毎日の労働も、自宅で可愛い新妻が待っていると思えば、頑張れる。
そりゃあ、正直なところ、ずっと一緒に居たい。けれどゆうくんを養うのは夫である僕の特権だ。誰にも譲れない。僕が稼いだものでゆうくんを生かせるかと思うと、キーボードを打つ手も弾む。
しかも、だ。僕の可愛い新妻は、
『中に出して・・・赤ちゃんが欲しい』
なんて可愛いこと言ってくる。それを聞いた瞬間、色々と弾けた。それはもう見事に、だ。その後はゆうくんの反応が薄くなるまで抱いていたし。
ギリギリ、中で出すことを控えた僕は相当に偉いのではないだろうか。
そのうち絶対にさせてもらうけれど。
それにしても、どうしてあんなに可愛い子が僕の子を孕めないのだろう・・・?不思議でならない。
神様とやらが僕らに与えた試練なのかもしれない。
と言っても、僕自身子供を持つことに大して執着はない。あーちゃんが相手だと思っていた頃はそれなりに未来設計をしてはいたが、その時もいないパターンは考えていた。
その辺はおいおい二人で話していけば良い問題だ。動物可のマンションだし、動物を飼うのもいいかもしれない。犬なら、ゆうくんを連れて散歩も楽しめる。
ゆうくんがいると、毎日が本当に楽しい。こんなに世界は輝いていたのか・・・と朝日を見て思うほどだ。
と、色々考えながら残務処理を終わらせて帰宅準備をしていたら鼻歌が出ていたらしい。
「いくら終業とはいえ、浮かれすぎだ」
立ち上がった大濠くんから声をかけられた。
最近は恋人と仲良くやっているようで、表情が穏やかだ。だから女子社員からもよく声をかけられている。そうそう。大濠くんはしかめ面でないと、とても格好良い男なのだ。いつもその表情であれば、皆もとっつきやすいのだろうに。
そうは言っても、同棲してからすぐは価値観の違いを擦り合わせていくのが大変だったのかもしれない。時間も経って、大濠くんのところも落ち着いたのだろう。・・・そういえば、ゆうくんと暮らし始めて既に短くない時間が経っているが、生活面での喧嘩はしたことがない。
ゆうくんが気を遣ってくれているのだろうなぁ・・・、ああ、なんて素晴らしい奥さんなんだろう。生涯大事にしよう。おじいちゃんになったゆうくんも可愛いだろうなぁ。
僕も彼に倣って立ち上がりつつ、その背中を軽く叩く。
「君だって帰って可愛い人が自宅で待ってるんでしょう?浮かれない?」
「・・・フン・・・まあ、な・・・」
大濠くんは赤くなり、そっぽを向いた。うっわ、レア・・・。こんな大濠くん初めて見るかもしれない。大濠くんのところもお熱いね、と茶化したら咳払いを一つされる。
「ほっとけ。お前、相手はまだ若いんだから無理をさせるなよ」
色んな意味を含めての諫言を僕にしてから、大濠くんは歩き出した。僕もその後を追って歩き出す。
痛いところをついてくるなぁ・・・確かに僕は未だにゆうくんの魅力から抜け出せず、狂った猿かな?ってくらいに励んでしまっている。今までの女性とはこんなことが皆無だったので、ここまで盛れる自身には驚愕しかない。先日、ゆうくんを連れ込んだホテルでは史上最高記録を樹立したのではなかろうか。そもそもゆうくん以外には淡白であったように思う。他の女性は一度抱けば事足りていた。それが、まあ・・・しかし、ゆうくんは男の子だ。本来はそういう使い方をする場所ではないので、少し控えないととは考えていた。いくら何でも毎日に近い頻度はまずいかもしれないので、頑張って減らそう。不本意ではあるけれど。
※
大濠くんと会社の前で別れて、少しも歩けば自宅のマンションだ。
オートロックのガラス戸を潜り、挨拶をしてくるコンシェルジュに会釈を返す。エレベーターに乗る前からゆうくんの顔を思い浮かべると心が躍った。
27歳にして、恋してるなぁ・・・僕は。都度都度、それらしいことはゆうくんに告げているけれど、そろそろ段取りをしてちゃんと伝えなければね。
玄関のドアを開けると、そこには出迎えてくれるゆうくんがいた。
「おかえり、嗣にぃ・・・」
少し恥じらうように僕を見上げるゆうくんの姿は、柔らかい素材のロング丈ワンピースで、オープンショルダーからは肌がチラリと覗いている。薄いブルーの地に灰色で描かれた花柄が、何とも清楚だ。髪型も櫛を入れただけのようだが、最近伸びてきた髪がより一層、女の子さを引き立たせていた。
僕は片手で抱き寄せて、ゆうくんの唇の端にキスをする。
「ただいま、奥さん。どうしたの?今日は」
「ん・・・奥さんだから、こういう格好も必要かなって、思って・・・」
キスをした僕へとゆうくんが、触れるようなキスを返してくれた。胸が、ぎゅん、っと高鳴る。気遣いがエベレスト級。
・・・今すぐ押し倒してスカート捲って可愛い声を聞きたいな・・・?え、そうしたいな?
・・・・・・・・・いやいやいや!さっきこそ僕は控えようとか考えていただろう?!耐えろ、桐月久嗣よ。耐えるんだ・・・!ゆうくんに気付かれないように深呼吸をして、笑顔を整える。
「せっかくだし、デートにでも行こうか。お茶をして・・・買い物して。閉店まであまり時間がないかもしれないけど、どう?」
もう一度キスをすると、ゆうくんは小さく頷いた。それでも「バレないかな・・・?」と不安がったので、簡単にメイクを施すことにした。
元々はあーちゃんが選んで置いてあったものだ。新品で取り揃えていたので問題はないだろう。とは言っても、肌が綺麗なのでファンデーションも必要がない。ラメの入ったルースパウダーとチークのみでいい。
グロスリップを塗って完成だが、あまりにぷるんとした唇に我慢がきかず、貪ってしまった。長くゆうくんの舌を味わった後に、ゆうくんは僕の胸を抗議で緩く叩く。・・・襲わなかった僕は本当に、偉いと思う。
リップを塗り直すと、美少女の出来上がりだ。元が良いので、ポイントメイクだけでも随分と映える。
僕が多少化粧が出来る理由は、なんてことはない。高校の文化祭や大学の学園祭で必ず出る女装の輩を少しでも綺麗にすると言うくだらない理由で学んだ代物だ。もうちょっとちゃんと学んで、ゆうくんに化粧を施すのも悪くない。
目茶苦茶可愛くなりそうだ。ゆうくんの頬を撫でて、キスを一つ落とす。
「さあ、出てみようか」
外は日が落ちかかっており、僕が帰宅する時より暗くなっていた。
夏本番を控えた夕方は、もう暑いくらいだ。
隣にいるゆうくんは本当に愛らしい様で、すれ違う男が、ちらとらと見ていく。
僕はその細い腰に手を回して抱き寄せる。
「・・・もう、近いよ・・・嗣にぃ。それに見すぎだってば」
「だってねぇ・・・すれ違う男がゆうくんを見てるんだよ?僕のものって、ちゃんとわかるようにして歩かないと。見ちゃうのも仕方ないと思わない?こんなに可愛いんだから」
強めの力で腰を抱き寄せるとゆうくんは、照れたのか俯く。「ばっかじゃないの・・・」と小声を落とした。
デートはとにかく楽しかった。声を気にしているせいか、口数は少なめだったけれど。オープンカフェで美味しそうに、クリームの乗ったフローズンドリンクを飲んでいた。可愛い。僕にも勧めてくるので、一口もらう。それを返して、ゆうくんがストローに口をつけた時、
「間接キスだね、ゆうくん」
と声をかけると、動きを止めて真っ赤になった。いやぁ、間接キスぐらいで済まないようなことをもうしているのに・・・あああああああ、可愛い。最高だ。
ゆうくんは先ほどと同じように「ばっかじゃないの・・・」と呟いた。知ってるよ。
僕の飲むエスプレッソが欲しいと言うので、それを渡すと、一口目で顰め面になるものだから、笑ってしまった。
「君たち双子は・・・あーちゃんも同じ顔をしていたよ」
面白くて、そう言うと、何とも微妙な表情に変わる。ああ、あーちゃんは未だに家出中だーー母はもう場所を突き止めたが、僕は敢えて聞いていない。元気だと知れれば今はそれで良いーー。僕の気遣いが足りなかったらしい。ごめんね、と頬を撫でると首を横に振った。
あぁ、そういえば・・・出張があるんだよねぇ・・・大事な仕事だから、すっぽかすわけにいかない。話題を変えるついでにそのことを話した。
「一週間?結構長いね・・・でも、うん。子供じゃないし大丈夫だよ。ちゃんとマンションで待ってる」
「そう?事情を話して、お家に帰ってても大丈夫だよ?一人だと心配だし。セキュリティはバッチリだとは思うけどね・・・。あ、桐月の方にいても良いよ?麗華さんがすごく喜ぶと思うけど?」
「え。いや、まあ・・・それはそれで楽しそうだけど、学校が近いし。俺の家は・・・その、マンションだ、し・・・?」
最後の方は少し照れくさそうにゆうくんが言う。そうかそうか。もう僕の家じゃなくて僕達の家という認識でいてくれるのか。なんとも感慨深い。今すぐ抱きしめたかったけれど、TPOを踏まえてぐっと堪えた。
※
堪えた、けれど。
「ん、ふ・・・ぁ、っ・・・つぐに、ぃ・・・っ」
奥さん役用の服やゆうくんの普段着を追加購入して家に帰ると、もう我慢の限界で、玄関に入って扉が閉まるなり、僕は紙袋を適当に放り出して、その扉にゆうくんの身体を押し付け唇を奪う。
舌を捩じ込んで、歯列を舐めてから咥内からゆうくんの舌を絡め取った。唾液を擦り合わせると、ぴちゃぴちゃと水音が漏れた。ゆうくんは僕の肩を弱い力で押す。
「つぐに、ぃ、んっ・・・ここ、玄関・・・っ」
キスの合間にゆうくんの言葉が漏れた。舌を吸い上げてから、顔を離し、どちらのものとも分からない唾液で濡れる唇を舐める。些細な抵抗をするゆうくんへと、
「あんまり大きい声出すと、外に聞こえちゃうかもしれないよ?」
そんな風に言うと、ゆうくんは真っ赤になって僕を睨んだ。え、それ・・・そそるしか効果がないけれど、大丈夫だろうか。
僕の身体全体で、ゆうくんを扉と僕の間に挟みながら、唇から顎、顎から喉元に唇を辿らせる。手では細い腰を撫であげてから、柔らかなスカートをたくし上げた。
「や、やだ・・・っ、嗣にぃ、ちょっと・・・」
たくし上げたスカートの下にあったゆうくんの下肢は、女性用の下着で包まれていた。白地に、同じく白のレースで縁取られた薄手のショーツの下には、形状上、興奮していなくともどうしても布を押し上げる男の子のものがひっそりと隠れている。しかも。しかも、だ!!ゆうくんは今日、履くタイプのストッキングでなくガーターだ!!白いレースで作られたそれで、太腿の上にあるストッキングを止めていた。
えーーーーーー!なんだ、これは。どういうご褒美だろう?え、僕は夢でも見ているのかな?
いやクローゼットの中には適当に選んだ下着も取り揃えていたけれど。まさか!着用してるとは思わなかったよ・・・?!
「ゆうくん、これ・・・」
興奮する声を抑えて取り繕いつつ、僕がゆうくんの顔を覗き見ると、ゆうくんは耳まで真っ赤にした。恥ずかしさからか瞳には涙が滲んでいる。
「あ、あ、だって、そ、そのっ・・・!このワンピース、薄い色だし・・・!俺の下着だと、透けたりして・・・そのっ・・・。ひ、ひかないでよ、嗣にぃ・・・」
たどたどしく説明する様が、またイイ。何だろう、この・・・ゆうくんという生き物は・・・試されてる?僕は忍耐力を試されているのかな?あ、それとも持久力だろうか?何度ゆうくんを抱けるか?みたいな?ホテル以上の新記録を出せと言うことかな?いいよいいよ、全然挑戦しちゃうよ、僕。というか、引く?どうして?
とっ散らかった思考のまま、僕は首を傾げた。
「え、なにが?」
「だ、だって、女の子の下着だし・・・っ!お、おかしいだろ・・・っ?」
ああ、そうか。なるほど。普通はそういう考えなのかもしれないな。僕が女性ものの下着を着けていたらドン引かれそうだしーー自分で考えといてなんだが、絶対に見たくない光景だな、それーーでも、僕のものはゆうくんの姿を見ただけで、がっつりと反応をしていた。引くなんてことはない。
「ふふ、大丈夫だよ。とっても似合ってて可愛いよ。でもここ・・・ちょっと窮屈そうだね。おでかけのとき、意識しちゃったりした?」
まだまだ反応していない、ゆうくんのものを下着の上からふにりと押した。ゆうくんがビクンっと大きく揺れる。指先で鼠蹊部を撫でて、そこから下着の中に指先を潜り込ませて、押した場所を直に触る。
「な、にいって、あんっ・・・やだ、嗣にぃ・・・、するなら、ベッドがいい・・・」
ゆうくんは、僕の肩に額を擦り付けながら言う。
よーーし!禁欲生活は来週からだ!!!
ちなみに、ベッドはまだまだ後でだよ、ゆうくん。