奥さんだったら普通にセックスはするか・・・いや、でも・・・?
イった後だからか、体内に熱を感じつつも、頭はの中には変に冷静な部分があって、つまらないことを考えだしていた。
これって正常?異常?
嗣にぃは何でこんなことするの?
俺の身体の反応がおもしろおかしいから?
ぼろぼろと疑問があふれてきて止まらない。
ああ、混乱する。俺は嗣にぃを好きだけど・・・聞く勇気もないのだから、今を享受して、どうにか進展させるしかないのに。
「・・・何か考え事をしてる?随分と余裕だね、ゆうくん」
「あ・・・、そういうわけ、じゃ・・・っあ、ああっ」
ぐるぐると思考を巡らせていたら、嗣にぃがそんな風に言いながら、俺の中から機械を一気に引き抜いた。思わず俺は声を上げてしまう。そんな俺を見て、嗣にぃは笑みを深めた。
そのまま、俺は足を掴まれて身体をベッドへと引き倒される。俺の足の間に入り込んだ嗣にぃは、伸し掛かってきた。
「下のお口、何もなくなったから寂しいよね?僕のでいっぱいにしてあげるからね」
馬鹿なセリフもこの顔で言われると響きが違う気がするな、とか冷静さと熱とが混ざる頭でぼけっと見上げていたら、ぐにゅっと粘液のある液体が俺の中に注がれた。どうやら使い捨てのパウチ型ローションのようだった。
手際よくコンドームを装着すると、嗣にぃは俺の片足を抱え込み、自分のものを俺の入り口へとあてがう。
「あっ、まって、・・・っあああ、あああっ」
それは躊躇うことなく、俺の中に入ってきた。どん、と奥の方まで一気に貫かれる。中は先程達したばかりで、熱がおさまっておらず、硬いものが弱いところを一気に擦っていった衝撃に、俺はまた、イってしまってた。
縋りつこうにも、嗣にぃは遠く、仕方なく俺は首元に残ったままの服をぎゅっと握り目を瞑る。
何度経験しても挿れられた直後は苦しいし、今は中が敏感になりすぎていて、二度も間近で達すれば快感を通り越して辛い。出来れば、少しの間動かずにいて欲しかった。
「ね、ぇ、待って・・・っ、つぐに、ぃ・・・まってぇ・・・あぅっ」
でも嗣にぃは俺の声を聞いてくれる気もないようで、根本もまで埋めたものを引き抜き、また力強く打ちつけてくる。俺は突かれるたびに、嗣にぃ嗣にぃ、と名を呼んでいた気がするけれど、途中から何が何だかわからなくなっていた。
見上げる嗣にぃは、俺がその名を呼ぶ度に微笑んでいて、この世の生き物とは思えないほど本当に綺麗だった。
「く、ぅっ、あ、あ、あ、あっ・・・ひぃ、ぅ・・・っ!」
一方俺といえば、角度を変えたりしながら、良い所も狙ってくる質量感のある突きに徹底的に善がらされていた。嗣にぃは興奮しているのか、腰を止めることはなく、傍若無人に俺を攻めあげてくる。
「あうっ・・・やああ、あ、や、やさし、くするって、ぃ、いった、のに・・・っ」
そうだ。嗣にぃは車の中で「優しくいっぱい」と言ったはずなのに。これじゃあ話が全然違うじゃないか。喘ぐ中で俺がそう言うと、張本人はくすっと笑って、中に硬いものを残したまま身体を動かすと、俺の身体を足首が頭につくぐらいに折り曲げる。俺は快感に追い詰められていて、なすがままだ。
「後でたくさん優しくしてあげるよ?でもほら、ゆうくん・・・」
言葉を切った直後、悦んでるくせに、と繋いだ声と共に、嗣にぃ長くて硬くて太いそれが真上からどちゅん、と俺の最奥まで落とされる。
「ひ、ぃ・・・っい、い、あ、ああっ・・・!!!」
多分、俺は達したのだと思う。その衝撃は凄まじく、ぱん、と目の前に星が散ったような感覚だ。取らされた体勢のせいで背中をそらすこともできず、頭をシーツに押し付けることしか許されなかった。そんな風に、俺の中を嗣にぃがどんどんと荒らしていく。身体を揺らされ、涙でぼやける視界の向こうに、髪をかきあげる嗣にぃが見えた。ボタンの外されたシャツの間から見える男らしい首筋も、捲られた袖から見える腕も、全部があだめかしい。
ぐちゃぐちゃになる思考の中で、この男が好きだな、と思う。俺のものになればいいのに・・・。俺があさだったら良かったのに・・・ああ、違うな。俺が女であさが男なら良かったのかな。それとも姉妹だったら良かった?
せめて女の子であれば、嗣にぃだってすんなりと手に入ったかもしれない。俺が仮に女の子だったら、これだけセックスを繰り返していれば妊娠だってしてたかもしれない・・・。男でも妊娠できればいいのに。俺に子供が出来ればいいのに・・・そんな馬鹿なことを考えていたせいか、
「あ、あふっ・・・、あ、つぐに、ぃ・・・つぐにぃの、だして・・・精子、中にだして、ぇ・・・っ、いっぱい、ちょうだい・・・」
嗣にぃが目を見開き、俺を見た。
「ゆうくん・・・っ」
赤ちゃん欲しいよ・・・、と言った声の後半は嗣にぃのキスで塞がれる。
欲しかったキスが貰えて、体勢の苦しさなど忘れ、俺も自分から舌を差し出して絡めていた。
その台詞がきっかけだったのか、えらく興奮した嗣にぃは俺のことを、抱いて抱いて抱きまくった。そんなに勃起ってすんの?射精ってそんなできるの?ってくらいに抱かれた。俺も意味がわからないくらいに喘いだし、中でも達した。やばい本当に、俺の体内構造、おかしくなりすぎだろ。最後は一回突かれるごとにイってた気さえする。射精も何回かしたと思うけど、二回目以降は量もそんなに出なかった。
多分だけど、嗣にぃの使ったコンドームの量は歴代一位ではないだろうか・・・。なんか途中で嗣にぃ、買ってた気がする。備え付けは二個くらいしかなかったからかもしれないけど。
・・・セックスって本当に体力勝負すぎる・・・。
※
「ゆうくん、大丈夫?」
さて、アホみたいに盛られたーー俺も盛ったことになるのかな、これーー後は、バスタイムだった。手も足も動かす気力のない俺は、嗣にぃに抱かれて浴槽の中にいる。ジャグジーがぶくぶくと泡立っているのを、腕の中からぼんやりと眺めていた。いや、もうさ。無理、歩くのも無理。これ、明日とか大丈夫なのかな、俺。幸いにも休日だけども。
「・・・大丈夫に見えるなら、嗣にぃは老眼・・・」
「え、ちょっと・・・奥さんが辛辣すぎる・・・」
なーにが、だ。こっちは疲労困憊だっての。後ろから俺をぎゅっと抱きしめながら嗣にぃは、ごめんね、と繰り返した。俺は小さくため息をつき、もういいよ・・・、と返すと嗣にぃが濡れた俺の髪にキスを落とす。
「ねぇ、ゆうくん」
「・・・・・・なに・・・・・・?」
俺の身体を湯の中で動かして横抱きにする。されるに任せて、その腕に身体を預けたまま、俺は呼ばれたことに首を傾げた。
「ゆうくん、僕の子供、欲しいの?」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
なんて?え、なんて?嗣にぃ、やはり頭が・・・。
なんて考えたところで、散々とやりまくった先ほどを思い出した。
俺言ったわ!アホなこと言ったわ!あーーーーーー!なんでーーーーーーー!いや、てかさ?!あんなことの最中に言ったこと、拾わないで・・・!
これ、何て答えていいやつ?!わからん!わからんぞっ!
俺は顔を背けながら、必死に考える。嗣にぃは、そんな俺の頬に口付けてきた。ゆうくん?と問いかけが続く。
「・・・お、俺・・・男だから、できない、よ・・・・・・」
何とか絞り出した答えは、それだった。これだけ俺を抱いている嗣にぃにもそんなことはわかり切ってるだろうし、当たり前のことだ。どんなに励もうと俺には出来ない。・・・なんか、これを考え出すと、胸の奥がちょっとモヤモヤする。
俺はちらりと嗣にぃを見上げながら、
「・・・・・・嗣にぃは、欲しいの・・・子供・・・」
と問い返し・・・た後に、後悔する。
しまった、聞くんじゃなかった。これで「そうだね、子供は必要だね」とか言われたらアウトじゃん。完全にアウトじゃん。俺じゃ無理な話じゃないか。
馬鹿すぎる・・・。墓穴掘りすぎだろ。
けれど嗣にぃは、俺をもう一度ぎゅっと抱きしめて笑った。
「ゆうくんがいれば、いいよ、僕は」
「・・・え?」
俺は目を瞬かせた。
どういう意味だろうか、それは。・・・その言い方だと、俺は好かれているのだと勘違いしそうなんだけど。
え、もしかして嗣にぃって俺のこと好き・・・ってこと?
・・・・・・いやいやいや。都合が良すぎるか、それは流石に。でもこれだけ身体も重ねてるし、少しくらいは好きでもおかしくないと思うのは、俺の勝手なのかな。
「ゆうくん、一人がいれば、僕は充分だよ」
もう一度、俺は目を瞬かせる。言ってる意味がわかっているのだろうか、嗣にぃは。さっきの今だし、IQが低いままでは・・・?
じっと嗣にぃを見つめる俺に、どうしたの、と苦笑を零した。
どうしたもこうしたも、ねぇ・・・告白みたいじゃね?今の。この顔でそんな顔言われたら、普通の女の子はまず勘違いすると思う。
長年見てきたこの俺だって、今、グラついてる。グラつかないはずもねーわ、こんなの。
「・・・俺も、嗣にぃがいればいいよ・・・」
だから、俺もそう返してみた。嗣にぃは、にっこりと微笑みながら、俺の頬へと口付ける。
「いい奥さんだなあ」
そんなこと言って、ちゅ、ちゅ、と俺の頬や目元にキスを繰り返す。
奥さん。奥さんか。・・・俺って奥さん役なんだな、やっぱ。
俺自身がいればいいのか、奥さん役がいればいいのか・・・これ以上聞く勇気なんか既に残ってない。気力もない。とりあえず、嫌われていないだろうし、好き寄りにはなるのかもしれない。
嬉しいような、切ないような気持ちになりつつ、俺はそのまま身体の力を抜いて、温かい湯船の中、嗣にぃの肩に頭を預けた。